第29話

「は、絆月、取り敢えず、起こしに来てくれたことはありがとうな」


 目覚ましで起きられた、と内心で思いながらも、一応起こしに来てくれたみたいだし、俺はそう言った。

 

「う、うん。気にしないで」


「……それと、その、さっきはごめん。寝ぼけてて、夢だと思ってたんだよ」


 そして、未だに顔を赤くして恥ずかしそうにしている絆月に向かって俺は続けるようにして、謝った。

 絆月は俺のことを好きと言ってくれているけど、これだけ恥ずかしそうにしてるんだし、やっぱり謝った方がいいと思ったから。

 ……実際、寝ぼけてたとはいえ、悪いことをしたと思ってるし。


「ぜ、全然大丈夫だよ。……でも、慎也は夢の中なら私にあんなことするんだ」


「え、あ、い、いや、それは……」


 実際してしまっている訳だし、否定できない。

 ……意識してしまっているのも本当だし。


「ふーん。慎也も昨日のことで私を意識して、私のこと、好きになっちゃった?」


「…………そう、かも」


 正直、自分の気持ちがよく分かってない俺は、情けないことだが曖昧にそう言った。


「えっ……?」


 すると、絆月はせっかく直ってきていた赤くなっていた顔を、ボンッ、といった効果音がなりそうな感じにまた真っ赤にして、俺から顔を逸らしてしまった。

 

「そ、そ、そう、なんだ。あ、あの、朝食、準備してあるから、私、先にリビングに戻ってるね」


 だから、なんでそんな感じなんだよ。……いつも……って言っても、まだ普通に話せるようになってそんなに経ってないけど、それでもいつもはそんな感じじゃないだろ。

 恥ずかしがる様子なんてなく、もっと積極的にぐいぐい来てたじゃないかよ。……俺の逃げ場まで無くしてさ。


 …………二度寝をしようとして、少しいつもより起きる時間が遅くなってしまっているとはいえ、時間が無いわけじゃないし、少し経ってから行くか。

 絆月が作ってくれているという朝食がどんなものかは分からないし、冷めてしまうものの可能性もあるから、出来れば早く行きたいんだけど、今絆月のところに行くのは、ちょっと意識しすぎてやばいかもしれないし。




 そうして、色々と落ち着いてきたのを確認した俺は、部屋を出てリビングに向かった。


「えっと、改めて、おはよう、絆月」


「う、うん。おはよう、慎也」


 まだ多少恥ずかしそうだけど、それでももう大丈夫っぽいな。やっぱり、時間を置いて正解だったな。


「……朝食、貰うな」


「うん」


 ……相変わらず美味しいんだけど、やっぱり会話が弾まない。

 ……いや、よく考えたら会話が弾まないのは再会してからは割と普通か? 


 まぁ、それはいいとして、さっきの俺の言葉はどうなったんだろうな。もしかして、無かったことになったのか? 全然触れられないし。

 そんなことを思いながら、俺は絆月が作ってくれた朝食を食べ進めた。

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