第27話

「絆月、そ、そろそろもういいか?」


 こんな状況で俺も動揺しないわけがなく、時間感覚が正しいかは分からないけど、もう罰ゲームを始めてかなりの時間が経ったと思うから、俺は何も言わずに抱きついてきている絆月に向かってそう言った。


「まだ」


「ま、まだって……も、もう罰ゲームの時間は終わりだろ」


 明確に時間を定めていた訳では無いが、こんなに長い時間罰ゲームをするっていうのはおかしいだろ。

 もう絶対終わりでいいはずだ。


「そんなの、決めてない」


「た、確かに決めてなかったけど、何となく、分かるだろ?」


「分かんないよ。それに、慎也もそんなこと言いながら、嫌な訳では無いでしょ?」


 ……確かに、否定はしないけどさ。

 だって、絆月は自分で言っていた通り、本当にスタイルが良いと思うし、こうやって抱き合っていると、太っている訳では全くないのに柔らかくて気持ちいい絆月の体が強く感じられて……って、俺は何考えてんだよ!? これじゃあ変態じゃないかよ。

 ……いや、こんな状況にしたのは絆月の方だし、どっちかって言うと絆月の方が変態……ってことにもならないか。いくら匂いを嗅いでくるとはいえ、結局こんなことを考えてしまったのは俺自身なんだからな。


「……仮にそうだとしても、もう終わりだって」


 否定しようと思ったのだが、絆月はさっき俺の為にスタイルには気を使ってるって言ってたし、頑張ったものを否定するのはどうかと思ったから、俺は肯定でも否定でも無い言葉を言い放った。


「……なら、後ちょっとだけ」


 ちょっとって、さっきも思ったけど、もうかなりこうしてるだろ。


「……分かったよ。ちょっとだぞ」


 そう思って、早いところ絆月に離れてもらおうとしたのだが、やっぱりやめて、俺はそう言った。

 だって、ちょっとしたら離れてくれるってちゃんと明言してくれたんだし、まぁ、後ちょっとくらいなら大丈夫かな、と思ったんだよ。

 ……そもそも、ここで下手に絆月の提案を断って、絆月がいつもみたいに雰囲気をちょっと……いや、かなり怖い、いつもの感じに変えてきたら嫌だしな。


 そうして、少しすると、本当に絆月は残念そうにしつつだけど、抱きしめるのをやめて離れてくれた。

 ……色々と怖いところはあるけど、約束は守ってくれるんだよな。

 一応、くっつかないって約束も、さっきまでくっついてはいたけど、あれは罰ゲームのせいだし、守ってくれてるってことでいいはずだしな。


「慎也、もう一回、罰ゲームを賭けてゲームしよっか」


「……いや、もうしないよ」


 絆月が強いから、負けるのが怖い、なんて理由では無い。そもそも、次やったら絶対俺が勝つと思うし。


「外を見てみろ。暗くなってきてるだろ? だから、そろそろ帰った方がいいんじゃないか? 隣とはいえ、危ないからな」


 隣に帰るだけなんだし、そこまで言うほどでもないだろうと内心で思いながらも、俺はそう言った。

 普通に恥ずかしいんだよ。

 だって俺、さっきまで絆月と抱き合ってたんだぞ? 今一緒にいるのは色々と意識してしまって恥ずかしいだろ。

 ……俺、別に絆月のことを異性としては好きなわけじゃないはずなんだけどな。


「やだ。まだ帰らないよ」


「……なんでだよ」


「帰らない方がいい気がしたから?」


 何故か首を傾げながら、絆月はそう言ってきた。

 なんで絆月がよく分かってないんだよ。


 


 そして、しばらくすると、絆月は帰っていった。

 別にその間何かをしてたわけじゃない。強いて言うなら、俺が絆月のことを意識してしまっていたくらいだ。 

 何もしないのなら、なんであの時直ぐに帰らなかったんだよ。

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