第25話

 絆月が昔みたいにくっついたりしない、と約束してくれたから、俺は言った通り絆月の隣に移動した。

 

「……それで、結局絆月は何かしたいこととかあるのか?」


 移動したからってくっついてこないのなら何かが変わるわけでもないし、俺は話を戻して、そう聞いた。


「慎也、手、握ってもいい?」


 すると、絆月は綺麗に俺の言葉を無視して、そう聞いてきた。

 ……一応、さっき俺も絆月の言葉を無視したし、お互い様ではある、のか。……文句は言えないな。


「さっきの約束をもう忘れたのか?」


「さっきの約束はくっつかないって話でしょ? 手を握るくらいくっつく内には入らないよ。だから、いいでしょ? 慎也」


 ……そう言われたら、そうか。……それに、体を密着させられるよりは手を握られるだけの方がマシだよな。

 

「……ちなみになんだが、仮に俺と手を繋いだとして、結局絆月は何かしたいこととかあるのか?」


「昔みたいに慎也にくっつきたい」


「……それがダメだって話をさっきしただろ」


「だって、慎也がどうしたいかって聞いてきたから」


 いや、それは確かにそうなんだけど、普通、何かしたいことがあるのなら、それ以外のことを言ってこないか? 


「特にしたいことは何も無いってことでいいか?」


 そう思いつつも、俺はそう聞いた。

 何も無いのなら、考えていた通りゲームでもしようと思って。


「慎也とくっつきたいよ?」


「それ以外で頼む。……何も無いのなら、ゲームでもするか? 一応、機械を持ってるからさ」


「なら、そうする。でも、罰ゲームを賭けよ?」


 罰ゲームって……まぁ、確かに、何も賭けないで勝負をするよりは何かを賭けて勝負をする方が面白いか。


「分かったよ。内容はどうする?」


「勝った方の命令を一つ何でも聞く」


「……変な命令はダメだぞ?」


「うん。わかってるよ。できる範囲で、でしょ?」


「分かってるなら、いいけど」


 普通、こういう注意をするのって男女逆だと思うんだけどな。


 そう思いつつも、ゲームの準備をした俺は、絆月に言われて、また絆月の横に座った。

 くっつかないって約束は守ってくれてるし、手を繋ぎたいって話も上手く流れてるからな。特に抵抗する理由も無かった。


「三回勝負でいい?」


 さぁやろう、となったところで、絆月はそう聞いてきた。

 特に断る理由もなかったし、俺は直ぐに頷いて、ゲームを開始した。

 予想通り絆月はやったことないみたいだし、俺はハンデを付けて勝負をしようと思っていたのだが、それは絆月から断られたから、ハンデ無しの真剣勝負だ。

 いくら絆月が初心者とはいえ、絆月本人がハンデを断ってきたんだから、手加減する気は無かった。


 ……無かった……のに、最初の一回以外は全部俺が負けた。

 

「……絆月、本当にやったこと無かったんだよな?」


「慎也に嘘なんて付かないよ」


 ……なら、俺はマジで初心者に負けたのか。

 最近やってなかったとはいえ、負ける気なんて一切無かったのに。

 ……原作では絆月がゲームをするシーンなんて無かったから知らなかったけど、めちゃくちゃ才能があったんだな。

 まぁ、負けは負けだし、大人しく俺のできる範囲でなら言うことは聞くけどさ。


「慎也、私が勝ったんだし、ちゃんということ、聞いてくれるよね?」


「分かってるよ。それで、俺は何をしたらいいんだ?」


「私のこと、抱きしめて」


 俺がそう聞くと、絆月は一瞬の間を開けることも無く、そう言ってきた。


「変なことはダメだって言っただろ」


「変じゃないよ。ただのスキンシップだよ。ほら、ね? 私のこと、嫌いじゃないんでしょ? 慎也の為にスタイルにも気を使ってるんだから、抱き心地もいいと思うよ?」

 

 スキンシップと言われたら確かに変なことでは無いけど、スタイルがいいから抱き心地が良いって……。

 俺が色々と考えていると、絆月は焦れったくなってしまったのか、絆月の方から俺に抱きついてきた。

 そして、昔を思い出すように強く俺を抱きしめてきたかと思うと、そのまま匂いまで嗅いできた。

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