第21話

「うん。ありがとう。……後、明日からは私が慎也のお弁当を作ってくるから、学食の食べ物は買わなくていいよ」


 余計なことは言わないでくれよ、と思っている俺の内心なんて全く知ることも無く、絆月はそんな爆弾を落としてきた。


 せめて人がいない所だったのならともかく、こんな人が多いところで今一番目立っている絆月がそんなことを言ってくるなよ。

 ほら、案の定というか、嫉妬の視線を向けられてるじゃないか。


「い、いや、それは色々と悪いから、遠慮しておくよ」


 なるべく引き攣らないように笑顔で俺はそう言った。下手な言い方をしたら俺が悪者みたいになるし、受け入れたら受け入れたでまた嫉妬の視線が強くなってしまう気がするし、これが最善だと思ったんだよ。


「大丈夫。私は全然平気だから、遠慮しないで?」


 俺が平気じゃないんだよ。

 だって、少なくとも俺だったら、悪いとは思うけどこんなに色々な視線を向けられているやつと友達になりたいだなんて絶対思わないもん。

 つまり、更に友達を作りずらくなってしまうんだよ。


「ほ、ほんとに大丈夫だよ。学食の飯だって美味しいしさ」


「私の慎也への愛情を込めたお弁当の方が絶対美味しいよ。私なら慎也の好みも全部分かってるし、ね?」


 ……3年間関わりが無かったのに、なんで俺の好みを全部知っている、なんて言い切れるんだよ、とは思うけど、それはこの際もう別にいい。

 それよりも、この状況をどうするかだ。


「……せめて、後にしないか?」


 周りに聞こえないように、小声で俺はそう言った。

 

「しない。今、答えて? いいんだよね? 私がお弁当を作ってくるってことで」


「……はい。それで大丈夫です。ありがとうございます」


 思わず敬語になってしまいながらも、俺はそう言って頷いた。……頷かされてしまった。


 悔しいことに絆月の料理が美味しいことは昨日のことで分かってるし、周りの人達の視線さえ考えなければ素直に喜んでいい……はず、だよな。


「うん。気にしないで」


 絆月が3年前の俺のせいでヤンデレみたいになっているのはもう嫌という程理解させられている。

 ……ヤンデレってさ、なんか、イメージ的に料理に変なものを入れてきたりするイメージがあるんだけど、大丈夫だよな?

 いや、別に大丈夫か。この前作ってもらった料理には別に何も無かったと思うし。


「えっと、それじゃあ、俺はもう食べ終わったから、教室に戻るな」


「私も一緒に戻るよ」


「…… 絆月は何も食べないのか? まだ、時間はあると思うけど」


 絆月と一緒に教室に戻ったりなんかしたら絶対に目立つだろうから、俺はそう聞いた。


「大丈夫。早く行こ?」


「……はい」


 早いところ色々と諦めた方が精神的にも安定するのかな、なんて思いながらも、俺は絆月の言葉に頷いた。

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