第20話

 絆月に後ろを見るのは私を見ること以外禁止、と脅され……お願いされてから、俺は約束通り後ろを見ることなく過ごして、無事に昼休みになった。

 この学校には学食があるから、俺は絆月がクラスの人達に一緒にお昼を食べようと誘われているのを横目に、いそいそと学食に向かうために教室を出た。

 友達を作りたいとずっと思っているんだし、俺も誰かを昼に誘えよ、と思われるかもしれないけど、絆月の方に向かう人やもう仲良くなった人同士で固まっていたりして、俺の入り込む余地なんて無さそうだったから、早めに学食に向かっていい席を取ることを選んだんだよ。

 ……絆月が近づいてきたりしたらまた目立って変な視線を向けられるだろうし、それを避けたかったって気持ちもあるんだけどさ。

 もう別に絆月を突き放そうとはしていないんだから、絆月みたいな美少女に近づいてこられるのを嫌がるのは変な話なのかもしれないけど、一応人生二週目ということもあってか、あんまり目立ちたくないんだよ。

 俺は友達が数人も出来れば満足だ。


 ……まぁ、入学式の日に絆月のせい……と言うか、過去の俺のせいでまだ友達を一人も作れてないんだけどさ。


 そんなことを思いながらも、学食にやってきた俺は、端っこの方の席を取った。

 絆月が来るとは限らないけど、一応絆月に見つかりにくいようにって理由と、単純に一人で食べるのに真ん中の方の席を取って食べるような強いメンタルは俺には無いからだ。


 そうして、無事に席を取れた俺は昼食を買って、席に戻ってきた。

 学食に人が増えている。

 早めに来て席を取っておいて良かったな。


【慎也、どこ?】


 買ってきた昼食を食べようとしたところで、スマホが振動したかと思うと、絆月からのそんなメッセージが着ていた。

 内容を見はしたけど、まだ既読は付けていない。

 よし、見なかったことにしようか。


「いただきます」


 小さく呟くようにそう言って、俺は昼食を食べ始めた。

 

【慎也、なんで無視するの?】


 ……既読を付けてないんだから、気がついていないって選択肢は絆月の中に無いのか? いや、実際気がついた上で無視してるんだし、当たってるんだけどさ。

 今更返信をしたってさっきみたいにまた何か脅されるかもしれないし、やっぱり気が付いてないふりが安定だよな。


 そう思っていると、周りがざわざわとしだした。

 いや、周りには当然俺以外の人がいっぱいいるし、ざわざわとしてるのは当たり前なんだけど、心做しかさっきよりうるさい気がする。

 俺が「なんだ?」とざわざわとしだした方に視線を向けると、また、と言うべきか、真っ直ぐに俺を見つめてきている絆月と目が合った。

 ……俺はよく絆月と目が合うな。

 ……大丈夫。スマホはポケットにしまってるし、このまま絆月がこっちに近づいてきたとしても、気が付かなかったって言えば大丈夫だ。


「なんで無視したの、慎也」


 予想通りと言うべきか、真っ直ぐと俺に近づいてきた絆月はそう言ってきた。

 

「……何の話だ?」


「無視、したでしょ。なんで無視するの? 私の事、嫌いな訳じゃないんだよね? なら、なんで?」


 ……強いて言うなら、目立ちたくないからなんだけど、気がついていなかった振りをしてるのに、なんで俺が気がついていて無視をした前提で話が進められようとしてるんだよ。


「気がついてなかったんだって。そのことに関しては謝るよ。ごめんな」


「……なら、そういうことにしてあげるから、前、座っていいよね?」


 なんで俺の嘘がバレているのかは分からないが、隣の席なんてものが無いからか、絆月はそう言ってきた。

 ……視線が集まっているこの状況で断れるわけなんてない。


「もちろんいいよ」


「うん。ありがとう。……後、明日からは私が慎也のお弁当を作ってくるから、学食の食べ物は買わなくていいよ」


 余計なことは言わないでくれよ、と思っている俺の内心なんて全く知ることも無く、絆月はそんな爆弾を落としてきた。

 

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