第19話
階段で絆月と話をした後、二人で教室に戻ると、まるで見計らっていたかのように、ちょうどチャイムが鳴って、二限目の授業が始まった。
そして、俺はさっそくとばかりに後悔をしていた。
……プリントとかを渡された時も後ろを振り向いたらダメなのかを絆月に聞いておくべきだったな。
目の前にある後ろに回せと言われたプリントを見ながら、俺はそう思った。
……別に後ろを見ずにプリントくらい回せるには回せるんだけど……んー、まぁいいや。
プリントを後ろに回すくらい大丈夫だろ。
いくらヤンデレになってしまっているであろう絆月でも、それくらいは許してくれるだろう。
普通に不可抗力だし。
そうして、無事に二限目の授業も終わった。
俺はもう何度目になるかも分からないけど、今度こそ友達を作るために隣の席の人に話しかけようとしたのだが、また後ろがざわざわとしだした。
俺はまさか、と思いなるべく後ろの席の女の子ではなく、絆月を見るように後ろを振り向いた。
すると、さっきと同じように絆月は俺の方へ近づいてきていた。
それを見た瞬間、これ以上目立ちたくない俺は席を立ち上がって、教室を出ようとしたのだが、まるで俺を逃がさないとばかりに絆月に手を掴まれてしまった。
タチの悪いことに、今回は全然強く握られている訳では無い。
十中八九絆月は分かっているんだろう。
教室の人たちの目があるこの状態で絆月の手を振りほどくことなんて出来ないってことを。
「慎也、来て」
少し前……と言うか、一つ前の休み時間に聞いた言葉と全く同じことを全く同じ圧をかけてきながら、絆月はそう言ってきた。
拒否権が無いことなんてもう聞くまでもないだろう。
「………………分かった」
それを察した俺は、渋々、本当に渋々ではあるけど、頷いた。
一つ前の休み時間の出来事で学んだってこともあるけど、下手に断るより、素直に頷いた方が周りの人のイメージも良くなると思ったからだ。
……まぁ、俺が素直に頷いたように見えたのかは分からないが。
そして、また俺は人気の無い階段まで連れてこられた。
「えっと、絆月、今度は何の用だ?」
「要件? そんなの一つしかないでしょ。とぼけないでよ、慎也」
本当に心当たりが無い……ことも無い、か? ……まさかとは思うけど、プリントを後ろに回す時に後ろを振り向いた時のことを言っているのか? いや、あれはどう考えても不可抗力だろう。
いくら絆月でも、あれで約束を破った、なんて言われるとは思えない。……と言うか、思いたくない。
「ご、ごめん。本当に分からないんだよ」
「……もう私を見る時以外は後ろを向かないって言ったのに、後ろを向いた」
そのまさかだったわ。
冗談だろう? あれ、ダメだったのか?
「そ、それは不可抗力だったんだよ。分かるだろ?」
「分からない。後ろを見ないことくらいできただろうし、後ろを見るんだとしても、私を見てれば良かっただけの話なんだから」
見れないだろ。
あの状況で絆月を見てたら、俺がめちゃくちゃ絆月に気があって、授業中であってもついつい見てしまう奴みたいに思われるだろ。
……いや、絆月の見た目的に、それも仕方ないって思われそうだし、やっぱり大丈夫だったのか?
「そ、そう、だな……次からは気をつけるよ」
本当はもっと否定したかったけど、どんどん絆月の様子が怖くなっていっていたから、俺は素直にそう言った。
「うん。分かった。信じる。……でも、次は無いからね?」
だから怖いって。
いや、もう次は気をつけるつもりだし、良いんだけどさ。
……なんで俺が後ろを見ることを気をつけなくちゃならないのかは分からないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます