第18話

 一限目の授業が終わって、休み時間になった。

 

 その瞬間、今度こそ俺は隣の席の人に話しかけようと横を向いたのだが、視界の端に絆月が俺の方に近づいてきているのが見えてしまって、また話しかけることが出来なかった。


「慎也、来て」


「えっ、い、いや……」


「来て?」


「……分かった」


 絆月の圧に負けて、敬語になってしまいそうになったけど、それだけは何とか我慢して、俺は頷いた。

 本当は頷きたくなんてなかったんだけど、顔を向けなくても分かるくらいに俺たちに……いや、俺に視線が向いてきているから、俺には頷く以外の選択肢なんて無かった。

 

 また友達を作れなかった、と内心で悪態をつけながらも、色々な視線に晒されながら絆月について行っていると、人気の無い階段まで連れてこられた。

 昨日入学したばかりなのに、なんでこんな場所を知ってるんだよ、と思うと同時に、絆月なら知っていても不思議じゃないと思わせる恐怖心が俺にはあった。

 ……幼馴染に恐怖心を抱いているやつなんて俺くらいなんじゃないか?


「それで、何か用なのか? 絆月。……さっきも言ったけど、別に絆月のことが嫌いなわけでは無いんだけど、出来れば学校ではあんまり話しかけないで欲しいんだがな」


「なんで? さっきの女と話したいから?」


 確かな圧をかけてきながら、絆月はそう聞いてきた。

 さっきの女……? 何を言ってるんだ? 俺は友達すらまだ作れてないんだから、話をできる女の子だって、いるわけが無いだろ。

 いや、絆月はいるけど、さっき言った通り学校では絆月とあんまり話したくないし、絆月が自分のことをさっきの女、なんて言うとは思えないから、本当に心当たりがないんだけど。


「何の話だよ」


「慎也、とぼける気?」


「い、いや、とぼけるも何も、心当たりがないんだよ」


 なんでこんな心当たりがないことで絆月にビビらされなくちゃならないんだよ、と思いつつも、怖いからそんなことは口に出さずに、俺はそう言った。

 

「じゃあ、さっき慎也がいきなり後ろに振り返ったのは何? 私を見るためならともかく、違う女を見てたよね? しかも、なにか喋ってた。あれは、何? あいつとはどういう関係?」


「……は?」


 いや、待って? 冗談だろ? さっきの女って、ホームルームが始まる前に俺が後ろの席の人を確認するためだけに振り向いた時のあの女の子のことを言っているのか?

 

「慎也、答えられないの?」


「ち、違うって。あの子のことは俺もよく知らないよ。ただ、後ろの席の人がどんな人なのかを確認しただけで、喋ってたって言うのも、俺がいきなり後ろを振り向いたことに不思議そうにしていたから、なんでもないよって一言言っただけなんだよ」


「本当?」


「あ、あぁ、嘘はつかないよ」


「うん。本当に嘘じゃないみたい」


 絆月は俺の目を覗き込むように見てきたかと思うと、そう言ってきた。

 ……これ、もしも俺が嘘を言っていたのなら、まさかとは思うけど、バレてたのか?


「じゃあ、もうあの女の方に振り向いたりしないでね」


「……わ、分かったよ」


 ここで頷かないと、どうなるかわからなかったから、俺は素直に頷いた。

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