第16話

 約束事のおかげもあってか、一緒に学校に行くことにはなったけど、手は離してくれたし、まぁ、問題は無いかな。……多分。




「慎也」


「ん?」


 あまりにも自然に返事をしてしまったけど、もう周りにはうちの学校の制服を着た生徒も多くなってきているし、人に見られるような状況で無視をする訳にもいかないから、別にいいか。


「今更かもだけど、慎也はなんで私のことを嫌いなの?」


 そう思っていると、絆月はそう聞いてきた。

 ……どう答えたらいいんだ?

 俺が絆月を突き放そうとしているのは、俺に……と言うか、誰かに依存なんてしたままで幸せになれるとは思えないからであって、絆月を嫌いなわけではないし。

 

 ……ん? 俺も今更なんだけど、絆月は言うまでもなく、依存体質な女の子だ。……今はちょっとヤンデレっぽいけど、それは置いておいて、依存体質な女の子なんだ。


 子供の時、俺が前世の記憶を思い出して、絆月を突き放した時は突然前世の記憶を思い出したことに事にびっくりしてたからか、精神年齢が体に引っ張られてて考えが回らなかったのかは分からないが、そんな子が依存している相手から突然突き放されて、依存体質が直るものなのか? 

 答えは多分だけど、直らない、だ。……本当に今更なんだけど、荒療治にもなってないよな。

 ……あの時、絆月を突き放した日、後ろから聞こえてくる絆月の声から逃げるように家の中に入った時、俺はなにか間違った選択をしたのか? と不安になっていたけど、あの不安は当たってたのかな。

 無理やりにでもこれでいいんだと思っていたけど、あの時もっと別のやり方を選べていたのなら、もう少し違った、お互い幸せになれるようないい関係を絆月と築けていたのかもしれないな。


「慎也?」


 そんなことを考えて、何も言わずに黙っていたからか、不思議そうに絆月が俺の事を呼んできた。


「え? あぁ……」


「理由、言えないの? それとも、理由が無いの?」


 理由が無いどころか、嫌いじゃないんだよ。

 ただ、今更嫌いじゃないなんて言っていいのか?


「なぁ、絆月」


「どうしたの? 慎也」


「……3年前、いきなり突き放したりして、悪かった」


「え? それは慎也に好かれてない私が悪いんだから、別にいいんだよ? 確かに悲しかったけど、今は一緒にいられるし、もう絶対逃がさないし」


 ……こうやってヤンデレっぽくなってるのも、俺のせい、だもんな。


「いや、悪いのは俺だ。絆月のせいじゃないよ」


「? よく分かんないけど、仮に慎也が悪いんだとしても、私は全然気にしないし、別にいいよ? それより、慎也がなんで私を嫌いなのかを教えて?」


「…………嫌いじゃないよ。絆月は俺に依存してたから、このまま一緒にいるのはダメだと勝手に思って、絆月を突き放したんだよ」


 今更こんなことを言うつもりなんてなかったんだけど、気がついたら俺はそう言ってしまっていた。

 すると、絆月は突然その場で立ち止まった。

 ……流石に嫌われたのかな。……本来なら一緒にいられたはずの3年という時間を一緒にいられなかったんだから、仮にそうだとしても、仕方ないか。

 もう意味があるのかは分からないけど、一応、俺の目的だった絆月を突き放して、俺に依存させないって目的は達成出来てるし、問題は無いか。


「じゃあ、私のことが好きってことでいいの? いいんだよね?」


 俺が内心でそう思っていると、絆月は嬉しそうにそう言ってきた。

 

「え? あ、あれ? 嫌いになったわけではないのか?」


「? なんで私が慎也のことを嫌いになるの? そんなの、何があっても、ありえないよ」


 理由を聞いた今でも、本当になんで絆月が俺をここまで思ってくれているのかが全く理解できないな。……あれが本当に理由だったのかは分からないけど。


「それより、答えてよ。私の事、嫌いなわけじゃないんだよね? なら、好きってことでいいの?」


 好き……? 好きか嫌いかって聞かれたら、そりゃ好きだ。

 ただ、それは幼馴染としてであって、多分恋愛感情ではないと思う。

 これが前世だったのなら、絶対に好きだと断言できてただろうけど、なんか、言葉には言い表しにくいんだけど、強いて言うなら、感覚が違うんだよな。

 慎也としての意識が強いのか、絆月は幼馴染だって感覚が強すぎるんだよ。

 

「幼馴染としてなら、好き、かな」


 もう嫌いじゃないと言ったんだし、本当なら幼馴染としてなんかじゃなく、普通に異性として好きだと言えたら良かったんだけど、なんでか、異性としては別に普通なんだよな。

 今となっては頭も良くて、料理も出来て、性格……はまぁ一途な女の子として、顔も良い。

 ……本当になんでなんだろうな。


「そっか。……まぁ、嫌われてると思ってたから、嫌われてるわけじゃないって分かっただけで大きな一歩かな。慎也に好きになってもらうって目的は変わらないし」


「……そうか」


 絆月の真っ直ぐな想いに目を背けながらも、そう言った。

 そしてそのまま、絆月と一緒に学校に向かって歩き出した。

 ……やっぱり3年前の罪悪感は残るけど、少しだけスッキリしたな。

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