第15話

 絆月を家に送り届けてからは、この3年間……絆月を突き放してからの日常そのもので、特に何もあることはなく、一日が過ぎ去っていった。

 正直、別れた時の言葉を聞いている感じ、俺は何故かまだまだ絆月のことを突き放せてないっぽいし、メッセージ来るなり、電話なんかが掛かってくると思って、警戒していたのだが、全然そんなことはなく、俺の自意識過剰だったのかもしれない。

 それならそれで、多少の恥は残るけど、俺としては全く問題なかった。


 


 よし、寝癖は無いな。

 鏡の前で身だしなみを整えてから、俺はカバンを持って、家を出た。

 入学式の日はまさかの再会があってしまって、友達を作れなかったけど、まだチャンスが無いわけじゃ無い……と思うから、諦めずに今日こそは友達を作ろう、とそんな気合を入れながら。

 正直、昨日の時点でかなりグループは形成されていたし、俺が今からそこに割り込むのは至難の業だと思うが、高校生になって早々ぼっちは嫌なんだよ。

 ……それに、友達が出来れば、絆月が仮に俺に近づいてきたとしても、友達を待たせてるから、みたいな言い訳で周りに変に思われることなく、自然に絆月を突き放せるからな。

 やっぱり、俺のためにも、絆月のためにも、俺は友達が欲しいよ。


「あっ、おはよう、慎也。一緒に学校行こ?」


 そんな気合いを入れて家を出てきたっていうのに、なんで家の前に桃色の髪の美少女……絆月がいるんだ?

 正直、前世だったら、めちゃくちゃ憧れたシチュエーションだぞ?

 だって幼馴染の美少女が朝家の前で待ってくれていて、一緒に学校に行こうと誘ってくれるなんて、夢のようじゃないか。憧れないわけが無い。

 ……ただ、今の俺は別にそんなシチュエーションに憧れたりなんかしてないんだよ。

 ……今の幼馴染は突き放したい相手だし、そんなものに憧れるわけが無い。


「行くわけないだろ。一人で行け」


 やっぱり心が痛いけど、俺はそう言って絆月を見ないようにしながら、絆月の隣を通り抜け、歩き出した。

 

「うん。じゃあ、一緒に行こうか」


 ……そのはず、なのに、なんでか絆月は俺の隣を歩いていて、そう言いながら俺の手を掴んできた。

 もう聞かなくても分かるよ。

 俺の意思は関係ないってやつなんだろ。


「行かない。手を離して、一人で行け」


「どうせ向かう場所は一緒なんだから、いいじゃん。一緒に行こ? 慎也」


 ……確かに、わざわざ絆月と一緒に学校に行かないがためだけに時間をずらして、遅刻でもしたらバカバカしすぎるか。

 

「……なら好きにしてくれ。……いや、やっぱり手は離せ」


「うん。やだ」


「高校生にもなって、男女で手なんて繋いで学校に行ったりしたら、変な誤解……じゃなくて、お互い恥をかくことになるぞ?」


 変な誤解なんて言ったら、多分、尚更離してくれなくなるだろうし、俺はそう言った。

 

「大丈夫。私はなんにも恥ずかしくないんないし、それどころか、慎也と手を繋げて、嬉しいから、全然問題無いよ」


 俺が問題あるんだよ!

 

 そう思って、絆月の手を振り解こうとした俺だが、全然振り解けることは無かった。

 ……この細い腕のどこにそんな力があるんだよ。


「慎也、私に離す気がないんだから、諦めて早く行こ?」


 仮にこのまま学校に行ったとしたら、絆月の見た目は目立つし、確実に俺と絆月のことが噂になるだろう。

 そうなってしまえば、外堀的に絆月を突き放しにくくなるし、それだけは避けたい。


「わ、かった。一個だけ、一個だけなら、絆月のして欲しいことをできるだけ叶えるから、離してくれないか?」


 そう思った俺は、そう言っていた。

 多分、学校で噂になるよりは絆月のお願いを叶える方がマシだと思うんだよ。

 できるだけってちゃんと言ってるし、あくまで一個だけだし。


「何でもいいの?」


「……できるだけだ」


「じゃあ、何でもに変えて? そうしたら、今日は手を繋がないから」


 ……嫌に決まってるだろ。

 そんなことを言ったら、何を言ってくるか分かったものじゃないし、絶対に嫌だ。

 ただ、このまま絆月と一緒に手を繋いで学校に登校するのも嫌だ。


「……分かった。それでいいから、離してくれ」


「うん。分かった。約束ね」


「……あぁ、約束……だな」


 正直、頷いている時は嫌々だったんだけど、よく考えたら、約束って破ったら嫌われるよな?

 そう考えれば、逆によかったかもしれないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る