第14話

 あれから、母さんに呼ばれてリビングにやってきた俺たちは、そのままみんなで普通に夕飯を食べ終えた。

 幸い、と言うべきか、絆月は母さんの前では変なことは何も言わずに、普通に過ごしてくれていた。


「そうだ、絆月ちゃん、せっかくだし、今日は家に泊まっていかない? 絆月のお母さんもきっと喜んでくれるわよ? また二人が仲良くなったんだからね」


 それで、絆月はいつ帰るんだろうな、と絆月と母さんが仲良く話しているのを眺めながら思っていると、突然、母さんがそんなことを言い出した。

 

「は? ち、ちょっと母さん!? な、何を言ってるんだよ」


 話に入る気はなかったんだけど、そんな言葉を聞いてしまった俺は、思わずといった感じにそう言ってしまっていた。


「何って、せっかくまた仲良くなったんだから、昔みたいに泊まっていってもらったらいいじゃない」


「いいじゃない、じゃないよ! お互い体も成長してるんだし、ダメに決まってるだろ?!」


 この親は本当に何を言っているんだ。

 さっき絆月と一緒に布団に入ったのすらギリギリ……というか、普通にアウトなのに、泊まっていくなんていいわけが無いだろう。俺は思春期の息子なんだぞ!?


「慎也、あんたね、何も絆月ちゃんが家に泊まっていくとしても、流石に昔のように絆月ちゃんと一緒に寝るわけじゃないのよ?」


「え」


 ……あ、いや、そう、だよな。

 うん。そりゃそうだ。

 なんか、さっきまで絆月と一緒のベッドに寝転んでいたのと、絆月が一緒に寝ようとか言ってきてたのがあって、普通に絆月が家に泊まっていくのなら、一緒に眠るものなのかと勝手に思ってたわ。そんなわけないのに。


「別に私は大丈夫ですよ? お義母さん」


「ふふ、絆月ちゃんったら」


 ……今まで……と言うか、今日の絆月の言動を見てきた俺だからこそ、分かる。

 多分だけど、母さん、絆月は本気で言ってるんだと思うぞ。


「結局、絆月は泊まっていくのか? 普通に帰るんだよな?」


 内心でそう思いながらも、余計なことは言わずに、俺はそう言った。

 

「……うん。残念だけど、今日は帰るよ」


「そうなの? それは残念ね。……でも、いつでも泊まりに来てくれたら大丈夫だからね」


「はい! ありがとうございます!」


「慎也、送って行ってあげなさい」


 隣なんだから、送るも何もないだろうって、絆月を突き放すために言ってやりたいけど、絶対に母さんに怒られるだろうし、俺は素直に頷いた。


「慎也、ありがとう」


 そして、絆月を家に送るために絆月と一緒に家を出た俺は、そんなことを言われた。


「……なぁ、なんで、絆月は俺の事なんか好きなんだ? あの時、俺は絆月に酷いことをしただろう」


 だから、俺は思わずそんなことを聞いてしまっていた。

 何度も言うが、俺はあの時、確かに絆月を突き放してるんだ。

 自分で言うのもなんだが、結構酷いやり方だったと思う。

 なのに、絆月は俺にまだ依存……どころか、悪化して、ヤンデレっぽくなってしまうほどに好かれてる。

 正直、意味が分からない。


「私が慎也のことを好きなのは、慎也が私と一緒に居てくれたからだよ」


「……いや、3年間くらい一緒に居なかっただろ」


「あれは慎也に好かれてない私が悪いんだから、いいんだよ」


 ダメだ。

 理由を聞いても、全く理解ができない。

 

「……そうか」


「うん。送ってくれてありがとね、慎也。また明日!」


 俺が内心で絆月のことを理解しようとはしたものの、全く理解出来ることはなく、困惑しているうちに、絆月はそう言って家に帰っていってしまった。

 ……俺も、帰るか。ここに居ても仕方ないしな。

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