第13話
「慎也? 寝るの?」
「……」
「なら、久しぶりに一緒に寝よっか」
……ん?
絆月は一体何を言ってるんだ?
俺がそんな疑問を頭の中に思い浮かべると同時に、絆月はまるで俺を逃がさないようにとばかりに俺に抱きついてきながら、布団の中に入ってきた。
そして、実際に眠っていたわけじゃないから、昼頃に絆月がいきなり俺の家に入ってきた時のように、布団の中で思いっきり目が合った。
「慎也? 起きてたの? んー、幸せだから、今はいいや」
そう言って、絆月は俺から離れることなく、目を閉じた。
……いや、待て、待ってくれ。
これが子供の時……それこそ、俺が絆月を突き放す前だったのなら、まだ良かったかもしれない。
ただ、今のお互いの年齢を考えて欲しい。
もう高校一年生なんだぞ? まだまだ子供だとは思うけど、肉体的には大人に見られるくらいの年齢のはずだ。
良いわけが無くないか?
「慎也、ドキドキしてる。もしかして、私のこと、意識してる?」
自分から寝転がったとはいえ、こんなことになるなんて予想もしてなかったから、俺がなんとか抜け出そうとしていると、絆月がゆっくりとそう聞いてきた。
「してない」
俺は絆月を突き放さなくちゃならない、という意識から、反射的にそう言った。
「じゃあ、慎也のこの心臓のドキドキは何?」
「…………絆月の女の体に興奮しただけだ」
こんなこと本当に言いたくなかったけど、絆月から嫌われるために、俺はそんなクズっぽいことを言った。
絆月を突き放そうとしても全然突き放せないし、絆月にどうしようもない男だと思われて、嫌われるように仕向けることにした結果だ。
……俺の精神的にも、かなり失うものはデカいけど、これで病んでるっぽい絆月を突き放せるのなら、安いものだ。……多分。
「慎也、私の体で、興奮してくれたの? それ、もう私を好きってことでいい? いいよね? いいんだよね?」
流石にさっきまで嫌いだと言っていた相手に大して体には興奮した、なんて言ったら、絶対に嫌ってくれると思っていたのに、何故か絆月は嬉しそうにしながら、何度も確認するためにそう聞いてきた。
おかしくないか? 普通、嫌いになったりしないか? ……少なくとも俺が逆の立場なら、最低でも引くことくらいはするぞ。
「違う。待て、本当に違う」
「何が違うの? 私の体に興奮したんでしょ? なら、好きってことじゃないの?」
……これは、あれか? 俺がクソみたいなことを言っているってことにまだ気がついていないのか?
よし、もしもそうなのなら、改めて、本当は言いたくないけど、もっとクソみたいな発言をしよう。
「お前のことは嫌いだけど、体はエ……す、好きなんだよ!」
そう思って、俺はそう言った。
……本当は、お前のことは嫌いだけど、体はエロくて、体の方は好きなんだよ、って言おうとしたんだけど、流石にそれは言えなかった。
もう充分クズな発言はしてるし、今更なのかもしれないけど、最後の最後でビビっちまったんだよ。
……まぁ、これでも普通に嫌ってはくれるだろうし、別にいいと思うけどさ。
「良かった」
「…………良かった?」
「うん。あの日から、慎也の為にスタイルには気を使ってたつもりだったけど、慎也の好みじゃなかったらどうしようってたまに不安になることがあったの。だから、良かった。今はまだ体だけだけど、慎也の好みで」
……俺はあの時、確かに絆月を突き放した。
なのに、本当になんでここまで好かれてるんだ?
病んでるっぽいのに、想いがあまりに真っ直ぐ? なのかは分からないけど、少なくとも俺には真っ直ぐに感じられて、意図的に意識しないようにしてたのに、顔が熱くなってきた。
「夜ご飯が出来たわよ〜」
それと同時に、母さんのそんな声が聞こえてきた。
「は、絆月、今の、聞こえただろ? 早く部屋を出るぞ」
「大丈夫なの? 私の体に興奮してるんじゃないの?」
「い、いや、それはもう大丈夫だから、もう気にしないでくれ」
俺がそう言うと、絆月は渋々と言った感じに俺を離して、布団から出てくれた。
……抱きつき癖は直ったと思ってたんだけど、根本的なところは全然直ってなかったな。
自分の感情を誤魔化すためにもそう思って、俺は絆月と一緒に部屋から出た。
そして、直ぐにリビングに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます