第12話
「俺、部屋に戻ってるわ」
今から絆月を追い返すように母さんを説得できるとは思えないし、俺はそう言って、自分の部屋に戻った。
攻めてもの抵抗だ。
少しでも絆月と一緒にいる時間を減らすための。
「……なんで付いてきてるんだよ」
そう思って、俺は自分の部屋に歩き出していたのだが、何故か後ろに絆月が付いてきていて、俺は思わずそう言った。
絆月を無視して、部屋に入って直ぐに扉を閉めてやっても良かったんだけど、母さんもいるし、報告しようと思えば直ぐに報告されてしまうし、それはやめておいた。
思春期だから、女の子に部屋に入られたくないんだよって言い訳をできるにはできるけど、もう少しやり方があっただろうと言われたら終わるしな。……それに、実際のところは、絆月は全然俺の言うことを聞いてくれないし、他のやり方なんて無いんだけど。
昔は基本的に俺の言うことは何でも聞いてくれたのにな。
まぁ、一応、そこも成長と言えば成長なのか。……いい事なんだけど、今の俺じゃあ素直に喜べないな。
……そのせいで俺は絆月を突き放したいのに、全然突き放せてないし。
「? 部屋に行くんじゃないの?」
「部屋には行く。ただ、一人でに決まってるだろ。なのに、なんでお前が付いてきてるんだって話をしてるんだよ」
「私が慎也と一緒にいたいからだけど」
小さく首を傾げてきながら、絆月は不思議そうにそう言ってきた。
「なら、俺は別に絆月と一緒にいたい訳じゃないから、リビングに戻ってくれ。それか、普通に家に帰るのでもいいぞ」
自分から家に帰ってくれるのなら、母さんだって何も言わないだろうし、突き放すためにも、俺は冷たくそう言った。
「何度も言うけど、慎也の意思は関係ないよ?」
……正直、そんな感じのことを言われるんだろうなとは予想してたよ。
いくら俺でも、何回も同じような問答を繰り返していたら、それくらいの予想くらいできる。
「……絆月ってさ、何かされたら嫌なこととか、あるか?」
もうどうしたら絆月に嫌われて、絆月を突き放すことが出来るのかが分からなくなって、俺は思わずそう聞いていた。
どうせ正直に答えてくれるとは思えないし、絆月に嫌われるヒントに少しでもなればいいかな。
「絶対にありえないけど、慎也が私以外の人と付き合うことかな。ありえないけどね」
……うん。無理だな。
少なくとも、俺は絆月を突き放して、あの時絆月の心を傷つけた責任として、絆月が誰かと幸せになるまで、俺は誰ともそういう関係にはならないって決めてるんだよ。
「俺が絆月と付き合うこともありえないけどな」
「? 私と慎也が付き合うのは、決まった未来だよ?」
これだけ突き放そうとしてるのに、なんでそんな自信満々にそんなことを言えるんだよ。
そんな未来があるわけないだろ。
「もういいわ。取り敢えず、お前はリビングに戻れ。俺は部屋に戻るから」
そんなことを思いながらも、俺はそう言って、今度こそ、部屋に戻った。
……やっぱり、後ろに絆月を連れて。
付いてくるなって言っても、もう無駄なことは分かってるし、文句を言うのも無駄だろうから、一旦、絆月が部屋に来ることは諦めた。
そしてそのまま、絆月を無視しながら、ベッドに寝転んで、布団に潜り込んだ。
これなら、絆月が勝手にもう眠ったとでも思ってくれて、俺が絆月を無視していても変に思考が飛躍したりはしないだろうと思って。
……今日だけで単純に色々あって、精神的にも疲れたから、少しだけでも眠りたいって気持ちもあるんだけどな。
「慎也? 寝るの?」
「……」
「なら、久しぶりに一緒に寝よっか」
……ん?
絆月は一体何を言ってるんだ?
俺がそんな疑問を頭の中に思い浮かべると同時に、絆月はまるで俺を逃がさないようにとばかりに俺に抱きついてきながら、布団の中に入ってきた。
そして、実際に眠っていたわけじゃないから、昼頃に絆月がいきなり俺の家に入ってきた時のように、布団の中で思いっきり目が合った。
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