第9話
「ごちそうさま。……まぁ、その、美味しかったよ」
もう一度言ってしまったし、いいやと思って、俺はそう言った。
次からはちゃんと突き放すために嫌われるように努力することを心の中で誓いながら。
「慎也に気に入って貰えたみたいで良かったよ」
「……まぁ、そうだな。……じゃあ、絆月は用事も終わったし、帰るってことでいいんだよな?」
「帰らないよ? 用事はまだ残ってるし」
「は?」
まさか、まだ母さんは絆月に何か頼み事をしてるのか? 俺が絆月のことを突き放そうとしていることを知らないとはいえ、頼み事をしすぎじゃないか?
「いや、それはもう大丈夫だから、帰ってくれ」
このままじゃ突き放すつもりなのに、普通に昔みたいに仲良くなってしまって、更に胸が苦しくなりそうだから、俺はそんな適当なことを言って、絆月を帰すことにした。
「母さんには俺から言っとくからさ」
「お義母さんは関係ないよ?」
関係ない?
なら、マジでなんの用事があるって言うんだ? ……というか、本当に用事があるのなら、さっきも思ったけど、メッセージで言ってくれよ。
……まぁ、言われてても、嫌われるために無視してた可能性が高いけどさ。
「一応聞いておくけど、なんの用事があるんだ?」
母さんに頼まれた用事じゃないのなら、尚更帰ってもらうけど、念の為要件だけを聞いておこうと思って、俺はそう聞いた。
ほぼないと思うけど、ちゃんと聞いておかないと不味いことかもしれないからな。
まぁ、違うと思うし、実際にどうでもいいような要件だったら、普通に帰ってもらうけど。
「私が慎也ともっと一緒に居たいっていう用事があるんだよ」
「……なら普通に帰ってくれ」
全然大事な用事じゃなかったし、俺はそう言った。
絆月みたいな美少女にそんなことを言われて、心が揺れないわけではなかったけど、絆月の為だと自分に言い聞かせて、ではあるけど。
「やだけど」
「いや、この家に住んでる奴が帰れって言ってるんだから、帰れよ」
「私はお義母さんに昼食を食べ終わったあとはくつろいでいっていいからね、って言われてるから、慎也の意思は関係ないよ?」
…………おかしくない?
もう何回目になるかも分からないけど、俺にだって人権はあるからな?
いくら母さんからゆっくりしていってもいいって言われてるんだとしても、今その母さんは居ないし、家に居る俺から帰ってくれって言われてるんだから、普通帰るべきじゃないか?
……まぁ、その俺の意思は関係ないなんて言われてるわけだけどさ。
「関係ないわけないだろ。俺は絆月と一緒にいたくないんだ。マジでさっさと帰ってくれ」
「私は一生慎也と一緒にいたいし、一生慎也と一緒にいる気だから、帰らないよ」
俺の心にも無い言葉を華麗に受け流しながら、絆月はそう言ってきた。
「慎也はまだ、私のことが嫌いなんだよね?」
「……まだとかじゃなく、ずっと嫌いだよ」
本当は最初から嫌いになったことなんて一度も無いんだけど、俺はそう言った。
「別に私としては今からお義母さんに、今日は泊まっていってもいいですか? って聞いてもいいんだよ? 昔はよく一緒に寝たよね? 私、今でも慎也の匂い、思い出すんだよね。……あの時よりも大人になった慎也の匂い、楽しみだなぁ」
「………………少しだけ、だぞ。少ししたら、マジで帰ってもらうからな」
仮に絆月が泊まることになっても、流石に一緒に寝るなんていうのは、母さんが止めてくれるだろうけど、一つ屋根の下にいる事実は変わらないし、俺はまた絆月の脅しに屈してしまい、そう言ってしまった。
「うん! いっぱい限界まで一緒にいようね!」
ついさっき俺を二回も脅してきた奴とは思えないほどのいい笑顔を俺に向けてきながら、絆月はそう言ってきた。
……まぁ、ずっと無視でもしてれば、諦めて帰ってくれるだろ。
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