第4話
絆月がなんでこんなヤンデレみたいになっているんだ、という俺の疑問は結局答えが出ることがなく、そのまま学校が終わってしまった。
入学式の日だから、そもそもの学校の時間が少なかったとはいえ、結局、友達もできなかった。
多分、明日も出来ないと思う。
……だって、もうみんなグループのようなものが形成されていて、俺が今更そこに割って入ることなんて出来ないだろうから。
あれだけ友達を作ろうとしていたのに、作れなかった理由なんて一つだ。
絆月が昔みたいに俺にくっついて話しかけてきて、みんなが遠慮してくるんだよ。
絆月がただの女の子だったのならともかく、新入生代表になるほど賢くて、見た目は完璧な美少女。
そんな絆月が近づいている相手を避けたいと思ってしまう理由なんて、前世の俺なら痛いほど分かるんだよ。だから、文句も言えない。
強いて文句を言うとしたら、絆月にだよ。
話を戻すんだが、本当になんで絆月はあんなにヤンデレみたいになってたんだよ。
意味が分からん。
嫌われる理由はあっても、未だに好かれている理由なんて全く見当たらないんだよ。
「慎也、何、一人で帰ろうとしてるの?」
そんなことを考えながら、友達も出来なかったから、一人で寂しく帰り道を歩いていると、後ろからそんな声が聞こえてきた。
……可愛らしい声だ。……前世だったのならば、そんな声が自分に向けられているなんて、飛んで喜んでいただろう。
ただ、今は違う。
何故か、背筋が凍るような気分だった。
「は、絆月……く、クラスのみんなはどうしたんだ? か、囲まれてただろう?」
そうだ。
俺は絆月がクラスのみんなに囲まれているのを確認して、こっそりと教室を出て、急いで学校を出たつもりだったのに、なんでもうここにいるんだよ。
あの時早く行かなかったら、何故か突き放したはずなのに、絆月がヤンデレみたいになっているから、一緒に帰らされることになるだろうと思ったから、逃げるように出てきたのに……。
「抜けてきたんだよ。慎也が教室を出ていくのが見えてたから」
……あの人混みの中で、俺が教室を出ていくのを見てたのかよ。
……やっぱり、今からでも遅くないから、もう一度突き放した方がいい、のか? 3年も距離を置いたのに、俺に依存しないどころか、ヤンデレにみたいな感じになってしまっているんだ。どう考えても、悪化してしまっている。
だったら、もう一度突き放して、それを治すしかないと思うんだよ。
俺と一緒にいたら、やっぱり絆月はダメになると思うし。
実際、俺からの一方的なものではあっても、3年感距離を離したからこそ、新入生代表なんてものになれたんだから、やっぱり間違っては無いはずなんだよ。
「そうか。それじゃあ、俺はもう行くから」
そんな考えに至った俺は、3年前のあの時と同じように、一方的にそう言って、絆月に背中を向けて家に向かって進み出した。
「もう、逃がさないって言ったよね?」
すると、あの時は後ろから悲痛な声が聞こえてきて、心を痛めるだけだったのに、今の絆月は俺の腕に向かって手を伸ばしてきていて、腕を掴んできていた。
痛くは無い。でも、何故か振り解けるような力じゃない。
「い、いや、これは、絆月の為なんだよ」
俺は腕を掴まれながら、そう言った。
嘘は言っていない。
実際、俺に依存なんてしてない方が、絆月は絶対幸せになれるんだから。
「私にとっての幸せは慎也と一緒に居られることだから、もう、絶対逃がさないし、慎也が私を嫌いでも、私を好きにさせるから」
そんな考えになるのは、俺に依存してるからだよ。
一度突き放してるんだ。
ここでもう一度突き放せば、絆月も目を覚ますだろうし、俺はここで引く訳にはいかないんだ。
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