第3話

 入学式が終わって、俺たちはそれぞれの教室に移動した。

 ……中学で出来た友達は大体違う学校に進んで行ったし、多少同じ学校にもいるけど、違うクラスなのはメッセージアプリで確認済みだ。

 だから、俺は自分の名前だけ確認して、あんまり同じクラスの人の名前なんて確認してないんだけど、絆月が一緒のクラスだったりしないよな?

 4クラスもあるんだし、一緒のクラスなことなんて無いだろうけど、さっきの絆月の笑顔がどうにも心に残る。

 ……いや、俺に向けたものじゃないってことは分かってるんだけど、何故か、頭の中から離れないんだ。


「ふっ」


 そんなことを思っていると、少し笑いが込み上げてきた。

 もちろん、周りに変に思われないように、すぐに口元を隠したけど。

 ……いや、だってさ、絆月は言わずもがな、新入生代表にもなって、完璧な美少女だ。

 そんな美少女と同じクラスになるのを嫌がるなんて、前世の俺じゃあ考えられなかったな、と考えると、少しおかしく感じてきたんだ。

 

「……ん?」


 自分でそんなことを考えて、何かが頭の中の記憶に引っかかった。

 なんだ? 何がおかしかった?


 ……そうだ。なんで、絆月が新入生代表になんてなってるんだ? 

 言っちゃ悪いけど、絆月ってそこまで賢いわけじゃ無かったよな? 

 俺に依存しなくなったことによって、勉学を頑張る時間が出来たから、成績が上がったってことか?

 うん。普通に納得できるな。

 もしもそれが原因なのなら、やっぱりあの時心を痛めながらも絆月を突き放してよかったな。

 目に見えて成績が上がってるんだから、良かったに決まってる。


 そんなことを思いながらも、そろそろ絆月のことはまた一旦忘れて、友達を作るために隣の人にでも話しかけようかな、と思い始めたところで、急に教室がざわつきだした。

 少し嫌な予感がしながらも、視線を上げると、ついさっきまで考えていた人物、俺に依存するはずだった幼馴染……絆月が教室に入ってきているところだった。


 俺は友達を作るために隣の人に話しかける、という目的も忘れて、視線を下げてしまった。

 やっぱり、いくら絆月のためとはいえ、あの時の罪悪感が蘇ってしまい、絆月に視線を向けることが出来なかったからだ。

 

「慎也」


「ッ」


 そうしていると、いつの間にか座っている俺の隣に人が……絆月が立っていたみたいで、そんな俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 ……多少声は変わっているとはいえ、あの時、絆月を突き放した日に名前を呼ばれた時の声と俺には重なって聞こえたような気がした。


「ずっと、会いたかった。隣に住んでるのに、遠くて、慎也にも避けられてたみたいだったけど、それでも、会いたくて、ずっと、ずっと、なんで慎也に嫌われちゃったのかを考えて、色々と頑張った。私が馬鹿だったからなのかと思って、勉強も頑張ったし、運動だって頑張った」


 周りに人がいることなんて気にせずに、絆月は俺だけを見て、まるで周りの人間なんて見えていないかのように、そうやって語りかけてくる。

 俺は、声を高らかにして、言いたかった。

 絆月を嫌いだから、突き放したわけじゃない。絆月の為だと思ったから、突き放したんだ、と言いたかった。

 でも、そんなこと、俺には言えなかった。

 あの時確かに絆月は苦しんでいたんだから。


「それでね、私、気がついたの。別に、慎也が私を嫌いでもいいんだって」


 ……ん? なんか、様子がおかしくなってきてる気がするんだが、気のせいか?

 俺はてっきり、あれからどうやって立ち直ったのかを聞かされるのかと思っていたんだが、違う、のか?


「嫌われてるのなら、好きにさせたらいい。慎也、もう、絶対逃がさないから。私を好きにさせて、私に溺れさせて、私が慎也が居ないとダメなように、慎也も私が居ないとダメにしてあげるから」


 流石にこれはまずいと思ったのか、ご丁寧にそこの部分だけ俺の耳元で小さくそう言ってきた。

 ……いや、待って? 俺、あの時、確かに突き放したよな? なんでこんなことになってるんだ? 俺は絆月のためだと思って、俺に依存しないようにと突き放したのに、なんでこんなヤンデレみたいになってるんだ?

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