第2話
今日は高校の入学式だ。
あの日、俺が絆月を突き放した日から、絆月との付き合いはほぼない。
家が隣同士なんだし、たまに顔を合わせることはあったけど、俺が直ぐに逃げるようにしてそんな絆月から離れてたし、印象は普通に悪いだろう。
正直、前世の記憶で知ってたけど、人目見ただけでもあの時よりかなり可愛く成長してたし、勿体ないことをしたかもな、なんて考えも浮かばなかったわけじゃないけど、これで絆月が幸せになってくれるのなら、別に問題は無かった。
どうせ前世ではどう足掻いても手が届かなかった美少女なんだ。
元に戻ったと思えばそれでいい。
……まぁ、あれから3年。
もう俺に依存なんてしてないだろうし、話しかけようと思えば話しかけられるんだけど、酷いことをした自覚はあるし、話しかける勇気が俺には無かった。
「せっかくの入学式だってのに、何暗い気分になってるんだ」
こんな気持ちのまま行ったら、入学早々ぼっち確定になってしまう。
後悔するにしろ、しないにしろ、考えるのは帰ってからにしよう。
少なくとも、今は友達をどうやって作るかだけを考えよう。
ちなみになんだが、高校が絆月と一緒かもしれない、なんて不安は無い。
何故なら、絆月が行く学校は前世の記憶で知っているからだ。
そこさえ避ければ、全く問題は無かった。
そんなことを思いながら、歩いていると、学校に着いた。
そして、体育館に用意された椅子に座って少しの時間待っていると、入学式が始まった。
「それでは、次は新入生代表の挨拶です」
色々な先生が話をしていたけど、それを真面目に聞いている生徒なんてここにいる全体の半数にも満たないだろうし、俺も例に漏れず適当に聴き流していたのだが、新入生代表、という言葉だけ何故か妙に頭に残った。
理由は分からない。
どうせ知らない人だろうし、誰が新入生代表であろうとどうでもいいんだけど、なんでだ?
そんな疑問を頭の中に思い浮かべていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
昔とは少し声が変わっている気がするけど、やっぱり面影は残ってるし、前世でも聞き覚えがある声だ。間違えるわけが無い。
「……なんで、絆月がこの学校にいるんだよ」
理解が追いつかなさすぎて、入学式の途中だというのに、俺はそんなことを声に出して呟いてしまっていた。
当然、周りに座っていた人には聞こえているし、少し視線を向けられもしたけど、そんなことはどうでもいい。
問題なのはなんでこの学校に絆月がいるんだって話だ。
今、絆月は誰かに依存している、なんてことは無いはずだ。
だって、依存されるはずだった俺は確かにあの時、絆月のことを突き放したんだからな。
……あれ? 俺が突き放したから、絆月はこの学校にいるんじゃないか?
だって、絆月があの学校に行くのは依存していた俺があの学校に行っていたからだ。
つまり、俺に依存していない今の絆月がどこの学校に行くのかなんて原作知識があっても予想できるわけがなかったってことだ。
マジかよ。……まぁ、4クラスもあるし、同じクラスになることは無いだろうし、万が一仮に同じクラスになったとしても、関わることは無いだろう。
主に俺が絆月を避けるだろうからな。……さっきも思ったように、絆月のためとはいえ、酷いことをした自覚はある。だから、気まずいんだよ。
「ッ」
そんなことを思いながらも、これだけの人がいるんだ。どうせバレないだろうと思って、絆月のことを見ていると、目が合った……気がした。
そうだ。気がしただけだ。
こんなに人がいて、俺と目が合うはずがないだろう。
こんなに大勢の人の前に立っているんだから、視線を向ける場所に困って、ただ適当に色々と視線を巡らせていたら、たまたま俺と目が合ったようになっただけだろう。
心做しか俺が絆月と目が合ったと勘違いをしそうになった瞬間、絆月の表情が「もう逃がさない」とばかりの笑顔になったような気がしたけど、それも気のせいだろう。
もう絆月は俺に依存してないんだからな。
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