「言葉」というもの

キオク

ありがとう。

      

      

      

      友達が亡くなった。

      この情報を知ったのは友達から送られてきたメッセージでだった。 

      

      

      

                 「○○がしんだ」

      

      

      

      「初めまして!○○〇の幼馴染なんだ?!よろしく!」

      

      自分は自分から人脈を広げるようなタイプではなかった。

      そのため中学生の頃は小学校を一緒に卒業した友達くらいしか

      話し相手がいなかった。

      だからといっていないわけではなかったから増えなくてもよかった。

      

      ( 急に話してきてなんだこいつは... )

      こうなった俺からの最初の印象は最悪だ。

      俺にとって話すテンポ、人に対する意見の出し方など、

      全部含め相性はお世辞にも良いとは言えなかった。

      悪気なく人が嫌だと感じる言葉を普通に使い話す。

      その言葉の矛先は俺だし、本人の目の前で言う。

      でもそいつの前で俺は笑うしかなかった。

      喧嘩は嫌だし、険悪なムードで三年間を過ごすのはさすがに苦しい。

       

      だがやはり、一緒にいる時間が長いと好きなものや嫌いなもの

      好みの女の子、好きな音楽と色々相手のことが分かってくる。

      そして気が付くころには三年という長い年月が去っていった。

      そいつとはすっかり仲良くなっていて一緒に卒業写真も撮った。

      同じ高校に入学するし当たり前のように入学の記念写真も撮った。

      

      2つのクラスに分かれたがやはりそいつとは同じクラスだった

      

      たくさんのイベントに参加した。

      行われた回数分嫌だと嘆いたテスト 

      始まる何か月前からも頑張ったが初戦で敗退してしまった球技大会

      一緒に踊って褒め合った学園祭

      とても暑い真夏に地元の見慣れた田んぼと夕日に包まれながら

      自転車で帰った放課後

      そして一緒に過ごした短く感じられた長かった三年間

      

      卒業後も複数人で定期的に集まり

      そいつの家に泊まり酒を飲んでは騒ぎ

      いつの間にか寝ていたわと皆で笑いあった朝

      みんなで近くを散歩してくだらない思い出話に花を咲かせる

      

      

      

                 「火事らしい」

      

      

      

      初めての感覚が体を走った。

      理解が追い付かないという表現をたまに聞くがどちらかというと

      脳が理解しようとしなかった。が正しいと思った

      

      (嘘にしては度を越しすぎだろ)

      

      俺は震えそうになっている自分の体に気が付かなかった。

      友達にメッセージを送り返そうとする。

      そこには

      

                 「メッセージを取り消しました」

      

      (まさかね...なわけないよな...)

      

      すぐさまネットで地元のニュースを調べる。

      見たくも信じたくもないニュースが複数載っていた。

      

      

          ○○付近で住宅が大火事 一人が行方不明

          現在○○宅の長男と連絡が取れない模様

          現場では消化活動がすすんでいる様子

      

      

      ここまで見ても俺は信じられなかった。

      世界が俺を騙しているんだと、嫌でも受け入れようとしなかった。

      それでも少しずつ現実なのかと脳が理解し始めた。

      理解というものを憎んだ。何もできない自分を憎んだ。

      

      

      

      こんな状況でも昼まで寝ている

      時間がたてば腹が減り、のどが渇く

      歩けるし疲れを感じる

      そして一日の終わりに睡眠をとる

      

      毎日見ていたYouTuberさんの新しい動画をチェックする

      聞いていたアーティストさんの新曲を聴く

      毎日ログインしていたゲームを開く

      オンラインショップで開かれているセールを見る

      

      

      明らかにいつも通りの自分をしているだけのはずなのに

      

      どこか自分じゃない

      

      

      あのアーティスト新曲バズってるよね。感想どうよ?

      

      あのYouTuberさん、グッズ出したよね。買った?

      

      今通ってる学校って何習ってるの?

      

      お酒飲みすぎじゃない?大丈夫なのかよ!

      

      もっとお前の名前をお前に投げかけたかった

      もっと一緒にお酒を飲みたかったな

      旅行に行こうとか話してたっけ

      一緒に心の底から笑い、馬鹿みたいに笑って

      たくさんの同じ時間を過ごしたかったよ

      

      

      なぁ  聞いてくれよ   

      

      

      

      たくさんのやりたかった事

      話したかった事が後悔となり記憶の底から飛び出してくる

      後悔の波にグラグラと不安定だった感情の塔が崩される

      後悔と哀しみと涙が同時に押し寄せてくる

      何もできない俺は波に身を任せる

      

      本当にいなくなったんだといつまでも理解できない自分

      もういないんだと割り切っている感情

      ベッドの上で泣きじゃくる

      

      

      

      こんなにも日常というものはしあわせで一瞬なのだろうか

      

      もっとありがとうって少しのことにも言えばよかった

      

      もっときもちを込めてごめんと伝えればよかった

      

      

      言葉というのは最高の表現方法なのだと今更ながら思う

      

      

      

      届くかは分からないけどとどいてたらいいな

      

      やっぱおまえはいやな奴だよ。いなくなっても泣かせにくるんだからさ

      これからずっとお前のことを引きずるけどわらって許してくれよな

      

      いったん、きもちに区切りをつけようと思うんだ

      かなしいけど前を向きたい自分がいるから

      何をするにしてもおまえが近くにいると思えばすこしはやっていけそう

      絶対にわすれはしない

      かける言葉の最適解がわからないけど

      

      

                 いままで本当にありがとう。

                 ゆっくり休んでください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「言葉」というもの キオク @yumenokioku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ