第2話

「それじゃあ、ホームルームは終わりだ。改めて明日からよろしくな。号令は…今日は俺がやろう。」


 先生の号令で長いように感じたホームルームは終わった。あの後それぞれ自己紹介と教科書、時間割の配布だけだったので実際は短かったのだが、自己紹介をする際最初の失態のせいで大分弄られた。それはもう盛大に。そのせいか自分以降の自己紹介に関しては余り頭に入らなかった…がある意味溶け込めたので良しとしよう、そうしよう。


「おーい、春斗。一緒に帰ろうよ。」

「あ、あぁ、ちょっと待ってな。今準備するから。」


 鞄に大量のプリントと教科書を入れ、机の中を確かめてから立ち上がる。


「お待た「佐山くん、もう帰るの?」…せ?」


 声がした方を向くとまだ座ったままの古賀さんと隣には別の女子が立っている。こちらを見ている古賀さんは若干上目遣いになっており一瞬ドキッとする。まぁこっちは立っているから当たり前なんだが。


「えっと、たしか古賀さんだっけ?」

「うん、合ってるよー。よろしくね、横峯くん!」

「で、そっちの人はたしか…。」

「横峯くん、ちょっと待ってもらっていい?」


 古賀さんの隣にいる女子はヨコの言葉を遮ったと思うとこちらを見てニヤニヤしている。––すごく嫌な予感がする。


「佐山くん、自己紹介の途中からなんか心ここにあらずって感じだったけど…アタシの名前分かる?」


 ––まずい。非常にまずい。


 おれが言葉に詰まっていると古賀さんが謎の女子の方を向き若干咎めるような声で言う。


「もー、ダメだよ、からかっちゃ! 皆の自己紹介を佐山くんが聞いてないわけないでしょ?」


 古賀さんの優しいフォローがおれの心を直で抉ってくる。ごめん、古賀さん。期待を裏切ることになるが正直に言おう、傷口が浅いうちに。そう思い口を開こうとした時ヨコがおれの前に出る。


「そうだよ、僕の親友だよ? 春斗がクラスメイトの名前を聞いてないわけないでしょ。全く馬鹿にしないでほしいな。名前言えたら謝って欲しいな。なぁ、春斗!」


 ––おい、親友よ。恥を忍んで名前を聞こうとしていたおれにまず謝ってくれない?


 言葉を発しながらこちらを見てくる自称親友を睨むと何を勘違いしたのか後方を親指で指しながら名前を言わせようと促してくる。おれは咄嗟に顔を手で半分隠し名前を教えてもらおうと口パクで伝える。一瞬怪訝な表情を浮かべたがすぐに理解したのか笑ってサムズアップする自称親友に安堵した。自称なんて思ってすまなかった、流石は親友だ。


「別にそんな引っ張る事でもないから言って大丈夫だよ、言ったれ言ったれ!」


 ––前言撤回。お前はもはや友達ですらないわ!


 思わず頭を抱えてしまったおれの横からクスクスと笑い声が聞こえる。絶望した顔で横を向くと古賀さんと謎の女子が二人して笑っている。ついでに知人Aも。


「あはは、佐山くんが皆の自己紹介聞いてないなー、ってのは見てたから分かってたよ。麻衣が悪そうな顔してたからそれに乗っかっちゃった。ごめんね。」

「悪そうな顔って何よー。佐山くんごめんね。ホームルームの印象から大丈夫かなって思ってからかっちゃった。」

「これは乗るべきだって思ったから、ごめん、ごめん。」


 3人の言葉を飲み込んだうえで再度頭を抱え大きく深呼吸してから一気に吐き出す。


 ––良かったぁ。


 からかわれていたことへの恥や怒りというものよりも心の底から安堵感の方が強く湧いてくる。頭を上げ天を仰いでいる再度息を吐き、決意を込めて改めて古賀さんたちの方を向く。


「ほんとごめんだけど、名前聞いていい?」

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