思春期男子はかなりちょろい
ダンナ
第1話
桜が満開となり散り始めた今日、おれは入学式を迎えた。下駄箱ではクラスの振り分けが掲示されており、沢山の人でごった返してる。横を見ると見知らぬ女子2人が手を取りながら喜んでいる。その隣では男子が2人笑いながらもう1人に指を指している。……きっと彼だけ別クラスだったのだろう。
––不安になってきた。
そんな風に一喜一憂する周囲の雰囲気に充てられながら意を決して見上げ、左から順番に自分の名前を探し出す。
1年2組――佐山 春斗
––あった。
そのまま自分のクラスを確認し、仲の良い友達の名前を見つけ胸を撫でおろしていると肩を叩かれる。
「春斗、また同じクラスじゃん!一緒に教室行こうよ」
こいつは横峯 達也。小学校の時も待ち合わせをして一緒に行くくらい仲が良い。お調子者ですぐからかってくるが女子とも仲が良くしており恋愛に関しては割と頼りになる奴だ。
「おう、ヨコ。知ってる奴がいてまじ安心したわ。ところで教室は何階だ?」
「え、僕も知らん。この流れについていけばいけるっしょ」
お互い頼りにならないとわかり人の流れに着いていくことにする。途中廊下で立ち話をしている同じ学校の友人とすれ違う度、自分のクラスや他愛もない話をしながら教室に向かう。
教室に入り周りを見渡す。黒板には名前順で割り振られた席が書かれておりヨコとお互いの席を確認する。
「僕は窓側の後ろのほうだね、じゃあまた後で。」
軽く返事をしておれも自分の席に向かいランドセルとは違った学生鞄を机の横にかけて席に座って一息つく。とりあえず手持無沙汰になったため黒板の名前を確認する。
––周りに誰も知ってる奴がいねぇ。
前も後ろも席が埋まっていく中、喋り相手がいないことに不安を覚える。助けを求めようと体ごと目線を窓側の後方に向けると楽しそうに女子と喋っている親友が見える。
少しはこっちのことも気にしろと思いながら恨みの込もった目を向けていると隣の席の女子がこっちを見ていることに気付く。その女子は目が合うとにっこり笑った後、体は前を向きながらいきなりこちらに顔を近づけてくる。
「後ろに何か面白いものでもあるの?」
何かを期待するかのように目を輝かせながら聞いてくる。おれは急な行動に身動きも出来ず固まってしまう。
「え、あ、いやー、別に何もないよ。ただ友人がいたから見てただけ……ですよ?」
「あはは、何で敬語なの。同い年なんだからため口でいいよ。」
「あ、はは。そうだよね、じゃあ遠慮なくため口で喋らせてもらいます、じゃなくて喋らせてもらう……よ?」
「うん、うん、もちろんだよー。あ、私古賀 美雪っていうんだ、よろしくねー。」
「えっとおれは佐山 春斗。古賀さんよろしくね。」
「佐山 春斗くん…ね、うん、よろしく。佐山くんは何処の小学校から来たの?」
––古賀 美雪さん。
黒髪黒目。髪は肩口で揃えられていて人懐っこい顔をしている。背の順で後ろから3番目のおれと同じくらいの身長をしているから女子の中でも高い方だろう。
話しかけてくれたことからわかっていたがコミュニケーション能力が高いのだろう。お互いの小学校の話から古賀さんは話をどんどん広げていってくれる。
彼女だけに話をさせててはいけないと思い、話を広げようとするが頭がぐるぐるしてオウム返しのように質問を返すことしかできない。それなのに彼女は表情をころころと変えながら自分の小学校のこと、友達のこと、今日は誰と来たかなどを楽しそうに話してくれた。そんな一時に少しずつ緊張も解れ自分から話が出来るようになってきたころ、急に古賀さんが両手で頬杖をつき目を伏せる。
「でも実は結構不安だったんだよねー」
「え…?」
初対面の人にこれだけ話せる人が何を不安に思うのか――疑問だった。
「クラスに仲の良い子いるかなー、とか友達沢山できるかなーとか昨日も今日も不安で不安でしょうがなかったんだー」
彼女はそのまま前を向いて喋る。
「……でも良かった!」
体を起き上がらせ両手で手を合わせるとこちらを振り向き、彼女と目が合う。
「お隣さんが優しそうな佐山くんで!」
––ドキッ
はにかみながらそう言う彼女の笑顔と言葉に思わず体が固まってしまう。そして急に顔が熱くなり、心臓の鼓動がうるさく何も考えられない。
正気に戻り不思議そうな顔をした彼女を見て、何か言わなければ、と考えている間に彼女は同じ小学校だったであろう友達に話しかけられそちらに行ってしまう。
あーやっちまったぁー。なんで何も言えなかったんだ……。え、ってか古賀さん可愛すぎない?
僕は顔全体を手で覆い必死に落ち着こうとする。しかし先程のやり取りを思い出すだけで鼓動が早くなってくる。
ダメだ、考えるな。こういう時は今日の予定だけ考えよう。帰って飯食ったらヨコを対戦ゲームに誘うとしよう。この前ぼこぼこにされたし今日はあのキャラを使って練習して––「佐山くん。」
「うひゃあ」
急に耳元で声がしたせいか驚きのあまり情けない声を出してしまう。何事かと横を見ると古賀さんがこっちを見て前を指さしてる。それに誘導され前を見ると黒板の前には先生が立っておりこちらを見ている。
……どうやら考え事に熱中し過ぎた様だ。
「佐山、問題だ。先生さっき自己紹介をしたんだが先生の名前……言えるか?」
「……すみません。」
「まぁ初日で緊張もあるだろうからしょうがない。明日から授業も始まるからその時はちゃんと聞くんだぞ。それとさすがにあの叫び声はどうかと先生もどうかと思うぞ。」
ニヤニヤしながら先生がそう言うとクラスからくすくすと笑い声が起きる。
「佐山くん、佐山くん。」
恥ずかしくなって下を向いていたおれは振り向く。
「佐山くんってやっぱ面白いね!」
満面の笑顔の彼女を見て僕はこう思った。
––まぁいいか。
触らなくてもわかるくらい顔が熱くなっている。
どうやら僕は自分で思っているよりちょろいみたいだ。
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