第15話 格差の現実
しかし、柊奈乃の予感は的中した。お客さんがまるで来ない。立ち止まって、いや通りすがりにちらりとブースを見てくれるだけならまだしも、そもそもお客さんがブースに全くやって来なかった。
「ママーぜんぜん、ひとこないよ」
「本当だね……みんな入口の辺りで止まってる……」
お目当てのものがあるのか人気店なのか、とにかく奥まで人が入ってこない。様子を見ていれば、品物を受け取ってそのまま他のブースは一瞥もせずに帰る人たちもちらほらといた。
「これは、運が悪かったね。会場の運営側があえてそうしたのかもしれないけどさ。入口付近の前列、みんな個人のネットショップを持ってる有名な人たちだよ。フォロワーも多いしさ、きっとここでしか買えない限定商品とか出してお客さん呼んでるんじゃない?」
「じゃあ、そのお店のブースだけに来てるってことですか? せっかくここまで足を運んでるのに?」
清水は腕を組んで大きくうなずいた。お手製のクローバーをイメージしたシンプルなイヤリングがちょうど照明に当たってキラキラと揺れめく。
「そういうこと。ハンドメイドってさ、いっぱいあるじゃない。やっぱりお気に入りのお店を見つけちゃえばもうずっとそこでいいか、みたいな感じになる人も多いと思うんだよね~。ハンドメイドが好きだからいろんなお店を見て回りたいっていう人もいると思うけどさ。あそこまで強いブースが並んじゃったら、もう満足しちゃうお客さんも多いかも」
「そんな……」
柊奈乃は、昨夜やっとの思いで完成させたポスターを指で触った。少しでも目立つように、お客さんの目に触れるようにと作ったのに、このままでは誰の目にも止まることなく終わってしまう。
「え〜マリーかわいいよ。だれもかってくれないの?」
「あっ! ううん、まだ大丈夫だよ、紬希ちゃん! まだ始まったばかりだからさ! ほら、ヒナちゃん、すぐに不安そうな顔しないで。自信持っておすすめしないと、お客さんも買いたいと思わないでしょ」
「そうですよね……だけど」
正直、こんなに差があるなんて思わなかった。アプリでも全然売れないのに即売会でも売れない。人気になるチャンスなんて本当にあるのだろうか。
「あった、あった、若葉〜!!」
遠くから声が割り込んできた。見知らぬ若い女性だったが、耳につけているクローバーのピアスを見て、すぐに清水のブースのお客さんだということがわかる。
「おー来てくれてありがとう!」
励ましてくれていた清水も「ごめんね」と耳元で言うと、女性客を自分のブースに案内しておしゃべりを始めてしまった。柊奈乃は、まとめた後ろ髪を撫でながら自分のブースへと戻ると、大量に並べた商品を見て紬希に聞こえないよう小さく息を吐いた。
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