第6話 ともだち
車に乗って自宅へ帰る最中、疲れたのか紬希はチャイルドシートにもたれかかりながら眠ってしまった。自宅マンションの駐車場についても目を覚ます様子がないので抱っこして家の中へと運ぶ。リビングのソファに寝かせると、タオルケットをかけた。
幸せそうな寝顔だった。額に手を当ててみるが、熱はない。乱れた前髪をそっと整えると、柊奈乃は夕食の支度に取り掛かることにした。
夕食は無難にカレーライスにしようと決めていた。これから即売会に備えて最後の準備をしないといけない。明日のイベントは一日中かかるから多めに作っておけばきっと大丈夫だろう。
(圭斗はまたカレーか、と言うかもしれないけれど)
柊奈乃にとっては明日のハンドメイド即売会は大きなチャンスだった。昔からの手先の器用さを活かしてハンドメイドを始めて、ハンドメイド作家としてアプリやフリマサイト、SNSを中心に販売をスタートさせたのが半年前。しかし、ほとんどと言っていいほど利益は出ていなかった。
柊奈乃がターゲット層にしているのは、自分と同じ子育て世代だ。子ども向けのTシャツや靴下、帽子、缶バッジなどを作っている。それから子ども連れで出掛けるときには必須な大きめのトートバック。最近では、マスクの個性化に需要があるためマスクにも力を入れて販売していた。
数多いる同業者との差別化をはかるために柊奈乃が考えた方策が『キャラクター』だ。芸術と感じるほどの個性的な作品や質の高い商品を作るのは現状では難しい。それならと、昔から自分の中で培ってきた猫のキャラクターである『マリーゴールド』を前面に押し出して顧客を開拓しようと決めた。
デブ猫マリーの一番のファンは、今のところは娘の紬希ではあるが、
アプリやSNSでは大量の商品に埋もれてしまう。だけど、即売会ならじっくりと会場を回るお客さんの目に止まるかもしれない。出店費もそんなにかからないしと、知り合いに誘われてブースを出すことを決めた。
小さいブースと言ってもお店。店構えとして看板や飾り付けもしっかり用意しなければいけない。柊奈乃には時間がなかった。
時間節約のために、水を入れた大鍋を湯にかけながら切った先から材料を入れていく。野菜に豚肉、全部の材料を入れたところでお玉で鍋をゆっくりとかき混ぜていく。
ふと、公園での出来事が頭をよぎった。
(……紬希はともだちって言っていたけど)
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