20.5話 来年もこの花火を見たい
私はショウ君と一緒に長い階段を登っていた。花火が綺麗に見える絶景スポットまで登っているのだが、正直始まる時間までに間に合う気がしない。現在時刻は7:55。登り始めてから10分くらい経ったが、一向にこの階段の終わりは見えない。
「ねぇショウ君。間に合う気しないね」
「そうだな。これ帰る時辛そう」
「それは言っちゃ駄目。頭痛くなる」
帰る時のことなんて考えていたら、登りたくなくなる。まぁ、それでもここまで来たら登る他ないのだが。
「そういえば、ライブすごかったね。バント2個掛け持ちしてるの?」
「いや、実はカタクリの方のベーシストが出られなくて俺が代わりに出たんだ」
「そうなの?ってことは初見?全然そんなふうには感じなかったけど」
「いや、本番前に楽譜読み込んだ。でも初見感出てなかったのは本当?」
「本当本当!なんか昔からの仲みたいな雰囲気出てた!」
私はただ思ったことをショウ君に告げた。本当に昔からバンドを組んでいるような雰囲気が出ていた。ただのバンドメンバーの関係なのか疑う程だった。
「もしかしてカタクリの人達と昔バンド組んでたとか?」
「いや、そういうことじゃなくてだな……あーでもメンバーの一人とは昔関わりがあったんだよ」
ショウ君は頭を掻いた。聞いちゃいけない雰囲気だったので深くは聞かないことにした。まぁ私達は本当のカップルでもないし聞く権利はない。
時計を確認すると、丁度8:00になった。
「あ、8:00だ」
「間に合わなかったか〜」
階段はまだまだ続いている。登り切る頃には花火大会も終わっているかもしれない。
「ここで見よっか」
「あ、ならこれ使えよ」
「え……ありがとう!」
階段に座り込もうとした私を静止させて彼はレジ袋を渡してきた。きっと「これに座れ」ということなのだろう。流石レンタル彼氏だ、気遣いができる。
上を見上げると鮮やかな花火が夜空を埋め尽くしている。花火が打ちあがるたびに大きな爆発音が響く。これぞ花火大会といった感じだ。本当、ここに来てよかった。少し木が視界を邪魔しているが、それもまた味があっていい。ただただ花火を見てボーっとしていると、隣からショウ君が話しかけてきた。
「でも、綺麗だな。花火」
「お?そこは『綺麗だな。お前』じゃないんですか?」
やっぱり気遣いできないのかもしれない。しかしこれはこれでおもしれー彼氏だから良いかもしれない。
「そんなセリフ少女漫画でも見ないって」
「え少女漫画読んでるの?」
「読んでないです」
会話終了。コミュ障だなぁと思い話題を探してみると、何を思ったかとんでもないことを聞いていた。
「そういえばさ、なんでショウ君……いや、
「……なんでだろうな。わかんねぇや」
結局適当に流された。まぁ仕方ない。私たちは本物のカップルではないのだから。
(でも……もし、本物のカップルになれたら教えてくれるのかな……)
数秒経って、一番大きな花火が打ちあがった。 爆音が響き、強い光が私たちを照らす。
「来年も一緒に来たいな……」
「でも、来年は本当のカップルになって来たい」という言葉を飲み込み、隣を見た。どうやら私が言ったことには気づいていない様子だ。
私は夜空に浮かぶ花火に視線を戻した。もっとこの時間が続いて欲しかったが、花火は風に流され消えた。しかしまだ夏は終わっていない。むしろここからが本番だ。 私は立ち上がり、彼に手を差し伸べた。
「さ、戻ろっか」
次来るときは、一歩先の関係になっていると信じて。
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