20話 祭りの終わりは大きな花火で

「この先が穴場スポットなんだよ!」

「この先って……この階段の先のことか?」


 彩に手を引かれ、とても長い階段の目の前で止まった。この階段を15分で登りきるのは無理……いや、倍の30分で登り切るのも難しいかもしれない。だがきっとこの階段を全て登りきった先におすすめのスポットとやらがあるのだろう。正直頂上で未定見たい気持ちはある。絶対いい景色が見れる。


「そう。さあ登ろう」

「無理だろこれ……15分じゃ絶対無理だって」

「でも元はと言えばショウ君が遅かったのが原因じゃ?」

「……はい」


 ぐうの音も出ない。こんな階段15分で登り切るのは絶対無理だが、俺達はこの恐ろしく長い階段を登り始めた。



「結局……無理だったな」

「そうだね……いや元はと言えば――」

「いやまじでごめんて。ほんとに」


 わかっていたが、勿論登り切れなかった。そして今こうして階段に座り込んで花火を見ている。ちなみに彩は屋台でもらってきたレジ袋に座らせている。対して俺は地べただ。


「でも、奇麗だな。花火」

「お?そこは『綺麗だな。お前』じゃないんですか?」

「そんなセリフ少女漫画でも見ないって」

「え少女漫画読んでるの?」

「読んでないです」


 読んではない。まぁ興味はあるが。

 こんな馬鹿みたいな会話をしてる内に、花火大会はクライマックスに差し掛かっていた。打ち上がる花火の数はどんどん増え、夜空を鮮やかな光が埋め尽くした。お祭りという物に基本参加しない派であることを後悔するレベルで感動的な花火だ。芸術でここまで感動するのは多分初めてだろう。


「そういえば、ここの花火大会は最後の花火がめっちゃ綺麗らしいよ」

「それは楽しみだな」


 綺麗な花火と学園一の美少女を同時に拝めるなんて俺は幸せ者だ。今日の事は今までのデートの中で一番の思い出になるだろう。


「そういえばさ、なんでショウ君……いや、かける君ってレンタル彼氏してるの?あぁ勿論嫌だったら言わなくてもいいけど」

「……なんでだろうな。わかんねぇや」


 俺はその質問に戸惑ったが、適当に流しておいた。隣を見ると何か言いたげな表情の彩が花火を見上げている。俺も釣られて花火を見上げた。

 数秒経って、一番大きな花火が打ちあがった。 最後の花火が風に流されて消えるまで、俺たちはその花火を見守った。

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