16話 ぶっつけ本番。ソロは弾けない。
「めっちゃ緊張する……」
「大丈夫だって!ショウ君昔から強いから!」
「ノリで頑張れ」
舞台袖。結と、ドラムの
「さ、そろそろ出番だ。頑張ろう」
「「お〜!」」
結の呼びかけに、
「長らくお待たせしました!それでは次へ参りましょう!『カタクリ』の皆さんです!」
結を先頭に秋、俺の順でステージへ躍り出た。
「どーも!カタクリです!今日はテンションぶち上げていきましょー!」
マイクを通さなくても大きい結の声に、観客達は雄叫びを上げた。
俺は結がMCをしている隙に配線し、アンプの電源をONにした。音量を上げ、アンプから音が出ることを確認すると俺は観客の方を向いた。
「じゃ一曲目!」
*
ライブは順調に進んだ。未完成未成年よりも曲数は多いが、圧倒的にやりやすく目立ったミスもなかった。そして最後の曲になった。俺のソロがある曲だ。何回か練習はしたのだが、一回も弾けなかった。特殊な奏法を使っていて、とにかくムズい。
「じゃー最後はオリジナル曲で〆ましょう!『空白!』」
秋のドラムスティックが4回ぶつかり合い、カンカンカンカン、と音を立てる。そのカウントを聞き俺達の演奏は始まった。ギターの荒々しくも繊細なメロディーを支えるように演奏する。ギターのメロディーは余韻を残し、結のボーカルパートへと移り変わった。
俺は観客の方なんて見ずに、ベースを弾くので精一杯だった。この曲は一瞬でも気を抜いたらミスをしてしまう程に難しい。ライブパフォーマンスなんてする余裕はない。自分の音に集中していると、次第に周りの音が遠のいてゆく感覚がした。自分だけテンポがズレているような気がする。ドラムのテンポに合わせようと耳を澄ませば澄ます程、聴こえなくなる。微かな音を頼りにテンポを合わせ、なんとかサビ前まで演奏できた。サビのベースは高度なスキルが求められる。少しのミスも許されないため、周りの音を聴こうとするのだが全然聞こえない。俺はパニックになっていた。音を聴くべきなのに、聴こえない。
(これじゃあ曲が台無しじゃねぇか……)
音が聴こえないままサビに入ろうと入ろうとしていたその時、俺の右手に何かが当たった。俺はその何かを確認すると、それは古そうな1枚のピックだった。
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