16話 ぶっつけ本番。ソロは弾けない。

「めっちゃ緊張する……」

「大丈夫だって!ショウ君昔から強いから!」

「ノリで頑張れ」


 舞台袖。結と、ドラムの春夏冬秋あきなししゅうに励まされる。実は一回も三人で合わせていないのだが大丈夫だろうか。不安だ。俺は再度ベースとシールドに不具合はないか確認した。まぁ、断線しているかなんて触っただけではわからないのだが。


「さ、そろそろ出番だ。頑張ろう」

「「お〜!」」


 結の呼びかけに、俺達俺と秋は元気に応えた。


「長らくお待たせしました!それでは次へ参りましょう!『カタクリ』の皆さんです!」


 結を先頭に秋、俺の順でステージへ躍り出た。


「どーも!カタクリです!今日はテンションぶち上げていきましょー!」


 マイクを通さなくても大きい結の声に、観客達は雄叫びを上げた。

 俺は結がMCをしている隙に配線し、アンプの電源をONにした。音量を上げ、アンプから音が出ることを確認すると俺は観客の方を向いた。


「じゃ一曲目!」



 ライブは順調に進んだ。未完成未成年よりも曲数は多いが、圧倒的にやりやすく目立ったミスもなかった。そして最後の曲になった。俺のソロがある曲だ。何回か練習はしたのだが、一回も弾けなかった。特殊な奏法を使っていて、とにかくムズい。


「じゃー最後はオリジナル曲で〆ましょう!『空白!』」


 秋のドラムスティックが4回ぶつかり合い、カンカンカンカン、と音を立てる。そのカウントを聞き俺達の演奏は始まった。ギターの荒々しくも繊細なメロディーを支えるように演奏する。ギターのメロディーは余韻を残し、結のボーカルパートへと移り変わった。

 俺は観客の方なんて見ずに、ベースを弾くので精一杯だった。この曲は一瞬でも気を抜いたらミスをしてしまう程に難しい。ライブパフォーマンスなんてする余裕はない。自分の音に集中していると、次第に周りの音が遠のいてゆく感覚がした。自分だけテンポがズレているような気がする。ドラムのテンポに合わせようと耳を澄ませば澄ます程、聴こえなくなる。微かな音を頼りにテンポを合わせ、なんとかサビ前まで演奏できた。サビのベースは高度なスキルが求められる。少しのミスも許されないため、周りの音を聴こうとするのだが全然聞こえない。俺はパニックになっていた。音を聴くべきなのに、聴こえない。


(これじゃあ曲が台無しじゃねぇか……)


 音が聴こえないままサビに入ろうと入ろうとしていたその時、俺の右手に何かが当たった。俺はその何かを確認すると、それは古そうな1枚のピックだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る