15話 リベンジマッチ

 沢山泣いて疲れた俺はダリアから離れた。正直もう少しあのままでいたかったのだが、俺を待っている人がいる。


「もう、大丈夫」

「そう?また辛くなったら泣いて良いよ。お姉ちゃんの全力ハグお見舞いしてあげるからさ」


 ダリアの優しい言葉を受けて、また涙が零れそうになるが俺はそれを気合で止めた。


「じゃ、俺行かなきゃだから」


 手で涙を拭いて、歩き出そうとした。が、その時。


「ショウ君!ちょっと良いかな!」


 遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。声のした方向を見ると、こちらに向かって歩いてくる結の姿があった。


「あれ?結ちゃんじゃない?」

「ん……あぁ!ダリアちゃん!久し振り〜元気だった?」


 どうやらダリアにも気づいたらしく笑顔を浮かべる。


「ダリアちゃん背伸びたね〜!可愛い!」

「ありがと〜!いつ振りだっけ?」

「えっと〜多分最後に遊んだのが小二くらいだから大体9年くらい?」

「そんな経ってたんだ!?あ、そういえば――」

「ストップ!一旦ストップ!」


 俺をよそに盛り上がっている二人の間に割り込み無理矢理会話を断ち切る。


「結さん!あなた俺に何か用事があって来たんですよね?プチ女子会開きそうになってましたよ?」

「ん……あぁそっか!頼みたいことがあったんだ!」


(大丈夫かよこの人……)


 若干呆れつつも俺は話を聞くことにした。


「実はこっちのベースが体調を崩してしまってね。代わりにベースを頼みたいんだ」

「は?」

「いいよ!」


 すかさずダリアが許可しやがった。俺は状況を飲み込めていないが。


「じゃあショウを宜しく!」

「任せといて!ほらショウ君行くよ!」

 俺はその言葉を理解するよりも早く、二人で話はついた。俺は訳もわからず結に手を引かれその場を後にした。後ろからダリアが何か言っていたが、言葉を返す暇もなかった。



「じゃ、これ楽譜ね。ちょっと時間は作ってもらったからその隙に譜読みしといて!」


 俺は控えテントまで連れて行かれ、結からベースの楽譜を突きつけられた。


「ま、待ってください!ベースの音はPCから流すとか出来ないんですか?」

「そんな音源作ってないよ面倒くさいし!とにかくお願いね!」


 俺がたじろいでいると、背中に何かが当たる感触がした。


「ほらよ、お前のベースだ。シールドは買ってきてやったぞ」

「用意周到!」


 後ろから葵が右手にベース、左手に見るからに新品のシールドを持って現れた。葵は俺にベースとシールドを押し付けて、どこかへと走っていった。俺は結に急かされて練習を始めた。楽譜を見ると、難しくはなさそうだった。どうやら今回はカバー曲が多いようで、何曲か弾いたことある曲があった……というか、ほぼ弾いたことがある曲だった。そのため渡された曲は大体譜読みが終わった。その次にカタクリのオリジナル曲の譜読みを始めようとした。


「あ~めっちゃ疲れた。ほらよ、エフェクターボードだ。多分今回使うエフェクターは全部あるぞ」

「あ、ありがとうございます!」


 俺は葵からエフェクターボードを受け取り、再び楽譜に食らいついた。オリジナル曲も大体譜読みを終わらせ、残り一曲となった。


「ショウ君そろそろ譜読み終わる?もうちょっとで舞台袖移動するよ〜」

「あ、今最後の曲譜読みします!」


 俺は最後の楽譜を見た。そして驚愕。なんとそこには

「ベースソロ」

と、書かれていたのだった。

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