14話 未完成未成年は所詮引き立て役
「ま、事情はわかった。それじゃあ時間もないから早く最終調整してこい」
「はい只今〜」
あの後色々事情を説明した結果、准にはわかってもらえた。千秋はどうなのかと言うと、まだ疑っている。結の方を見るとあちらも詰められていた。
俺はライブまで時間がないので急いで最終調整を行った。ベースの調子も、俺の調子もかなり良い。これなら大丈夫だ。
「千秋、そういえば何話してたんだ?」
「ただ自己紹介してただけだよ」
「おいショウ!お前だけサウンドチェック終わってないぞ。急げ」
「いつも通り俺がPAやってるからな。爆速で終わらせるぞ」
准が呼んできた。サウンドチェックはいつも通り葵がやるらしい。俺はベースを持ってステージに上がった。まだ客席には誰もいない。
「さて始めるか。あ、先に言っとくがリハーサルはできないぞ。時間ないんだ。じゃ、まず――」
サウンドチェックは爆速で終わった。葵が優秀だからだろうか。しかし、そんな葵でも時を操ることはできない。リハーサルまでやる時間は無かった。
*
どんとん人が集まってきて、控室代わりのテントにまで人の声が聞こえてくる。
俺は時間を確認する為にスマホを開いた。すると、そこにはチャットアプリの通知が届いていた。あまり確認している余裕もないのだが、大事な用かもしれない為一応確認する。確認するとダリアからだった。
「ブチかましてこい!」
とだけ書かれていた。俺はそれを既読無視し、スマホを控えテントの長机に置いて舞台袖に移動した。
「よし、じゃあ楽しもう!」
「「おう!」」
千秋が俺と葵の背中を叩き鼓舞した。
「続いてバンドステージです!最初は『未完成未完成』です!どうぞ!」
スピーカーを通して司会の声が聞こえた。観客は静まり返り、千秋を先頭に俺達はステージに躍り出た。
「皆今日は盛り上がっていきましょー!!」
マイクを通さない千秋の声が会場全体に木霊した。ライブの始まりだ。
*
結果から言うと、俺たちのライブはあまり良いとは言えなかった。千秋のMCはとことん滑り、准のドラムは曲中でスティックが折れ、俺は途中シールド(ケーブル)のトラブルで音が出なくなった。しかし、それでも千秋のボーカルが頑張ってくれたお陰でなんとか聴けるレベルまで持って行けた。ライブが終わると俺達の間には重い空気が流れていた。
俺達はステージから控えテントに移動し楽器を仕舞った。
「今回のは誰のせいでも無いと思ってる」
突然千秋が言った。ここで他人を責めないのは千秋なりの優しさだろう。俺と准は「そうだよな」と頷いた。
俺達はその場で解散して、テントから出た。客席の方へ移動しようとすると、途中で話しかけられた
「ど〜したショウ。今日調子悪かったのか?」
「あぁダリアか……ちょっとな。まぁ、そんな気にしないでくれ」
俺は足を止めずに言った。ダリアは俺の隣で歩幅を合わせて歩いている。
「ま、仕方ないよ。あれ、断線したんでしょ?」
「そ。まさかあのタイミングで断線するとは思わなかった」
「そうだよね〜」
まさかそこまで見抜いているとは。流石ダリアだ。
俺が下を向いていると、ダリアは手を引っ張って俺を引き止めた。俺が「意味がわからない」という顔をしてダリアを見ていると、いきなり俺に抱き着いてきた。
「よしよし、泣かないの。あれはショウのせいじゃないよ」
「ぁ……」
気付いていなかったが、俺は泣いていたらしい。ダリアに抱き締められると、何故かボロボロと涙が溢れ出てきた。更に、頭を撫でられてついに心のダムが決壊した。俺は赤子のように泣きじゃくった。嗚咽を漏らす度、ダリアが抱きしめる力を強くした。俺はしばらくその弟愛から変化した母性に溺れることにした。
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