12話 カタクリのギタリスト

「やったぁ〜!」

「おかしいだろ!?」


 やりやがった。あの後彩と一緒にクジの屋台に行ったのだが、景品の目玉である最新の家庭用ゲーム機を1回で当てやがった。クジに当たりは入ってないと信じ切っていた俺にはその光景が現実なのかわからなかった。ちなみに俺も引いたが勿論大ハズレの消しゴムが当たった。神様は不平等だ。


「あ、そろそろ俺ライブの準備行かなきゃいけねぇんだ」

「おっけ〜行ってらっしゃい!」

「あぁ!ちゃんと見てろよ!」


 俺は駆け足でその場を後にした。



「へいそこの兄ちゃん!ちょっと一緒に周んない?」

「すいません急いでて……って、なんだダリアか」

「なんだとはなんだ!お姉ちゃんだぞ!」


 関係者用のテントに移動している途中、ダリアに呼び止められた。


「てか何で来たし」

「あのねぇ……自分の弟がライブするんだよ?トラブルとか起きないか不安なんだよ。後可愛い弟のライブが見たかったし」


 恐らく後者が本命だろう。しかし今はそんなこと指摘する余裕も無いため無視する。


「ライブ成功させてよ?楽しみにしてたんだから」

「……頑張るわ」

「冷たくない?ん〜じゃあホットなお話をここで一つ」

「なんだよ」


 どうせ下らない話だろうと、特に期待しないで聞いた。


「共演する『カタクリ』のギターの子さ〜昔よく遊んでもらってたよね〜久し振りに会えるね〜」

「ん?待てなんて言った?」


 とんでもない事を聞いた気がする。


「え、昔よく遊んでもらってたね〜って」

「昔よく遊んでた?」


 全然覚えてなかった。この話が本当かはわからないが、本当なのだとしたら失礼だ。久しぶりに会って

「初めまして~昔よく遊んでくれてたらしいですね~」

とか言ったら今後共演してくれない可能性がある。


「そうだよ?覚えてない?」

「全く覚えてねぇわ。どんな人だった?」

「んっとね~あ、ほら着いた。早く行きなよ」


 話している内に関係者用テントに着いてしまった。せっかく詳しく聞けると思ったが無理らしい。


「昔話されたら適当に流しなよ~!」


 俺はダリアに背を押され、テントに入った。


「おいショウ遅いぞ!ほら衣装着替えろ!」

「あぁサンキュ。今着替えるわ」


 テントに入るや否や衣装に着替えた千秋が衣装を渡して、俺を誰もいないテントに入れた。しかし俺はそこで見てはいけないものを見てしまった。


「ん?あぁショウ君かい?私のこと覚えてる?ゆいお姉ちゃんだよ」


 そこには、着替え中の謎の美女がいたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る