10話 浴衣美人と夏祭り
「よ、彩。待たせちゃったかな?」
夏祭りデート当日、俺は待ち合わせ場所の駅前に来た。ベースを葵に預ける時に少し手間取ったせいで待ち合わせに少し遅れてしまった。
「うん!2分待った!」
「まじか〜ごめん!ほんっとごめん!」
「いいよ〜!許してあげる!」
バカップルみたいなやり取りをしながら俺たちは夏祭り会場に歩いた。隣を歩く彩は、きれいな浴衣に身を包んでいる。やはり美少女
「おぉ〜人多い〜!」
「屋台多っ!」
イチャイチャ歩いているといつの間にか会場についていた。会場は屋台と人でごった返している。太陽はもう沈んだというのにここだけは明るい。これがバイト中じゃなかったらきっと思いっきりはしゃいでいたのだろう。
「どうする?どっか行きたいとこあるか?」
「そういえばまだ夜ご飯食べてないんだよね〜ショウ君は食べた?」
「いや、まだだな。先に飯食うか?」
「うん!あ、じゃあ焼きそば食べようよ!お祭りって感じじゃん!」
彩は一歩先に進むが、俺は手を掴んでそれを止めた。
「こんな人混みじゃはぐれちまうだろ。手、繋ごうぜ」
くっそ恥ずかしいがこうするしかない。こうでもしないと迷子になる可能性がある。この人混みの中はぐれたら合流するのは困難だろう。
「あ、そ、そうだね……はぐれたろ困るもんね!」
彩は俺の手に指を絡めてきた。体温が直に伝わってくる。
(待て、これって)
(恋人繋ぎじゃね?)
見ると彩も
「じゃ、行こうか」
と、なるべく意識させないように歩を進めた。
*
私は恥ずかしさで死にそうだった。「手、繋ごう」なんて言われて、ナチュラルに恋人繋ぎをする奴、私くらいだろう。できることなら、数秒過去に戻ってやり直したい。
(もしかして……引かれてる!?やばい女だと思われた!?)
私は彼を横目で見ると、少し頰が赤くなっていた。どうやら、気づいていないフリをしているようだ。彼が気づいていないフリをしているのなら、私も合わせるべきだろう。なるべく顔に出ないように気を付けて歩を進めた。
「な、なぁ。今日俺さ、ライブやるんだけど、見てくれるか?」
「あ、うん。勿論見るよ!シ、ショウ君はパートなんだったけ?」
「あ、あ〜俺はベース担当だ。客席から見てステージの左にいる、ぜ……」
「そ、そうなんだ〜じゃあ左側いるね〜」
会話終了。ネタが無くなった。
(駄目だ、気まず過ぎ……)
都合よく会話のネタが降ってくる……なんてことはなかった。勿論、屋台に着くまで会話なんて無かった。
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