9話 『カタクリ』
「いや、全く知らないっすね」
「だろうな……『カタクリ』ってのはな、今回共演するバンドの事だ。いつもならもっと早く紹介してたんだが……ま、色々あったんだ」
「その色々が知りたいんだよ」
ごもっともである。千秋の言葉に葵は少し苦い顔をして、口を開いた。
「実はそのバンド、2世バンドなんだよ」
「2世バンド……とは?」
准が疑問をぶつけた。
「昔、俺が現役だった頃にも『カタクリ』ってバンドはあったんだよ。どうやらそのメンバーの子たちが、親を真似て2代目の『カタクリ』として活動してるらしい」
「でもそれだけじゃ『凄いバンド』とは言い切れないんじゃないですか?確かに2世代は凄いけど、だからなんだって感じだし」
つい言葉が漏れた。その言葉を聞いて葵はうんうんと頷き言った。
「なんとな……全員美人なんだよ!」
「「「は?」」」
呆れた。何が『凄いバンド』だ。
「ほら見ろこのアー写(アーティスト写真)。美人だろ?」
そう言って葵は俺たちにスマホを突きつけてきた。スマホには三日月を背に楽器を弾いている3人の美少女が映っていた。
「これは……たしかに凄いね」
「だろ?さすが俺の甥っ子だな。良さがわかるか」
3人は全員かなりの美少女だ。眼帯をしたドラムの少女、魔女のようなとんがり帽子を被ったベースの少女、ローブを纏ったギターの少女。3人とも美しい顔立ちだ。俺はそのアー写を見て、気になる事があった。
「おじさん、このギターの子……名前わかります?」
「ん?あ〜その子か、中々の美人だよな。確か名前が……『結』だったかな?名字は忘れた」
俺はその名前を聞いて何か引っ掛かった。何故かはわからないが、その名前を聞くとどこか懐かしい気持ちになる。
「お〜い翔〜?何ぼーっとしてんだ、あの2人先に行っちまったぞ」
「あ、え?」
気付くと、2人は既に外に出ていた。待ってはくれないのだろうか。薄情者だ。
「あっと、明日はお願いします!」
「おう、任せとけって」
俺は小走りで2人の後を追った。
*
俺は知らない内に街を歩いていた。この街は初めてのはずだが、どこか懐かしさがある。
「ショウ!こっちこっち!」
誰が俺を呼んでいる。声のした方を向くと、小学生くらいの少女が手を振ってこちらを見ていた。
「待ってってば〜!」
次は後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。俺はその姿に見覚えがあった。
「へ?」
声の主が俺……いや、小さい頃の『僕』だったのだ。本当に意味がわからない。『僕』は俺の横を通り過ぎて少女の元へと駆け寄った。2人は信号機を渡って走り出した。本当に謎だ。
「何なんだよ、これ……」
俺は若干不気味に感じたが、それと同時になぜかこの街に興味が湧いた。理由はわからないが、好奇心には抗えない。俺は足を踏み出した。
しかしその時、
「起きろ馬鹿弟!朝だぞてめぇ!」
目が覚めた。夢だったようだ。
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