8話 よし、欲張りセットだ

「おつかれ。やっぱりバンドとバイトの両立は難しい?」

「あぁ、どっちの予定を優先するとかできねぇからな」

「よくやってるよ」


 俺は学校から帰り、バイトの予定を調整していた。ライブとバンドの日程が被っていたのだ。だが幸いにも夏祭りにバンドて出演することになっているため、デート中に抜け出してライブに出れるように話をしておいた。


「彩さん、ラッキーだね。普通はそんなプラン組まないでしょ?」

「というか、組めないな。先輩も夏祭りプランまではやったけど、一時離脱は無かったって」

「普通はそうだよね。ま、楽しんできなよ」

「その前に練習だけどな」


 俺は部屋の隅に立ててあるベースをスタンドから取り、アンプに繋いで練習を始めた。



「えへへ、えへへへへ」

「キモ」


 私は日曜日の夏祭りデートに胸を躍らせていた。しかし、先程ショウ君から連絡があった。要約すると「用があるからデート中一時離脱する」と言う事だった。それを聞いた時、私はかなりショックだったが、その用を聞いて私のライフは全回復した。


「わかってないなぁ……ショウ君のバンド、夏祭りライブするんだよ!嬉しくなるでしょ!」

「喜び方がキモいんだよなぁ」


 夏祭りデートの途中に、ショウ君のバンドがライブをする……つまり、私は憧れの「後方彼女面」が出来るのだ。だから何だと言う人もいるだろう、私はそんな人たちに言いたい。「何だろうね」と。


「いやぁ楽しみ。ほんと楽しみ」

「あっそ……そういや、何着てくの?やっぱ夏祭りだから浴衣とか?」

「浴衣……あれ私浴衣持ってない?」

「私のやつ貸してあげるわ。レンタル彼氏と言えど、デートはデートだしね」

「お姉ちゃんありがとうまじ天使」


 お姉ちゃんもたまには良いとこあるな、と感心していると少し眠くなってきた。


「あっそ。てか、夜更かしは肌に悪いよ。さっさと寝な」

「うぇ、もう10時半?寝るわ。おやすみ」

「おやすみ」



 あれから何日か経って、夏祭り前日になった。前日ということもあって、千秋の親戚が経営している隠れ家的な俺ら以外に誰も来ないスタジオで練習していた。ちなみにここの経営者とはかなり仲が良く、小さい頃から面倒を見てもらっている。俺ら俺以外のメンバーに楽器を教えてくれたのもその人だ。なんと使用料はタダにしてもらっている。曰く、(ほぼ)家族から金は取りたくない、ということらしい。流石に経営が心配になる。


「よし、これなら大丈夫だな。明日のライブも心配無さそうだ」


 ドラム担当で一つ上の狐百合准きつゆりじゅん(先輩)がドラムのスティックをケースに仕舞いながら言った。練習終える気満々である。


「そうですね。じゃあ今日の練習は終わりにしますか?」


 そう言いながらギターボーカル担当の千秋はアンプのボリュームを0まで落とした。こちらも終える気満々である。


「そういえば、今回共演するバンドのこと何も聞いてないんだけど准先輩知ってたりする?」

「ん?あ〜実は俺も詳しくは知らないんだよ。葵おじさんから聞いただけだし」

「後で聞きに行こうか」

「そうだな」


 そう言い、俺はベースを仕舞った。

 他の2人もそれぞれ楽器を仕舞い、スタジオを出てカウンターにいる千秋の親戚、汐崎葵に挨拶に行った。


「おじさんお久しぶりです。明日は機材の搬入とかお願いします!」


 葵は読んでいた本にしおりを挟んで閉じ、顔を上げた。


「ん?あぁ千秋と愉快な仲間たちじゃないか。任せとけって、ところでよ……」

「なんですか?」


 葵は真剣な顔で言った。


「『カタクリ』って知ってるか?」

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