1話 これが日常(?)

「これ、俺飲んだんだけど」

「うん知ってる。下さい。まじで」


 何故俺は彩と話しているのだろう。何故こんなにも距離が近いのだろう。何故……彩は俺を押し倒しているのだろう。


*1時間前


「今日の体育は力剛ちからつよし先生が不在の為6校時目の体育は学年全体でマラソンして下さい」


 5校時目が終わったタイミングで担任が教室に来た。クラスのあちこちから不満げな声が漏れた。ソワソワしている陸上部、大声で「サボんね?」と髪をかき分けているサッカー部、余裕そうな顔の吹奏楽部……部活ごとに反応の違いを楽しむのは楽しいものだ。


「ショウさん早く着替えて行こう。遅れる」

「その呼び方やめろマジで……あと遅れても問題ないだろ。剛いねぇんだし」

「あそっか。じゃあゆっくり着替えれるな」


 親友の汐崎千秋しおざきちあきが話しかけてきた。クラスでは俺がレンタル彼氏をしている事を知らない奴の方が多いのだが、何故かこいつは俺がレンタル彼氏をやっている事を知っていて、わざと俺を『ショウ』で呼ぶ。『翔』と『ショウ』で頭を完全に分けているので『ショウ』で呼ばれると『ショウ』の頭になってしまうため『ショウ』呼びは正直困る。


「まぁそうだな、じゃ更衣室行くか。早く行かないと運動部の野郎どもに占拠されちまうし」

「あいつら着替え終わっても駄弁ってるからね〜」


 俺達は駄弁りながら歩き更衣室まで着き、着替えを済ませた。勿論運動部の奴らが来る前に、だ。


「やべ、俺スマホ持ってきちまった。ちょい千秋先に行っててくれ。ちょっとスマホ体育倉庫置いてくるわ」


 この学校には第1体育倉庫と第2体育倉庫の2つの倉庫がある。第1体育倉庫はとうの昔に使われなくなり、今は第2体育倉庫をメインで使っているらしい。しかし、俺の中では第1体育倉庫はまだまだ現役だ。基本人が寄り付かないので物置として使える。


「やっぱ定期的に掃除しないとな……ホコリがエグい」


 俺は第1体育倉庫の扉を開けた。一応鍵は掛かっているのだが問題ない。教師たちの管理している鍵をパクって合鍵を作っておいたのだ。

 中は予想通りと言うべきか、ホコリまみれだった。ただ蜘蛛よけを使ったのが良かったのか、蜘蛛の巣は一つも見当たらなかった。因みに、この第1体育倉庫はかなりデカい。物が多くて中のスペースが少ないように見えてしまうが、多分物を全部外に出したらテニスコートくらいの大きさにはなるだろう。


(蜘蛛よけってすげぇ)


 俺は倉庫の机にスマホと倉庫の鍵をを置いて倉庫を後にした。

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