第8話 正体
「すっげえー」
目の前には見たことも無い、
長い廊下はどこまでも続いており、その上には赤い
廊下の端には高そうな
廊下から見える大きな広場の中央には
お城の中は迷路のように広く、一つの町が入ってしまうくらい大きいのではないかと思えた。
一つ一つの部屋は家が
見たこともない世界に目を輝かせながら歩いていくセシルを、微笑ましく見守っていたアルが優しく声をかける。
「セシル、王に紹介するよ」
アルの口から王、という言葉を聞きセシルは緊張する。
そのつもりで今日はお城へ来たつもりだったが、自分が王様に会うなんて、まだどうしても信じられなかった。
アルの案内に従って、セシルは王の
大きな広間にはたくさんの
空気は張りつめ、セシルの緊張はさらに増していく。体が固まり、手と足が
アルは可笑しそうに笑うと、セシルの背にそっと手を添える。
するとセシルの緊張が少しだけ
アルがセシルを王の前へと連れて行く。
「父上、彼がセシルです」
アルの紹介を受け、王がセシルへ近づいてくる。
セシルは緊張しながらゆっくりと顔を上げた。
はじめて王の顔を見るがとても
少し丸い体型に、ニコニコとした笑顔が
この人が今の
町にはそういう噂が以前から流れていた。ただ皆、噂だと思っていた。
しかし、この王を見るとそれが真実なのではないかと思ってしまう。
「君がセシルか、アルから話は聞いているよ」
優しい笑みを浮かべた王が振り返って、誰かを呼んだ。
すると奥の方から
黒髪を綺麗に後ろにまとめ、
可愛らしさの中に美しさを
サラはゆっくりセシルに近づいてくると、その
その場にいた全員が驚き、どよめく。皆、
サラ自身も自分の行動に戸惑っているようだった。すぐにセシルから体を離す。
「ご、ごめんなさい。体が勝手に。
……あの、あなた、赤ちゃんのときに捨てられていたって本当?」
セシルは急に抱きしめられたことが全然嫌ではなかった。
それどころか、暖かくて、
いい
「はい、父からそう聞かされていました」
セシルが返答すると、すぐに次の質問が飛んでくる。
「王家の
セシルは照れくさくてサラから目を
「あなた、年齢は?」
「16歳です」
サラは王と顔を見合わせた。
王が頷くとサラはセシルをまじまじと見つめ、
「セシル、あなたは、私の息子なのかもしれない」
「ちょっと待って!」
「話しは聞いていたわ、そう
マーヤは綺麗な金色の髪をなびかせながら
氷のようなその瞳に見つめられたセシルは
この人はなんて冷たい目ができる人なんだろう。王やサラとは人間の種類が違う気がした。
「はっきりとした確証もないのに、アルの
もし、この少年が私たちを
マーヤは瞳だけでなく
「でも、お姉さま……私、この子に何か感じるの。
なんだか
サラは必死に自分の思いをぶつける。
そんなサラに
「そんな何の証拠にもならない
そうでしょ、あなた」
王に腕を
「……そうだな、
そうだ、今度食事でもしよう。
交流していくうちに、本当の家族ならわかっていくこともあるだろう」
王はとても
それが妃に権力を握らせてしまった理由の一つになっていた。
すべての者を優しく広い心で包み込む。そんな人だからこそ、それを悪用しようとする者にとってはこんなに
王はその人柄通りの笑顔をセシルに向ける。
「セシル、今度一緒に食事をしよう」
王はセシルの頭を優しく
セシルは本当に王が父でサラが母だったらいい、なんて思ってしまう。
こんなに優しくて暖かい人が自分の親だなんて、最高だ。
それに、そうなれば俺はアルと兄弟ということになる。
セシルはアルを見た。アルもセシルのことを見つめていた。
二人は目が合うとお互い微笑み合った。
なんだか嬉しかった。
アルと家族だなんて、夢のようだ。
しかし、そんなことありえない、きっと何かの間違いだ。
自分が王族? まさかだろ。
そんな
セシルが帰り、王たちと別れたマーヤは一人自分の部屋である人物を待っていた。
「失礼します」
その人物は緊張した
マーヤは氷のような冷たい目で見下ろし、
「ゲイト、おまえあの時、赤ん坊は殺したはずだな?」
ゲイトは下を向いたまま沈黙している。その体は
「黙っていてはわからん! どうなのだ!」
マーヤはヒステリーを起こした女性のように叫んだ。
ゲイトの顔から冷や汗が
これから自分がどうなるかを想像すると恐ろしくてしかたなかった。
しかし、黙っていることもできないと
「申し訳ありません、私には殺せませんでした!」
「なんてことを……」
マーヤはサラの子はとっくに死んでいると思っていた。それが生きていて、目の前に姿を現したのだ。
さらには愛しい我が子のアルと仲良くしているではないか。
もしもセシルが王子だとわかれば、
それだけは絶対に
アルに王位を
「あの……お
「うるさい! おまえはもう用なしだ! 処分はまた追って伝える、覚悟しておけ!」
マーヤが
「セシル……あいつを消さないと」
そうつぶやいたマーヤは、さっそくセシルの暗殺計画を頭の中で考えはじめていた。
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