道中エンカウント⑥
音響兵器、それは相手を無力化することに長けている兵器。
一緒に光を出すことで目をくらますフラッシュバン、もしくはスタングレネードなどがその類だ。
今回俺が望んていた結末としても、まぁ全員がしばらくスタン状態になるぐらいだろうなといったところ。
「…ごめんシャル、一旦車を図書館の中まで運んできてくれ。俺はヌイと現場検証してくる」
「了解しました。解析は端末の方でできますので、何かあればそちらでお呼びください」
俺とヌイが車の屋根から飛び降りると、車はそのまま行ってしまう。
残されたのは、俺たちと…目の前の惨状だけだ。
地面に敷かれていた石畳はすべて粉々になり、液状化した土の中にずぶずぶと沈んでいく。
音波を受けた車はすべて爆発し、その上に載っていた人々は…非常にむごい有様になっている。
あー、具体的な描写は避けるが…例えるなら、「巨大な電子レンジが人を焼き焦がしたらこうなるのかも」という感じとでも言えばいいのだろうか。原理は違うが、どちらも波が相手に伝わるという点で一緒と考えることもできるな。
「これは…死んでる…よなぁ…」
「逆にこうなっちゃったら即死してた方が有情だと思うけど」
爆発によって飛び散った破片の中に、人だったものが散乱している。血しぶきで周りの石畳が真紅に染まり、天からの光でぬらぬらと光沢を帯びている。
…人を殺してしまったな…でも、こいつらは俺たちを襲ってきたわけだし、一歩間違えれば俺たちがこうなってた可能性だってある。
それにまぁここはゲームの世界なんだ。必要以上に思い悩むことはダメということはすでに学んでいる。
俺は意を決して死体に近づいていき、解析ができないかを試みる。ヌイもすでにシャルを手工の形から端末の形に戻してある。
…非常に血なまぐさい。思わず口に酸っぱいものが湧き上がってきたので、必死に口を押さえた。
「…大丈夫?」
「……あんまり。だけど、こいつらは俺が殺したんだから、せめて俺が見ないとな」
ゆっくりと、だが確実に言葉を重ねる。そうしないと、今すぐにでも木陰に駆け込んでしまうだろうと言えるほどに限界が近い。
「ヌイは、さ」
「ん?」
「この世界について、どう思ってる…?」
「ウリエラのこと?」
「いや、ネクラのこと」
どうにか話を続けることで、目の前の惨状に対する恐怖と罪悪感を減らしていく。そうでもしないとおかしくなってしまいそうだ。
ヌイは顎に手を当てて少しだけ考えている。きっと俺の質問の意図を探っているのだろう。
そうして数秒ほど考えたのち、唸り声をあげて降参のポーズをした。
「今のところ、ただただ技術力がすごいゲームってことしかわからないかな。こういうのは、きっとプレイしてる側からの視点だけじゃわからないことだと思うよ」
「…ま、そうだよな。今度九条先輩にも協力を仰ごうかな…っと、この状態でも解析できるんだ」
シャルをそこらへんの物にかざしていくと、ポンポンと解析完了通知が流れてくる。…こんなの今までなかっただろうに、端末型だからこの辺気を利かせてくれたのか?
そうして解析を続けて、この死体の山から取れたスキルは…
・【応急手当】
・【防護シールド】
・【兵器操作】
・【廃墟探索術】
・【ハッキング】
の5つで、戦闘中に解析してた【近接格闘術】【スカベンジング】【機械工学】の3つを合わせると8つか。
セレーネの時は戦闘してたのが毒ドラゴンとヴィクトルだけだったし、端末型になってからは実際にそのスキルを受けずとも解析できるようになったみたいだ。その代わりなかなか時間がかかるので、一長一短と言った方がいいだろうな。
あとは相手の使っていた武装として、
・【レールガン】
・【インシネレータ】
の2つも手に入れたな。銃器の中でも本当に火力が高くて焦った…まぁ【インシネレータ】は発動してすらないが。
【レールガン】の方、実はアレ普通に食らってはいたんだよな。ヌイに大見得切りたかったから言わなかったが、シャルが相手方の車解析→バリア発生装置があることが判明→【機械工学】で構造理解→【レールガン】発射前に俺の手で作成→神の力により通常より高い威力でバリアを張れた…という経緯があるのだが、あの【レールガン】、オーバーチャージ状態だとスキル攻撃に近くなるらしくて全部防げなかったのだ。
だが…物理成分の部分に関してはそぎ落とすことができた為、スキル部分だけを避けることにより何とか生存できたというわけだ。あそこでふんぞり返ったままだったら普通に俺が粉々になってたと考えると恐ろしい攻撃だ。早く物理とスキルが防げるシールドが欲しい。
とりあえず今解析できたのはこれぐらいだろうか?流石にシャル(本体側)も、アンドロイド2名も退屈していることだろうしそろそろ戻らないとな。
そう思ってヌイの方向を見ようとすると、少し違和感を覚えた。
「あれ、ヌイ。あそこの死体ってあんなポーズしてた?」
「いや?もうちょっと普通のポーズしてたよ、あんな面白ポーズじゃないね」
流石にそこそこの時間解析をしていただけあって、すでに耐性はついて軽口を叩けるほどになっていた。確かにヌイの言う通り、下半身だけが上に飛び出し、上半身は地面の中に潜っている。いわゆる犬神家スタイルだ。
そんなノリの中、その違和感について言及を重ねる。
「…そういえば、あの死体って解析した?」
「してないねぇ、忘れてたよ」
「じゃぁ俺がやってくるわ、もしかしたらゴムマスクが手に入るかもしれないし」
冗談を言いつつその死体の方へ歩いていく。地面の泥濘も、バラバラに飛び散った腕もすでに気にならない。
足元に気を付けつつ近づくと、違和感がどんどんと大きくなっていく。
この死体…ほかの死体と比べて損傷が少ないな。
肌は破れているし、血もたくさん出ている。しかしこの死体だけは損壊が少ない。
この状態なら…もしかしたら、まだ生きているのかも…
「あ、そういえば」
ヌイが声を上げる。
「こいつらが兄貴って呼んでた奴、もしかしたらそれなのかも。指揮系スキルがあるはずなのに解析できてないし」
「へー、ならこいつを解析したらなかなかいいスキルが手に入りそうだな」
今の俺の気持ちは、さながら夏の地面に落ちているセミを触る時の気持ちと一緒だ。いわゆる「セミファイナル」を警戒しつつ解析を進めることにした。
端末に表示される解析のパーセント表示が進む中、少しだけ気になって足をつついてみようとする。
この行動がトリガーになったのかは知らない。
だが、確実にしてはいけない行動だったのだろう。
「セミファイナル」だって、触らなければ何も起きない。道端に転がっている死体と見分けがつきにくいセミというだけ。
だが、いつだって生きている彼らは、死を避けるものであるのだが…
こいつにとって、格好の獲物を待っている体勢でもあった。
地面の下から素早い動きで腕が伸びてきた。
…いや、動くなら足だけだろうが!
俺はその状況を予測していなかったためにただただ驚くことしかできず、腕を掴まれてしまう。
「………やっと、捕まえたぞ。女の後ろに隠れやがって」
「ワァーオ」
もはや泥と化した地面から顔を上げながらそう言った。
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