道中エンカウント④
『ヌイ!もう少しで図書館に着くらしい!』
「ん…了解!じゃあそれまでに殲滅を…」
『いや、殲滅できなくてもいい。俺にちょっと考えがあってな…』
スーは手短に作戦を伝えてくれた。作戦内容は…簡単に言えば防衛戦に移るといったところだろうか。
その作戦自体は納得のいくものだし、スーの言うことだから従うのが相棒としての務めだろう。
だけど…私のちょっぴりとだけある本心は、スーに私の力を認めてほしいという心。
つまり、「別に今全員殺してしまって構わんのだろう?」というやつだ。
「…ふふ、スーの作戦、了解したよ。でも、こっちでもやれるだけやっちゃうから」
『……まぁ俺の作戦はプランBだとでも思ってくれ。ヌイならやれると思ってるぞ』
あ、この言い方…スーは私が言いたいことが分かっているようだ。流石相棒だね。心で通じ合っているというのはきっとこういうことを言うのだろう。
私は足元の車を踏みなおし、目の前の相手に向き直る。
現在、車はぴっちりと塊をなし、移動フィールドと化している。ちょっと狭めのひし形のフィールドだが、車単体の上で動くよりかは幾分かマシだ。というか車、誰も運転してないのに普通に動いてるじゃん…やっぱ文明が発達してると自動運転は標準装備なのかな?
「さて、ごめんね?ちょっと相棒と話すことがあってさ。別に攻撃しててもよかったんだよ?」
「…クソが、どうせそうしたとて防ぎやがるだろうが」
「あは、正解。私に豆鉄砲は効かないし、そもそも食らったら驚くはずだから君らのは豆鉄砲ですらないんだよ」
「言ってろクソアマ。油断してると豆に貫かれる鳩の一体目になるぞ?」
今私と話している奴が多分連中の指揮官と言ったところか。さっきも兄貴とか呼ばれてたっぽいし、あいつの指示による動きはとても機敏に見えた。もしかして指揮系のスキルでも持ってるのかな?
連中の布陣としては、その指揮官を囲うように銃座が配置されており、さらにその周りに銃器持ち。そしてそいつらを守る為のバリア持ち…と言った具合に塊を作っている。そして私はそんな布陣の対面に居座っているわけだ。
…あのバリア、さっきまで車についていたはずなのになぜか手持ちになってる。もしかして【スカベンジング】のスキルで再利用したってこと?だとしたら優秀なスキルだ。私もあとで使わせてもらおう。
まぁこんなところで見合ってても仕方ない。私から行くか。
手始めに【毒火花】を…と思ったが、まだ使わないことにした。あれ疲れるし。
なので自らの体を使うことにしよう。
真ん中に突っ込むのではなく、端っこのバリア持ちに対して水平に跳躍をする。
視界はぎゅんとブレて、数秒も経たないうちに目の前に敵が。
「今バリアってどっちにしてるかな?」
「ッ!早いッ!?」
地面(車)を蹴って一回転してからのかかと落としを食らわせると、バリアを通り抜けて頭にクリーンヒット。どうやら私がスキルを使うと思って対スキルにしていたらしい。
…一応今【近接格闘術】スキルを使ってたんだけど、それでも通り抜けるんだ。割と杜撰じゃないそのバリア?
「ぐぺっ」
「なぁッ!!?くそ、対物理に…!!」
「アホ!今切り替えたりしたら…」
一人がバリア切り替えをしたせいで、ほかのバリアと干渉してはじけ飛ぶ。
ぱりんと割れたそのバリアはとどまるところ知らず、全員のバリアをパリパリと割っていく。
…全然連携がなってない。きっとここまで追い詰められたことが無かったのだろう。アドリブが挟まると人はこうなるという見本だ。
「別にバリアを張りなおすまで待っててもいいけど…めんどくさいよね?」
「クソッ全員攻撃ーッ!!味方に誤射だけはするな!!」
司令官(仮称)が号令を告げると、連中の体の周りにうっすらとオーラのようなものが纏われたのが見えた。今までは遠くだったから見えなかったようだが、本当に奴の言葉は指揮系のスキルらしい。
言葉を聞いた者が各々の武器を持ち、私に向かって銃を突きつける。気分は壇上に上がるアイドルのようにスポットライトを当てられているような感じ。
なら、アイドルのように
本来ならお金を取るところだが、今回だけは特別ステージだ。
「楽しくなってきたね」
「なわけねぇだろうがァ!!!」
火力が集中された飽和攻撃が私目掛けて飛んでくる。その弾丸の種類は様々で、物理成分たっぷりな鉛の弾丸もあればレーザーのような焼き切るような弾丸もある。
私はそれを体をひねって、しゃがみ、さらに飛び込みローリングで躱していく。
さらに床に手を付けて飛び上がり、その拍子に近くにいた敵をぶん殴る。
殴られた奴はきっと内臓が破裂でもしているだろう。それを見た周りの二人がバリアを張ってこっちに特攻してくる。このタイミングならきっと物理バリアだ。
【流体の支配者】にて、足元を灰に変えて操って長めの剣を作る。それはヴィクトルが使っていたような剣に似てはいるが、私のイメージとしてはツヴァイヘンダーが近い。確かスーがこの武器が好きって教えてくれた時に見たことがある。そして今回ばかりは【クリエ】ではない為に、現実で見たことが無くても参考程度で作れるのもいいところだ。
この武器のいいところは、様々な局面に対応できるところ。そして…
「はっ!残念だったな!これは対物理シールドで…グぅぅッ!!??」
「!??なん…グあああっ!!??」
【流体の支配者】で作った武器だから、スキルであるということ。
…【近接格闘術】が物理判定だったからちょっと不安に思ってたけど何とかなってよかった。やっぱり信じる心は大事だね。
「あ…兄貴ィ!!もう撤退しやしょう!これ以上はもう無理でさ!」
「…ああ畜生、こんなことになるなんてよ…みんな落ち着け!いいか、あいつの攻撃は今のところ全部初見殺しを食らってるだけだ!んで俺らはスキルも戦闘も見た!あとは分かるな!!」
「これ以上は無いってことっすね…わかりやした!なら…指示をください兄貴!」
成程、確かにあの指揮官の指示は的確だ。
私は実際スキルを見せたし、どれぐらいの速度で動くのかとかも見せた。
でも…別にまだ用意している策はいくつかあるんだけどなぁ…?
とはいえ、私としてもここで奴らに逃げられるのはちょっとよろしくない。よろしくないというより…約一名、悲しむ人が出ちゃうかもしれないから。
「そこの人の言う通り、私はこれ以上のことは特にできないね。スキル使って武器生み出したり、ビーム吐くだけしか脳が無い女だと思われても仕方ないかなぁ」
「おめぇが言うと嫌味にしか聞こえねぇんだよ」
私が生み出した武器をクルクルと手で回しながらハッタリを言うとそれを信じてくれたらしく、逃げ腰の姿勢は無くなる。
改めてぐっと私に向きなおして銃を構えなおした。よしよし、それでいい。
にやりと笑って【流体の支配者】を発動し、さあ突っ込むぞと言った時に…突然手元から声が発せられた。
『ヌイ!!もうそろそろだ!離脱の準備!!』
「スー!わかったよ!じゃあプランBの時間だね!!」
よかった、これで悲しむ人が出なくなるようだ。
…敵のことはノーカウントで。
では、あとはスーに任せよう。
私は踵を返して敵に背を向ける。
「…やらねぇのかよ?」
「んー…それは違うかな」
「相棒同士、獲物は仲良く分け合うものだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます