道中エンカウント②

「あ…えーっと…ヌイ様…」

「何?」

「…い、いえ…先ほどヌイ様が倒された人がスキルを持っていたようなので解析しておきました…」



2台目の車の”処理”を終えた私にシャルが話しかけてきた。

なんだか少し怯えたような声色を出す彼女からは、いくつかのスキルについて手短に教えてもらう。

【近接格闘術】【スカベンジング】【機械工学】の三つのようだが…今使えるのは【近接格闘術】の一つか。どうやら格闘やらナイフやらの扱いがうまくなるらしく、私にピッタリなスキルかもしれない。

…ちなみに、処理とは、一台目の時と似たようなことだ。なお今回は移動手段として使いたかったのでまだ自由を奪うことはしていない。

腕の部分だけ、ね。



「…ありがと。あとの戦闘系スキル以外はスーに伝えておいて。きっとうまい使い方を考えてくれるはず」

「承知いたしました。では、次に…」



「やべぇぞあの女ァ!!!!集中攻撃しろ!!」

「クソ!俺のダチをやりやがったなぁああ!!」



今まで静観を決め込んでいたほかの車両の奴らが一斉に喚きだした。

どうやら悪党と言えどいっぱしに味方に対する追悼の意志はあるようで、私が殺した奴らに対する義憤が湧き上がっているらしい。


車の天井の部分から続々と顔を出してきて、その手には銃やら砲台やらが握られている。

どれも見たことのない形だ。車は無骨なのになぜか武器だけ流線形ボディを使用しているようで、ちょっとした時代錯誤というか…明らかに未来の道具を使っています感がすごい。多分、この星に来てから手に入れた武器なんだろう。



「めんどくさいなぁ…全部吹き飛ばそう」



奴らが私に照準をつけ終わる前に、先手を打つことにした。

どうせ遠距離武器は持っていないだろうと高を括ってにやけ顔を晒しているあいつからにするか。



「すぅぅ…【毒火花】ァァァァァ!!!」

「なんd」



ビィィィッッッッ!!!と爆音が鳴り、私が照準を付けていた例の車は数秒も経たずに溶解する。少々狙いが逸れていたようで半分が残ったが、とりあえずこれで一台。


だがこれで終わりではない。

このスキルのいいところは、顔の向きを変えれば発動される方向も変わる点。



「こっちに飛んでくるぞ!」

「バリア早くしろ!!」



このまま全部行くかと思ってすべての車両に少しづつ【毒火花】を浴びせていく。先程見た通りの威力なら、これで全滅させることができるだろう。

早めに終わらせてスーのところに戻ろう。最初は私の手で殺したくて突っ込んじゃったけど、よく考えたらこうやって長く戦えば戦うほど平和な旅から遠のくんだ。


さぁ、彼のもとに帰ろう。


そう考え【毒火花】を解除した。…だが、まだ追ってくる影が。




「あのアマ…なんて技隠し持ってやがる……全員!バリアは発動できたか!!」

「うっす兄貴!でもあれの威力半端じゃねぇっすよ!!」

「とにかく固まれ!!【スカベンジング】持ちは修理!ケガした奴は【応急手当】で回復!おいレド!【防護シールド】で壁貼れ!!」




…なんてことだ。玉砕していない。私は思わず下唇を噛んだ。

これは少々めんどくさい、かな。


そもそも【毒火花】を一撃必殺のつもりで考えていたところがあったのだが、まさかそこを防がれてしまうとは。

一応当たった相手には毒付与があるからバリアはすぐに溶解するみたいだが、固まられたらそれだけ重複したバリアを張られることになる。

別にそれも破ればいいだけの話ではあるが、きっと私の肺活量が持たないだろう。正直一回の使用でだいぶ体力を持っていかれるから連発はできない。



「女の攻撃は連発できないはずだ!女に牽制射撃を加えつつ、【兵器操作】持ちが本体に有効打を与えろ!!」

「本体…?」

「…どうやら、マスターが狙われているようです」



シャルの言葉に、思わず思考が逸れてしまう。

奴が言った、【兵器操作】持ちとやらが、銃身が長く太い銃座に座るのを見てしまった。そしてその照準は…スーが乗っている車

どうしよう、彼はこの攻撃をいなすことはできるのだろうか。彼は…無茶をしたりしないだろうか?


あぁ…ダメだ。一度考えたらキリが無い。

奴等は、スーに対する攻撃を”有効打”と言った。つまりそれほど自信のある攻撃なのだ。

スーはきっと私のように【流体の支配者】を操ることはできないだろう。液体窒素の時は固めることが出来たが、それは液体窒素特有のものだ。灰ではきっと…圧縮することができない。


そうやって少しだけ隙ができてしまった時、私の方に大量の弾丸が飛んでくる。



「…邪魔!!」



咄嗟に【流体の支配者】にて盾を作る。一台目のアイツの時と同じように弾丸を弾くことができているが、逆にこれ以上動くことができない。

いや、時間をかければ動くことはできるが、それではスーの援護に間に合わない。


お願いだ。私の相棒を助ける力を。


…私に、もっと力を




『思い悩むんじゃない、相棒』

「…スー!?」



ここからではスーの声を直接聞くことはできない。しかし現に今聞こえた。これは…シャルが私たちを繋いでくれているのか。

弾丸を防ぎながら、必死に手甲状態のシャルに話しかける。



「スー!ごめんなさい!私じゃ助けに」

『はは。落ち着けよ。そして思い出せ』



彼の言葉は、世界のどんな言葉より安心し、そして信じられる。

そんな彼が、放つ言葉は。



『もっと…相棒を頼れ。俺に



真実に一番近い言葉なのだ。





「【レールガン】!オーバーチャージ!!」

「放てェェェェェェ!!!!!」




ガヒュッッッッッ!!!



ビカビカと光を放っていた銃身から何かが放たれる。

その速度はもはや私には見ることすら叶わないほどの速さ。


周囲には衝撃波が放たれ、ソニックブームによる爆音がこだました。

固まっていた車たちは一斉にバランスを崩し、窓ガラスがすべて割れる。なんの対策もしていない奴はきっと音響爆弾を食らったような気分になるだろう。



…放たれた。放たれてしまった。

しかし、私は心配することは無い。

彼が言ったのだ。”任せろ”と。


だから、私は彼の方向を見ないことにした。


…声をかけることは例外だよね?



「スー?無事?」

『……………………あ…ぶねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!マジでギリギリだったァァァァァァ!!!!!』



何はともあれ、スーは無事。

その事実は、私に勇気を与えるには十分すぎることだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る