道中エンカウント①

ブオオ…とまるで獣のような音を立てながら車は走り続ける。目的地は以前として図書館。

穏やかだと思われた旅に、付いていきたいと願い出る(脅迫)車達がいた。



「ハッハァ!オラ出てこいよ!その車の腹に何ため込んでるんだァ?」

「それとも怖くて出られないってか!母親の腹から出られない胎児かてめぇはよォ!?」



…こいつらなんで一々比喩表現を使って喋るんだ?見た目に反してインテリ派なのか?

俺も比喩表現を使ってあいつらを罵倒してみるか。



「うっせぇ!!おめーらこそ小鳥みてぇに囀りやがって!!早くそのきたねぇ棺桶引きずって鳥小屋に帰れ!!」

「んだとォ!?カンガルーの袋に閉じこもってるのはそっちじゃねぇかよ!!」



…そうやって何度か罵倒の応酬が続く中。

俺の煽りによって相手は陥落することになる。



「少なくとも鳥小屋よりかは快適ですぅ~~~www汚くて小さいゴミ小屋に住んでるやつにはこの快適さはわからないんですねぇええww」

「ッッッッ!!!!ぶっ殺してやる!!」



あ、やっべ。昔に練習してた、”小学生が使うような煽り”を使用してしまった。これはヌイからの評価が著しく悪かったから使わないようにしていたのだが、思わず使ってしまった。

この煽りをヌイに対して使ったことは無いが、前に使った時は「見てるだけで不快」とオブラートに包んだうえで言われたいわくつきの技。



「…スー…」

「うわ…スーさん、それはちょっと…」

「…へへ、ないす…」



あーッ!ヌイのその目が辛い!ちゃんと言葉で嫌ということを伝えてほしい!そしてなぜか後部座席にも直撃している!ついでになんでミコはちょっと嬉しそうなんだ!?

畜生、俺は言われたから返しただけなのに…


クソ、これは理不尽判定だ。再審を要求したい。


味方からの好感度が下がる音を幻聴しつつ、車の制御権をシャルに移す。これで完全自動運転の出来上がりだ。

流石にそろそろあいつらの茶番に付き合う必要もないだろうと思い、車の天井についていた窓を開けて外に出ようとすると…



「スー、ここは私にやらせてほしい」

「…ヌイ」



先程の空気はどこへやら。真面目な顔で訴えかけるヌイがそこにいた。

それはまるで、昔見た光景を繰り返させない為に立つ、勇士のようで。



「スーが私に傷ついてほしくないのはわかってるよ。でもさ…」



彼女は腕を捲った。そこには、このゲームを始めたばかりに付けた傷跡がくっきりと残っている。

そしてその傷は、俺の腕にも残っているものだ。経緯がどうであれ、俺らの体に残っている、共通の部分。


腕を曲げ、ぐっと力こぶを作り、俺に笑いかけた。



「私を、頼って!」

「…おっけ、なら俺はサポートに徹するよ。



お互いに手をグーにして合わせる。

今の俺らには、きっとこのぐらいで十分だ。



「うわー、すげー傷っすね…」

「…グロ…」



外野はちょっと黙っててくれねぇかな…



---



今、私は車の上にいる。風が車の進行方向から流れ、髪の毛をバタバタと波打った。

この車の名前はわからない。確かシャルが熱く語っていたような気がするが、そんなことはどうでもいい。どうせ私には覚えられないし。

車の屋根についている窓からスーが上半身だけを出して敵を見つめた。先ほどまで口論していた相手だ、怒りのあまりに勢いあまってスーだけで全員倒しちゃったりしないかな?



「…割といるな」

「見ただけでも…10台かな。ほかにもいるかもしれないけど」



現実で見たことあるような車が均等な間隔で並んでいる。その形はきっと、彼らにとっては陣形を組んでいるのだろうが、その意図はわからない。多分、今近くを走っている車は斥候のようなものだろう。


さて、どのようにしてやろうか。そう考えていると、腰に下げていたシャル(軽量版)が話しかけてくる。



「…戦略の提案などは必要でしょうか?」

「いや…大丈夫。でもその代わりに…そうだねぇ、手甲にでもなってくれない?」

「それでいいのですか?もっと別の、銃などでも…」

「人を殺すのに、物騒なものなんて必要ないんだよ」



そう言うと、シャルはそれ以上喋らなくなり、私の言ったとおりに両手を覆う形に変化していく。…いつ見てもこの変形の仕方は何かおかしい。機械にしては流石に応用が効きすぎる気がするけど…スーはどう思ってるんだろ?

腕に残っている傷の後がどんどんと隠されていくことに落胆を覚えるが、逆に守ってくれていると考えればそれはそれでと心も楽になる。


ガシャリ、と変形を終えるころ。敵の一人が言葉を飛ばしてきた。



その言葉は、私にとって。


戦闘開始を告げる法螺の音に等しいほどだった。



「おいおい、ずいぶんとエロい女が出てきたなぁ!あんだけイキっといて戦闘は女任せかよ!ははッ!やっぱり口だけ野郎は女のケツの隙間からちらちらこっちを覗くことしか出来ねぇ変態野郎だったわけだ!!!」

「…ッ!!!」



今 それを言ったのは 誰だ ?



ダンと音を立てて声の方向に飛び出す。声がしたのは、隣を走っている車。

私たちと同じように天井から上半身を出して、威嚇している猿がいるみたいだ。


…殺すしかない。



「なんだこいつはや」



一人の首が千切れた。いや、表現としては”引きちぎられた”が正しいかも。残った体はだらんと力なく車内に落ちていくので、ついでに今持っている頭もぽいと車内に投げる。

もっと苦しめて殺したかった。でも、今はそれが目的じゃない。



スーを馬鹿にした集団。

今はだた、こいつらを…屠ることだけを。



「んな…ッ!飛び移ってきやがったッ!!」

「振り落とせ!」



運転席に一匹、助手席に一匹。さっきのを合わせたら計三匹か。まるで三匹の子豚だ…まぁ童話と違うのは、豚三匹は確実に殺すという点だが。


車を乱暴に左右に動かして振り落とそうとするが、シャルが手甲からかぎ爪を生やしてくれたおかげで掴まることができた。こういう時はとても頼りになる。

途中にスー達が乗っている車に激突しかけたが、急にクッションのようなものが現れて間に挟まることで事なきを得た。きっとスーが【クリエ】で作り出したものだろう。



つかまっているうちに車の窓がすべて閉められたようだ、きっと私を入れまいとしているのだろう。だがそんなささやかな抵抗が通じるわけもない。



「う…うああ!こいつ…無理やり中にッ!!」

「う、撃て!!早く!!!」



天井を腕力でこじ開けた瞬間、たくさんの弾丸が私めがけて発射される。

確かにその弾丸は私を仕留めるには十分な量で、十分な威力。


だが、私には届かない。



「は…灰ィ!?」

「残念だね」



ヴィクトルのスキル…【流体の支配者Maître des Fluides】は、スーが使った時は物体操作だけだったけど、実際は『特定の流体を自由に操る力』。何が違うのかというなら、その流体に関する情報すべてを操作することができること。

だから今回は天井で灰を作り、密度を上げて硬化して弾丸を防ぐことができた。もう一つの能力の熱操作の部分は、きっとこのスキルに備わっている部分を解析したのだ。十分粘ったことでこのスキルが完全体となったと考えたなら、非常に大きな収穫だったと言える。



カンカンッと甲高い音を立てながら弾丸は弾かれた。撃った本人は私を目の前にしているのに呆けた顔をしている。

なので、挨拶替わりにと思って顔に一発。


力が強すぎて頭が吹き飛んだ。血しぶきが私の顔に飛び散り、若干汚いなぁと思った。



「な…なんだよこいつッ!!!意味が分からねぇッ!!!」

「…ふふ、ハンドルから手を放しちゃだめだよ?」



スーがいつもやってるみたいに【クリエ】を使う。私だって簡単なものであればすぐに呼び出せるのだ。


だから、五寸釘を2本。それをこいつの手に突き刺し、ハンドルと一体化させてあげることにした。



「ッッッッッ!!!???」

「…あはは、スーにはこんなところ見せられないや…」



昨日スーが着ていた服が血だらけになる。それはもう真っ赤で、あの日の夜のスーの顔を思い出して思わず笑みがこぼれた。



「な…なん…なんで笑ってんだお前…」

「んー、なんでって…」



この類人猿は未だに私に質問できるほど力が有り余っているみたいだ。まるで、皿についた頑固な汚れみたいにいつまでも生にしがみついている。

だから、掃除をしなければ。

汚い汚れは、スーに見せないように。



「掃除すると気持ちがいいでしょ?それだけ」

「…………あぁああ!!!お前!頭がイカれてんじゃねぇのかぁぁああ!!?」

「はは、うるさ」



壊れたスピーカーのようになってしまった彼の足元を【流体の支配者Maître des Fluides】で埋める。灰でできているはずなのに固まったセメントのように動かなくなった。これでアクセルから足を離すこともブレーキを踏むこともできない。


彼はこの先の顛末が見えたようで、どんどんと青ざめた顔をする。何やら命乞いをしそうな雰囲気だったので、口にも灰を詰めておいた。



「恨むなら、スーを馬鹿にしたおさるさんを恨んで、ね?」



じゃあ、そんなに時間を使ってられないから最後の一押しに、ハンドルを少しだけ傾けて固定する。

その先は…崖。


青白い顔を通り越して白い顔をしている彼は既に満身創痍といった様子。あ、コレもしかして呼吸できなくなってるかな?

んー…でも、まぁいいや。死ぬ時って、窒息が一番苦しいって聞くし。



「じゃ、最後の時まで仲良くね~」

「!!!!!」



彼の膝の上に先ほど取った頭を二つ(片方は破片のみだが)、ぽいぽいっと投げてからスーが乗っている車に戻った。


ああ、スーが心配した顔でこっちを見てくれている。

私の体を見て、傷ついたんじゃないかと気遣ってくれている。

無理はしないでくれ、と口酸っぱく言っているスーもかわいい。




でも、まだ終わりじゃないよ。




残り、9台あるから。

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