穏やかな旅路と、相棒とフラグ回収と
あれから少しだけ時は進んで。
シャルのお仕置きが済んだり、二人が一緒に行くことを伝えたり、やっぱり俺にお仕置きがあったりした後。
俺らは車にて移動を始めていた。
「へ~、こんなタイプのコフィンがあったんすね!全然乗り心地違うっすわ!」
「そんな違うもんなの?」
「…うん、普通は一人乗りだからねー。複数人が乗るようなものは流行ってなかったよ」
「へー、以外だねぇ。私たちのとこだと、逆に一人乗り用の方が高いって流れだったなぁ」
この車が結構な人数を載せられるタイプの奴でよかった。じゃないとせっかく車があるのに歩きで行くことになるとこだったし。
俺が運転席に座り、ヌイが助手席に座る。そしてシャルは今回も省エネモード。キサラギとミコは後ろの席のこの布陣は、友人たちと旅行に行っている気分だ。実際旅行ではあるけどね。
キサラギ達は車の内装をあちこちぺたぺたと触って遊んでいる。「なんすかねこれ?」「わかんない。紐?」なんて言って運転席の事を何も考えていないのは、感覚的には家族旅行の方かもしれない。
「ねーシャル、この本の表紙って何が書いてあるの?」
「【人類たれ】と大きく書いてあります。なぜアンドロイドに暴力をふるっているのかまではわかりかねます」
「…いかにも差別主義って感じの本だな。なんでそんなもんがコンビニに売られてたんだ?」
ヌイは助手席で、俺がひっつかんできた雑誌を読んでいる。コンビニで飯を漁っている時に見つけた雑誌だ。
結局いろいろなことが起こってこの話題を出せなかったからちょうどいいな。
「なぁキサラギ。この雑誌ってどういう立場だった?」
「あ、それウチで売ってた雑誌の『HUMANY』じゃないすか。僕は読んだこと無いっすけど、お客さんはいい顔してなかったことを覚えてるっす」
「…解説するよー。その雑誌だけどさ、人とアンドロイドの違いを挙げて、自分たちが人であることを再認識しよー、みたいな内容なんだよね」
「だとしてもこの表紙は…ちょっと不愉快だな」
「あやっぱそう思います?じゃあ今度帰った時に処分しとくっすよ」
ヌイがペラペラとめくり、シャルが要点をまとめて説明してくれる。
どうやら内容はミコが言ったように自己の確立のための雑誌のようだ。アンドロイドを本物の人間だと勘違いしてしまった少年の話を例に懇切丁寧に説明をしているようだ。なお話し方は特に差別的要素は無く、純粋に普通な雑誌だ。表紙さえなければこの世界の資料としてとっておきたいぐらいには。
「…ふ~ん、『アンドロイドとの恋に関して思うところがあっても、気にしてはならない。なぜならアンドロイドたちの体が機械であっても、心は人と同じものを持っているから』、ね」
「『アンドロイドは人に似せて作っているのだから、極限まで似てしまうのだ。しかし似ることはあっても、同じもの足りえることは無い。その些細な違いを感じ取り、自身が人間であるという【答え】を掴み取るのだ』とも書いてあります。…この雑誌には具体的な答えは書いていないのでしょうか?」
この雑誌の最後あたりはこんなポエムみたいな文章ばっかりでちょっとうんざりする。具体的に何が言いたいかわからないし、結局どの立場にいたいのかが伝わってこない。担当が違うのだろうか?
少しもやもやする気持ちがありつつも、きっとどこかで答えが見つかるだろうという淡い気持ちを持ってペダルを踏みこむことにした。
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さて、コンビニのいろいろな道具や食事等を積んで走るこの車が目指す先は「図書館」だ。
ミコが言うには、ここにも主無しアンドロイドが一体いるらしく、そいつの方がいろいろ詳しいという。なのでそいつに詳しく話を聞くことを目的に車を走らせている。道的にも例の宇宙ポートの方向だし、寄り道にはならないだろう。
商品を卸していた場所の一つであったらしいが、暫く行っていないとのことで確認がしたい、とも言っていた。そっちが本音か?
車はぐんぐんと進み、外の景色が移り変わっていく。
先程まであった倒壊した建物たちは、倒壊したビル群に変わった…いや変わってないなコレ。
ともかく、東京の端から真ん中に行くような気分…とでも言えばいいのか?
行ったことは無いけれど、文明が進んでいるビル街から、さらに先の文明のビル街に変わった、と言いたかっただけだ。景色の表現力が無い自分が恨めしい。
「あ、そういえばミコちゃん、私たちが行く図書館ってさ、名前無いの?」
「…正式名称は【ライブラリー】。みんな図書館って呼んでるから、図書館の方が名前みたいになってるよー」
「安直だねぇ…。まさか、コンビニも…?」
「お察しの通りっすよ」
じゃあさっきいたコンビニも『コンビニ』で統一なのか。そういう規格でもあるの?
しかし…ヌイとシャルが彼らを連れていくことに賛成してくれてよかった。ほぼ俺の独断みたいな感じだったし。
車通りの無い大通りをビュンビュンと飛ばす。窓を開けてみると、風が轟轟と車内に吹き込む。それほどの速度が出ていたのか、と少し驚くほどだった。
風強いなぁなんて言いながらまた扉を閉める。吹き荒れていた暴風ははたと消え、車のエンジン音だけが響く。
何処から来ているかわからない光も、今だけは俺に太陽の光と認識させる。
ああ、今日はいい日だ。河川とかあったら脇のあたりでサンドイッチでも食べたくなる。
ちらりとヌイの方を見ると、何やら直方体のようなものを持っている。その物体の頭には球体がついており、中にはカメラが入っているようだった。
「えへ、気づいた?これね、シャルが記録用にって作ってくれたカメラ!360°撮れるカメラだよ!」
「おー、マジ?シャルいつの間に解析してたの?」
「ふふ、研究室に置いてあったのですよ、気づかなかったのですか?」
シャルは得意げな声色でそういうと、触手のようにケーブルをにゅるりと伸ばす。そのままヌイのカメラの端子に刺さると、手から離れて車内を自由に動き回る。
今までカーナビとして働いていたモニターに、カメラの映像らしきものが映る。360°カメラの名の通り、みんなが映し出された。
「…うん、ちゃんと撮れてる!いいねぇ…」
「…うわー、動画撮られるならもうちょっとちゃんと整備しておけばよかったな…」
「あ、自己紹介とかしておいた方がいいっすか?いえーい!僕、キサラギ!イシグロって呼ばれたりしてるっす!」
各々カメラに対する反応が違って面白い。これが十人十色というやつか。運転してるからこの輪に混ざれないのが悔やまれる。
完全に自動運転にしてくんないかな…
しかし何というか、このノリはホームビデオを思い出す。
いろんな家庭で、いろんな人達が、自分たちの思い出にと写真やら映像やらを残す。
それは楽しい思い出がほとんどだが…時には、ハプニングが撮れてしまうことだってある。
往々にしてそんな映像が撮れてしまうのはテンションが上がってしまったが故の過ちであったりするが…
「はは、こんな感じの映像、前に見たことあるな」
「え?どんなのだっけ?」
「あれだよ、動画撮ってたら車が横転しちゃう奴———」
不可抗力で起こることもある。
バゴォン!!!!!
車の後方で大きな爆発音が鳴った。破裂音とも、何かがぶつかった音とも取れるような重厚で嫌な音色。
視界が大きく揺れたと思ったら、窓の外の景色がぐるりと回る。
いや、車自体が横転しかかっている!
「…ッ!みんな、掴まれッ!!!」
どうにかしてハンドルを回して車体を水平に持っていかないと…!
ああクソ!教習所じゃこんな状況習わなかったぞ!次の受講の時は必修科目として入れておいてほしい!じゃないと俺みたいに焦っちゃうから!
「ぐおお!!…シャル!制御手伝って!!」
「了解。姿勢制御装置、発動」
車の外でブシューと何かが射出される音がする。少しだけ窓の外を見ると、どうやらエアーを発射することにより車体の傾きを直そうとしているらしい。
その甲斐あってか傾きはどんどんと小さくなり、ドスンという音を立てて元の角度に戻った。
「あー…クソ、なんだってんだ…」
「み、ミコさん!なにがあっても僕が守るっすから!」
「…さっきまで震えてたじゃん…。それよりコフィンが無事そうでよかった…移動めんどくさいし…」
この状況に対し、安堵するもの、未だに慌てている者などがいるが、ヌイだけはじっと窓の外を眺めている。
まるで、何かを見つけた猫のように外を見続けるその横顔は真剣そのものだ。
「…ヌイ?」
「……爆発の音からして榴弾とかじゃない。ここは異世界だと考えると…」
「ヌイ!どうした?」
「…へっ!?スー?ごめん、ちょっと考え事してて…」
車のエンジン音でうまく聞こえなかったが、ヌイは何か思い当たる節があるようだ。
それを聞こうとした時…ミラーに何かが映っていることに気づく。
あれは…車?
「なぁヌイ…あれはなんだと思う?」
「わかんない。けど多分、彼らも"旅行者"じゃないかな。民度が低いタイプの」
グロロロ…と鳴らしているその車は、どちらかと言えば地球の車のデザインに近い。
いわゆるコフィンと呼ばれている車とはデザイン的にシャープさが足りない。よく言えば無骨なデザインとも言ってもいいかも。
そいつらは俺らとの距離をどんどんと近づけていき…ついには横並びになる。
ウィンドウを開けてそいつらを見ると、汚らしい顔をしてこちらを睨みつけていた。
…ああ、彼らは人だ。見ればわかる。
作られたように均等な顔立ちはしていないし、画一的な体のパーツは何一つとして無い。
キサラギやミコのようにこの星に住んでいたわけでは無いのかもしれないが、それでもこの星に来てからの始めての人。なのに…
「ハッ!おめえらどこのホシのもんだよ?まぁ答えなんて聞いても聞かなくても一緒だけどなァ!」
この星に来て初めて会った人が、バリバリに敵対している人でした。
…アンドロイドはノーカンで。
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