ダウナー系アンドロイドと、相棒とマスター呼びと
「ミコさん!実は今日久々にお客さんが来たんすよ!」
「へー…どんなアンドロイド?」
「それが、生身の人間さんっすよ!ほんと久々っすよね!」
キサラギがそう言うと、ミコと呼ばれたアンドロイドがこちらを向く。
その顔はなんとも眠そうな顔をしていて、目の下には取れそうにないほどのクマが残っている。
だが造形は非常に整っており、ロリータ系の服を着せたらそれはもう様になってしまうんじゃないか、というほどの可憐さ。
体はキサラギの時と違い完全な人型で、肉付きはあまりないものの出るところは出ていて、小さい子が趣味の人でなくてもその体に欲情してしまう人もいるかもしれない。まぁ肉付きで言えばそのとてもデカい胸部装甲が一番出ているのだが。
また、今着ている服はどうやら作業員用の服をアレンジし、エプロンの肩紐を垂れ下がらせているのだが…この服、ちょっと作者の性癖が出すぎている。
彼女の体のラインを生かしつつ、作業に支障が出ないレベルの実用性。ところどころ肌が出るように改造されたそれは、デザイン職人の本気の情熱を感じた。体のところどころに機械特有の線が入っているのもGOOD。
まぁ一言で言えば。
ロリ巨乳ダウナー系寝不足社会人、だろうか。属性が多すぎる。
「あー…お客さん、いらっしゃいませー…」
「ね?スーさん、僕が推しにする理由、分かりましたか?」
「いやわかるけど…」
正直言葉にしづらい。それでも無理やり例えると、「アニメキャラをそのまま現実に持ってきた」感がすごい。
画面越しだと確かに魅力的でうわえっちだなぁとか思うのかもしれないが、実際目の前にいるとうわマジかこいつという感想の方が先に出る。あと俺はロリ巨乳は好きじゃない。どうせだったら背が高くあればいいのになぁ…なんて言うと同士諸君に怒られるだろうか。ちなみに背は俺より低いぞ
冗談で言い合っていたことを本当に実現した奴を見た時に同じ感想が出るのだろうな…
ミコを作る際の小ネタみたいなものが無いかを探すためじろじろと見ていたところ、後ろの方からちょんちょんと指でつつかれた。
そこには…
「スー?」
笑顔を浮かべているのにうっすらと目を開けるヌイがいた。
全身の毛がそばだち、血の気が薄くなる。意識は途切れそうになり、くらくらと眩暈がする…いやこれヴィクトルと戦ってた時もこうなったような。それと同じぐらい危険信号が出ているということか。
なるほどな、選択肢をミスったら死、と。わかりました。
「俺は背が高い方が好き」
「そんなことを言ってほしいと思ってるのスーは?」
うーん、これはミスったな。シャルにリスポーンの準備でもしておいてくれと頼まないと。
目を閉じ、己の選択を後悔しながらその時を待つ…が、一向に何も起きない。
恐る恐る目を開けて見てみると、ヌイはあきれ返ったような顔で太ももをぺしぺしと叩く。
ああ、なるほど。そこに座れということだね、我が相棒よ。君が言うのであればどこにだって行って見せよう。
「え、お客さん…急に何してるの…?」
「おおー、お熱いっすねェ!どうすかミコさん!俺らも!」
「ヤダ」
ふ…ふふ。まさかここでも同じムーブをすることになろうとは。既に外野の声なんぞ聞こえるはずもない。というか聞きたくない。
この状態に名前を付けた方がいいんじゃないか?例えば、「フォーメーション:膝抱っこ」とか。…言葉にすると余計恥ずかしくなってきたな。完全に子供扱いじゃないか。
羞恥心で俯いていると、ヌイが小声で、
「後でお仕置きだからね」
と言ってきた。いやこれがお仕置きじゃないのかよ。
---
「つーわけで、俺がスーだ。宜しく」
「ヌイだよぉ」
「え…?この状況で自己紹介…?まぁいいんだけど…わたしは【商業型計算特化系ドロイド35:パーペチュアルオーバータイム】…ミコってよんで」
パーペチュアルオーバータイム…これは多分「永久残業」だな。イシグロが”稼げない”だったら、ミコは”帰れない”か。いつの時代も労働者階級ってのはこういう扱いのままなんだ…未来に希望が持てなくなってきた。
しかし…商業型?そういえばイシグロは労働型だっけ?型が違えば形も全然違うのだろうか。
「宜しく、ミコ。やっぱり型番が違うだけあってキサラギとはやってること違うの?」
「…まぁ、そうだねー。具体的には、肉体労働が多いのが労働型で、頭脳労働が多いのが商業型。とは言ってもそのあとの系統でまた専門分野が分かれるから…結局はあんまり関係なかったりする…」
「割と適当なんだねぇ…」
俺たちとミコが話している間に、「僕伝票取ってくるっすよ~」と言い残してキサラギはカウンターの裏に引っ込む。
陽キャの彼が居なくなってしまったことにより場は少しだけ寂しくなるが、だからと言って会話が止まることは無い。
「なぁ、人っていなくなってから随分経つんだろ?なんで誰も利用しない店が未だに経営してんだ?」
「…んー…いつかまた戻ってきた時のため?」
「ちなみに戻ってくる可能性はあると思ってる?」
「いやー…全然。最初の一年はそう思ってたけど、今は何のためにやってんだろって感じ」
先程までキサラギが座っていた席にミコが座る。その表情はなんだかすべてをあきらめた人のようで、ほっとけなくなってしまう。
…キサラギが言うには、確か23年前にこの星から人が居なくなったんだよな。その時からずっと同じことを続けなくちゃいけないなんてちょっと心細いよな。
とはいえ、別に彼らが一人ぼっちではないという点は救いではあるよな。だからこそキサラギのように元気にしているアンドロイドもいるのだろうが。
「それにさー、20年間所有者契約が更新されなかったら自動的に主登録が抹消されちゃうっていう規約があってねー…」
「20年…なら、ミコちゃんもキサラギも今は野良のアンドロイドってことになるのかな?」
「うん。うちの会社だけじゃなく、この世界の会社ってさ、人が入社する時にパートナーとして一体のアンドロイドが支給されるわけね。でその人が契約更新とかする手はずだったんだけど…ってこと」
「なるほど…」
アンドロイドもやっぱり資産として扱われてるんだ。なんか車、もしくはパソコンみたいだな。社会人になったら会社用のパソコンを支給されるところも多いと聞く。
…というか、20年で更新?てことは今街中で稼働しているであろう奴らは全員野良状態か。過疎ったMMOかよ。
「…ねー、どうせこの後も観光していくんでしょ?どうせだったらわたしを連れて行かない?今の仕事に飽き…んん、活かせる何かが見つかるかもしれないし」
「え?いやでも」
「今なら『ますたー』って呼ぶよ?ねぇ、『ます…
「…我がマスターをマスターと呼んでいいのは、私だけですよ?女狐」
「…え…?」
突如として、ミコの後ろで何かがズモモと組みあがっていく。
その形は不定形ではあるものの…声はいつも聞いている声だった。
ミコが体を震わせて振り返るころにはすっかりと体が出来上がり、その小さい体を見下ろす大きな体。
スチームパンク風味のメイド服に身を包んだ彼女は…俺の専属AIだ。
だが…認めたくないところもある。いや別に彼女がシャルではないと言いたくないわけでは無いのだ。むしろ大学で見た時と同じぐらい威風堂々としている。
認めたくないのは、その容姿。
「いやどの口が女狐と」
「マスターの好みに合わせたもので」
そう。
シャルは大学の時宣言したように、ケモ度が高い状態で出張ってきたのだ。
…いや確かに好みだけどさ…それを言うなよな…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます