未来のコンビニで、相棒と食事を
「なんつーか…陽気なロボットだな」
「ハハ!そりゃ接客業っすからね!なんか今の時代、こういうおちゃらけた感じが親しみやすいって聞いたんで?それを真似してるってことっす!まー最近は利用してくれる客足がぱったり途絶えちまいまして、こういう風に話すのも久しぶりなんすけどね」
なんだかコミカルな動きをしながら話す彼はいわゆる陽キャを想起させる。きっとそれを参考にして話ているのだろう。
…カメラ頭の液晶口でここまで真似できるのは、きっと彼が努力したからに違いない。彼と同じタイプのロボットが全員この性格だったら嫌気がさしそうだ。
「客足が途絶えた?」
「おっ、綺麗なお姉さんすね。いや僕もしらねーんすけど、なんかある時からパターーッと人いなくなっちゃったんすよね~。その後に来た人は数人程度っすね」
「…ちなみにそのある時ってのは?」
「あんまちゃんと数えてねーっすけど…23年と59日と4時間前っすね。そん時に捌いたお客さんからだと思うっす」
彼は首を傾げて、「これ以上正確な部分は覚えてないっすね」と言っていた。
割と適当な話し方をするくせにちゃんと覚えるところはばっちり覚えてるじゃないか。この辺もなんというか陽キャそっくりだな…。
「ねぇ、その”ある時”の後に来た人って、どんな人だった?」
「んーそうっすね…あの人達はウチの住人じゃない観光客って感じっしたね。どうやら、僕らイシグロを見に来たとかなんとか…」
「”僕ら”?イシグロっていうのは君の名前じゃないのか?」
「あ、お客さんは知らない感じ?僕の個人名称は別にあるっすけど、イシグロって言うのは型番みたいなもんす。正式名称は【労働型自律思考系ドロイド1496:ワーキングプア】っすよ。数字のところを取ってイシグロって呼んでる人が大半っす」
「ワーキングプア…」
車の時も思ったが、名前つける人は心が無いのか。せめて普通にワーカーとかでいいだろうに、なんでそんな悲しくなるような名前を付けるんだ。ほかの奴らもそういうネーミングが付けられているのだろうなと考えると、彼らにその意味に気づいてほしくないと思ってしまった。
いやそれより、今「観光目的の客が来た」と言っていたな。それも、滅んだタイミングの後。だがその人達はここの住人でもないとも言っている。
ここから考えられるのは、別の惑星から来た人達ってことぐらいか。それ以上だと、なんで人が立ち入っちゃいけないタイミングで入れたのかとか疑問があるけど…そもそも人?生身があるかどうかすら怪しくなってきたな…
うんうんと唸っていると、彼は飲食コーナーがあるからそこで話そうと提案してきた。ついでに話が長くなるかもしれないから適当に何か食べたいものを持ってきてもいいとも。賞味期限も大丈夫だということでとても気の利くやつだが、お金とかは大丈夫なのだろうかと思ったがサービスで今回は無料にしてくれるとか。ならご厚意に甘えるとしよう。
「ねぇスー?これってなんだと思う?」
「ええ?んー…完全栄養食とか?シャル、なんて書いてある?」
「【固形型基本食:バー】と書いてありますね」
ヌイが手に持ったそれは、見た目と名前から察するに一本で満足できるタイプのお菓子とかだろうか。
にしては無骨なデザインだな、客の購買意欲を掻き立てるようなものは無いのか?
「あ、それは副食と一緒に食べることが前提の奴っすね。副食のコーナーは後ろの棚っすよ」
「え?…あ、ほんとだ。こっちの方がなんか色味がすごいな」
彼が指さす方向を見てみると、カラフルなパッケージがたくさん置かれている棚があった。そこには見覚えがある料理や、知っている食材、はたまた知らないゲテモノみたいなものまであった。
シャルに頼んで読んでもらうと、【母の味を思い出させるカレー味】とか【とろける口溶けで至福の時間を。プリン味】など書いてあるらしい。普通に気になる商品ばかりだし、この時代まで進んでもやっぱりカレーは母の味なんだな。
基本食に関しての違いはどうやら食感だけだったので適当に固形型の物を取り、副食はカレー味を食べることにした。本当に母の味を思い出させるのかを確かめてやる。
ヌイと一緒にワイワイとコンビニ商品を見ていくと、ふと気になる雑誌に気が付いた。
それは…人がロボットを掴んで殴っている表紙がでかでかと書かれていて、一緒に文字も書いてあるが読めない。
「マスター…あの雑誌が気になりますか?」
「ああ。なんというか…こういうのって差別的なものじゃないのか?」
「気になるのでしたら、イシグロに聞いてみればよいと思われますが」
それもそうかと思い、雑誌を一つ手に取って席に戻ることにした。
先に戻っていたヌイはいろいろな食糧を手に持ってニコニコしていて、隣にいるイシグロはちょっと苦笑いしていた。そらそうだわ。うちの相棒がすまない…
---
「そういえば自己紹介してなかったよな。俺はスー」
「ヌイだよぉ」
「僕の個人名称は”キサラギ”っす。店長が名付けてくれたんすけど、命名理由が『最寄り駅だから』らしいっすね!ウケるっす!」
店長ェ…
いや店長もそうだが、最寄り駅がまさか”キサラギ”駅だとは。駅にその名前を付けるのはもうちょっと遠慮してほしかったかな。
自己紹介もほどほどに、俺たちが持ってきた食料を食べてみることにした。ちなみにシャルはこの時間を利用して解析しまくってもらうことにした。一人だけ仕事させるのはちょっと気が引けるが、彼女がそう言うのだから仕方ない。
一旦基本食だけを口に放り込んでみたが、これは確かに味が無い。食感だけが情報として伝わってくるので食事の楽しさが無い。
そこで副食のカレーを一緒に食べてみると…うわ、本当にカレーになった。
「すげぇ、今俺完全にカレー食べてる気分だ」
「スー!ほっひもおいひいよ!」
「一気にほおばるんじゃない…ハムスターみたいになってるぞ」
ヌイの口元が汚れていたのでハンカチでふき取ってやる。するとにっこりと笑顔を浮かべ俺の方に食べてたものを差し出してきた。
どうやらハンバーグの味付けの物らしく、基本食にソースのような茶色のドロッとした粘性の高い液体かかっている。
これ、実は俺も少し気になってたんだよな。有難く頂こう。
「…ん、確かにハンバーグだし、しかも肉汁があるように錯覚するほどうまい…」
「でしょー?あ、スーの方も頂戴!」
「あいよ。ほれ」
「…うぉー、すごい!この妙にしょっぱいカレー!まさに母の味だねぇ!」
俺が食べていた分をヌイに差し出すと、残りの分を全部持って行った。食い意地が張ってるなぁ…
ニコニコしながら「これ両方一気に食べたらハンバーグカレーになるじゃん!お得!」と言っているヌイを眺めていると、キサラギが小声で話しかけてきた。
「彼女さん、かわいいっすね」
「だろ?手出すなよ」
「いや、僕ミコさん推しなんで」
ミコさん?誰?
そう問いかけようとしたその時、唐突にコンビニのドアが開く。
そこには…キサラギとは別のアンドロイドと思われる彼女?が立っていた。
…俺がこのアンドロイドを彼女と言った理由は。
「…はぁ、めんどくさ。伝票回収きたよー」
「あ、ミコさん!」
いや胸デッッッッッッッッッッッッ!!!!
——そのアンドロイドが、ロリ巨乳の美少女だったから。
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