2つ目の星、ウリエラ
新しい星「ウリエラ」に、相棒とお散歩を
「いやー、この辺とかすごい苔むしてるね」
「ヌイ、その辺滑りやすいから気を付けてな」
「え、ほんと…わわッ!?」
「うお…とと、あぶねぇ…。こりゃ靴を履き替えた方がいいかな?」
「登山用シューズでしたら、ヌイ様が学習していたのでそちら経由で生成できるはずです」
図書館で移動が楽になる物を重点的に勉強したヌイは、そんな物まで出せるようになっていたんだな、と靴を履き替えながら感心した。
シャルは出番があるまで省エネモードにしたいと言い、今はコートですらなくデバイスの形を取っている。これであれば複数個を同時に動かせるらしく、俺とヌイがそれぞれひとつずつ持つことにした。
というわけで、無事ウリエラに降り立つことができた俺らは、一度周囲を探索しようという話になった為に歩き回っている。
この星についての概要は聞いてはいたが、百聞は一見にしかずとはまさにこのこと。
俺たちが降り立った場所は、どうやら公園らしく、見たことのない遊具がいくつか置いてある。それらのすべては苔にまみれており、損傷が激しい。長い年月が経ってしまって原型を留めていないようだ。
地面は土ではなく、やわらかい別の素材でできている。シャルが解析すると、踏んだ時に電力が発生する建材だとか。なるほど、こうやって子供が遊ぶエネルギーすら効率的に電気に変えようってことか…
公園から目を離して見ると、周りには蔦に覆われたビルがあるが、これらはギリギリの状態で残っている。下の方に目を向けると倒壊した建物だらけだ。いつかすべての建物がこうなることだろう。太陽のような恒星が確認できないにも関わらずガラスには光が反射していた。どういう原理なんだ…?
このビルたちが一体どんな用途で用いられていたのかはわからない。が、現実世界でも乱立しているビルの用途を一々気にするような人間ではないので特に気にならなかった。
そして、遠くの方にあるのに近くにあるように錯覚してしまうほど大きい建物…いや、城?物理法則を無視したような構造でできているそれは、明らかにほかの建造物と違い異様だ。
現実世界で言えば、明らかに自分の国のところにない建造物がそこにあるようなぐらいの大きさ。そして現代技術では再現できない、アニメを参考にして作りましたと言わんばかりの見た目。この表現で伝わるかは微妙ではあるが、俺にとってはそのぐらい違和感がある。
「あの建物…建物?すごい大きいねぇ…登っていけば宇宙まで行けるかな?」
「…あちらは宇宙ポートですね。滅びる前ではたくさんの宇宙船が飛び立っていたことを確認しています」
「てことはマジで宇宙まで行けるんだな…気になるし、その宇宙ポートとやらを目指してみよう」
「うん!」
その宇宙ポートとやらに情報があるかは知らないが、今回は観光。あっても無くても特に問題は無い。
目的は滅びの原因究明でも、メインは楽しむことだ。それも俺の相棒と。
足取りも軽やかに、俺たちは未知の世界へと足を踏み出した。
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「わははーーーッ!!!今更歩いてなんか行けるかーーーッ!!!!」
「この車すごいねぇ!早いし少しの瓦礫なんかも関係ないねぇ!」
「うはは、この車は四駆だぞォ!!!まぁ言ってみたかっただけで実際はそうなのか知らないけどな!!ガハハ!!」
…足を踏み出しはしたが、それは一歩一歩踏みしめる意味で言ったのではなく、アクセルペダルの方。
凄まじい音を立てながら進むその車は、大学にあった小さめの駐車場に置いてあったもの。俺自身車に関して全然詳しくないのだが、シャルに解析させたところランドローバーというシリーズの最新版らしい。
まあ見ていた部分としては、異世界にありがちな悪路を走破できるかどうかという部分だけだったのでそこまで気にしてはいないが、なかなかかっこよくて好きだなこの車は。
ところどころシャルによる改造が施されているらしく、外見もちょっと違ったりする。シャルをUSB経由でカーナビに差し込めば異世界でルート検索もできちゃう!
ちなみに免許は去年取ってある。無免許運転はよくないぞ!
「あ!ねえスー、ここにもコンビニがあるよ!やっぱり乱立してるのは現代と変わらないんだね!」
「何が売ってるのかちょっと気になるんだよな…寄ってみる?」
「うん!」
比較的破損が少ないコンビニを見つけてパーキングエリアに駐車した。どうやらこの車は想定より大きく、通常の1.5倍ぐらいのエリアを取ってしまったが、ほかに使用する人なんていないのだから気にしない。
…しかしほかの車は小さいな。人が一人乗るのが精一杯なんじゃないのか?と所有者がいたはずの車を見て思った。
「シャル、あの車みたいなのがこの世界の主流なのか?」
「…その様ですね。解析してみたところ、【運搬型移動特化系機械:コフィン】だそうです」
「いや棺桶じゃん…」
確かにちょっと棺桶っぽいなとは思ったが…名前までそうだとは。というかこれが一般的な乗り物になる世界ってなんなの…?
シャルがほかの物も解析をし始めたのを横目に見ながらコンビニに入ることにした。多分いろんなこと気にしてたらこの先やっていけない、と思いながら。
コンビニの入口にはドアらしきものはないのに、入ってみると空気がちょっと冷たい。どうやら空気の流れか何かによって扉の役割を代行しているみたいだ。進んでる技術だけど、防犯的な意味で言えばなんとも…
「あ、らっしゃっせー」
さて店内でも物色するかと思って前に目を向けたところ、カウンターの方から何者かの声が聞こえる。
幻聴か?と思いヌイの方を見ると、同じことを思ったようでばっちり目が合う。
はて、シャルが言うには既に生物はいないはずだが。では今の声は自動音声か何かだろうか?
「そこに突っ立ってどうしたんすかお客さん。こっちも久々の客なんで元気に対応させていただきますよ!」
「…あ…おう…」
奥の方から人影がにゅっと出てきながらそう言った。
その人…いや、見た目は人じゃないな。特に頭。
彼の頭は、一言で言えば「ハンディカメラと小さめの液晶が合体したもの」だろうか。俺たちの行動をよく見るためかわからないが、さっきからズーム音みたいな音が定期的に鳴るのが聞こえる。
また、腕などはロボットなどについているアームを連想させるような無機質感がある。一応コンビニの制服と思われるものを着ているので、シルエットだけ見たら人っぽいかもしれない。
けど…これは…
「なんすかそんなじろじろ見て。あ!もしかして僕らイシグロを見に来た人だったり?」
確実にロボットだ。生物ではない。
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