次に行く星に対する考察と、相棒のいつもの行動

「既に滅んでるって?」

『…ええ。お恥ずかしいことに。本当は保留の星としてとっておいたのですが…ふとした時に急に滅んでいたのです。文明だけでなく、生物までも』

「そりゃ…確かに謎だな」

『なお、星の時間軸について、現在はロールバックさせることは不可能です』

「…へぇ…現在は、ね」

『…時間が進むということは、エントロピー増大の法則に従っているので可能ですが、時間の逆行に関しては不可能に近いです。

…ですが、マスターは先ほどの口ぶりから予測するに、答えはわかっているのではないですか?』

「軽くだけどね」

「ちょ、ちょっと待って…全然話についていけないんだけど…」



ちらりとヌイを見ると、難しそうな顔をして頭を抱えていた。

しまった、俺とシャルだけで話が盛り上がってしまったな。ヌイもわかるように話をまとめるか。


今回の話で重要なのは、「惑星が滅んでしまった理由」ではなく、「惑星が滅ぶ前に行く為の方法」である。

そしてシャルの話では、時間を進めることはできても、時間を戻すことはできないとのことだが、それも”今”の話。

つまりは、どこかに技術がある為、それを取り戻すことができれば過去に戻ることも可能!


そしてその技術に関しても予想はつく。

シャルは、「エントロピーが増大することで時間が進む」と言った。これはつまり、「マクスウェルの悪魔」…エントロピーを減少させる存在さえあれば可能だということ。

現実の世界ではこの悪魔は存在することは無い。熱力学第二法則で禁じられているしな。

だが…その物理法則を無視する力がこの世界に「スー?ちょっといい?」



「えーと…スー、分かりやすく話してるのかもしれないけど…全然わかんないや。答えだけ聞いてもいい?」



ヌイが俺の頭を撫でながらそう言った。

ゆっくりとヌイの顔を覗いてみると…なんとも生暖かい目をしていた。これは、近所の子供が覚えたての言葉を多用しているのを見てほっこりしている顔…ッ!

必死に勉強したんだねぇ、と言った言葉が透けて見えるような優しい表情は、いとも簡単に俺の羞恥心を煽る。


…めちゃ恥ずかしい。ただ単にわからないと言われるより、俺の行動をなだめられるのがこんなに恥ずかしいとは。

しかもドヤ顔で「話をまとめるか」なんて言ったのも何なんだ。全然話がまとまってないぞ。


はぁ、冷静になろう。そして答えだけ告げよう。

どうせ合ってるんだ。最初からここだけ言えばいい話なんだ。



「………つまり、時間逆行をする魔法がこの星に存在する!!そうだろ!!!!」

『違います』

「え~~~~~~~~はず~~~~~~~」



一瞬で俺の顔が火だるまになった。いや実際はなってないが、そのぐらい顔が熱い。

恥ずかしさのダブルパンチにより頭の上をひよこが飛んでいる。このまま掴み技でもゲージ技でも入れ放題である。


…ヌイと顔を合わせられる位置にいなくてよかった。でなければ今俺に掴み技を入れている彼女に顔を見られてしまうから。

というかちょっと放っておいてくれないかな…一旦ログアウトしたいよ…



「えへへ…スー顔真っ赤だねぇ…かわいいねぇ…」

「ヤメテ…」

『…マスター、そこまで恥ずかしがることでしょうか?』

「ン…」

「あはは、こうなったらしばらくはこのままだねぇ。じゃあ私が変わりに話すけど…スーの言ったことって、どこまで合ってた?」



ちょっと声が出せない俺に変わり、ヌイが話を引き継いだ。

確かに俺もどこまで合ってたかは気になってたところだ。これで最初から最後まで全部違っていたとかなったらもう立ち直れない。



『そうですね…最後の回答だけに絞った場合は間違い、と言ったところでしょうか』

「というと?」

『エントロピーに関する話や、マクスウェルの悪魔などに関しては正解です。実際、それを可能にするほどの法則を持った魔法があり、その魔法を使うことが時間逆行の方法です』

「ははぁ、なるほど。じゃあ、スーが間違えたのは、”その魔法がこの星にある”ってところだね?」

『その通りです。「考え方は合っているが、具体的には違う」と言ったところでしょうか』

「…………なんだぁ…それなら早く言ってくれよぉ…」



なんだか、途中式は合っていたのに答えの欄に別の回答をかき込んでしまった気分だ。そういうときだけ途中式で判断してほしいとわがままな気分になってしまうのは俺だけではないはず。


全部を間違えていないのであれば問題は無い。

恥ずかしさはどこへやら、表情も背筋もピンと張りつめられるぜ。なお背筋を正すとヌイの胸が背中に当たっていることを再認識してしまうので気づかないふりをする。あくまでも「ヌイが後ろにいる」ということだけに留めておかなければ俺の意識は飛ぶ。



「お?立ち直れた?」

「…もう大丈夫だ。じゃあその星の話に戻るか」

『……そうですね、話を戻しましょう』



何故だか、シャルが呆れているような表情をしている気がした。文字だけなのにネ。



---



「とりあえず、行く行かないにしろ、概要ぐらいは聞いておきたいな。あと正解についても」

『承知しました。では…』



俺たちの前にホログラムでできているような星が映し出される。

球形なのはほかの星と変わりないが、よく見ると表面の凹凸が激しい。その形は自然にできたものではなく、人工物のように見える。ここから予想できるのは、文明の発達度は相当だったということだろう。

どうやらこいつが今回の星らしい。


その星の名前は、【第25号惑星 準2等級 Uriela 10383 JZ】。通称「ウリエラ」と呼ばれているらしい。ちなみに危険度は中だが、滅んで生物が存在しない為、低難易度だとか。

話にあった通り、この惑星は既に滅んでいる。それも、時間をかけずに。

惑星が生成された当初は、魔物や人間が均衡を保っていたようだが、とある時を境に均衡が崩れ、人が土地を支配した。

その後、どんどんと文明は栄えていき…どうやら惑星間を移動する程になったそうだ。なお、今回は別の惑星にも行こうと思えば行けるらしい。

そうして、地上が見えなくなるほどの建物が乱立するようになった時…”何か”が起こった。

これにより綺麗な都市は一瞬にして廃墟となり、土埃が舞う無人の都市となった。


俺らが向かうのは、そんな崩壊から数十年後。なぜ時間が経っているかというと、崩壊した直後は人が居ていいレベルの環境ではなかったからのようだ。だから人が活動可能なレベルになるまで時間を進めたらしい。


…現状ある情報だとこのぐらいだ。

この星を探索するならば、目的を「文明が滅びた理由の解明」に据えるのがいいだろう。

いや別にこの目的にしないといけないわけでは無いが…ただ無意味に探索するのも味気ないだろ?



「OK。大体わかった。んで、シャルはこの”何か”については予想は立ってるのか?」

『そうです。マスターが考えていた、【時間逆行を行使できる魔法】ではありませんが…近しい物があるのを発見しました』



シャルは一呼吸分おいて、次の言葉を紡いだ。



『宇宙の法則を改変…つまり、【因果律に干渉する魔法】です』

「…だいぶ大きく出たな」

「因果律…それって、時間逆行よりもすごい魔法じゃないの?」

『その通りです。しかしこの魔法はどうやら【改変】ではなく【干渉】のようなのです』

「それはどう違うんだ?」

『そうですね…もし、【改変】であったのならば…それは、マスターが本来使えるべきだったというべきでしょうか』



うーん?因果律に干渉する時点で既にだいぶおかしい魔法だと思うのだが…改変だと権能レベル?そして俺が本来使えるべきだったとなると…?



「…俺らプレイヤーにしか使えないレベルの代物?つまりは【天地開闢】とか【クリエ】とかと同じ次元ってことか?」

『その通りです。そしてその権能を、きわめて限定的ながら使っているのを確認できました』

「ふーん…なるほど。ちなみにその魔法を解析出来たら?」

『マスターが権能を取り戻す可能性が…と言いたいところですが、使えるのはせいぜい干渉程度。本来の力には遠く及びません』

「ですよねー」

「まぁ確かにここで解析できたとして、使えるのは解析できた部分までだよねぇ…」



それでも…この技術で過去に関する情報が手に入れられるのであれば、目的である「文明が滅びた理由の解明」の調査も大きく進むだろう。

…まぁ、結局は時間逆行に関する部分があるかわからない為、机上の空論でしかないわけだが。



『以上の事を加味し、文明が滅びた理由について「誰かが因果律に干渉して”何か”を行った」というところまで予想できます』

「…はぁ、なかなか面倒くさいことになってんな」

「そうだねぇ…どうする?やっぱりセレーネを先に探索する?」



んー…正直に言うと、別にセレーネを今探索しなくちゃいけないわけでは無い。だが今のウリエラの状況が面倒くさいことも確か。

セレーネに関しては、確かシャルから言われていたこととして、「一番デカい国を目指す」ってのがあったはず。だがそれに関しても結局は強くなる技術を手に入れる為だ。ウリエラに行って因果律関連の力を手に入れるのもまぁ同じことだろう。

両方を天秤に乗っけて考えた時、ウリエラ探索の方が気持ち的にも上だ。今のセレーネはヴィクトルの影を嫌でも追ってしまいそうだから。

むしろここで権能の修復をした方がヴィクトルとの戦闘で有利になれるな。対策は立てたが、それが通じるとも限らない。だったらここで戦力強化と行こうじゃないか。それまでセレーネに関しては極限まで時間を遅めてもらうか。じゃないとレイエス達が疑問に思うだろうからな。

…というか、多分ヴィクトルも因果律関連の能力を持ってる気がするんだよな。これはほんとただの予測でしかないけど。だからこそ対抗手段が必要なんだ。よし、決まったな。



「…シャルにここまで説明してもらったんだ、気にならないわけがないだろ?」

「やっぱり、スーならそう言うと思ってたよ!」

『承知しました。では降り立つ地点を算出しますので少々お待ちください』



あれ、前の時は無理みたいなことを話していた気がするな、とシャルに話してみると、最初に降り立つ地点は変更できるが、一度降り立った後は座標が固定される為、ワープのような挙動は無理と説明された。そういうことであればしかたない。

ホログラムの星にいくつかのピンが刺され、何かしらの計算式が浮かんでは消える。

最初はたくさん刺されていたのに、計算が進むにつれてどんどんと数が減っていき…ついには数個になった。


きっとこの中のどれかから行くことになるのだろう。出撃画面みたいでちょっと興奮してきた。次セレーネに行く時もこんな感じにしてもらおうかな。


どうやらシャルの選定が終わったらしく、ポイントを選んでほしいと催促をしてきたので、とりあえず一番近場のポイントを押そうとすると…



「スー、待って。シャル、この場所って本当に安全かどうか確かめていい?」



…あー、そうだった…ヌイの過保護が発動するタイミングがあったなそういえば。

またここから長くなるんだろうなぁ…と思いながら、立ち上がる動作すらヌイに抑え込まれているためにできないという、少々退屈な時間が過ぎるのを待つしかなかった。

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