食事を取り、相棒との日常回は一旦終了
「図書館でちゃんと勉強したのって俺初めてだな」
「え、そうだっけ?小学校のころ行ってなかった?」
「あれは某狐の怪盗の漫画を読むために行ってた。後は例の燃えてる鳥とか」
ズズっとラーメンをすすりながら俺たちは昔話をしていた。
研究室から離れた後、一度図書館で勉強していたのだが、時間が午後6時を超えたあたりで俺の腹が音を鳴らした上、勉強もひと段落ついたということで一度帰りがてら飯でも食うかという話になったのだ。なおそのタイミングでミグとも解散した。
ちなみにシャルもラーメンを食べるらしい。機械の体なのに食うのか…と思ったのだが、エネルギーの補給は食べ物からでもできるという話をしていたので問題ないんだろう。
俺は豚骨で、ヌイは醤油。シャルは…なんかすごい量のトッピングを付けた謎のラーメン。俺とヌイが食べている量の倍はあるレベルのそれは、既に麺の部分が見えてない。これに半ライスも付けている為もはや大食いチャンピオン並み。
「シャル…それちゃんと全部食えるんだよな…?」
「勿論。それどころか少し少ないほどです」
「…見てるだけでもお腹いっぱいだよ…」
見た目が可憐でスタイルのいい女性なだけあって周りの人もシャルの事を見ている。…まぁ確かにシャルの見た目は異様だから見たくなるのもわからないでもない。俺だってスチームパンクロボアームメイドがいたら絶対ガン見する。
そんなことも気にせずにどんどんとかき込んでいくので、もう気にしないことにした。
「んで、ヌイは今回の勉強でなんか身についた?」
「んー…全然。私はスーみたいに何かを呼び出して攻撃!みたいなのがあんまり得意じゃないんだよねぇ」
「え?でも物干し竿とかバリスタとか出してなかった?」
「…あれさー、出すとき集中力めちゃいるじゃん?だから一個作り出すのに時間かかっちゃうし、そもそも戦闘中にそんなことしてる余裕はないんだよねぇ。…スー、よくあんなことしながら戦うことできるね?」
そうだったか?まぁ確かに【クリエ】で作成するとき、頭がチリチリするような感覚はあった。だがその感覚が好きだったので特に何も言うことは無かったし、ヌイもそうなのかなと思ったのだが…違うこともあるのか。
なぜかこういうところは俺と違うな。ヌイは俺の脳みそを共有しているはずなのにね。
「その代わりヌイはスキルとかの威力が上がってるんだ。【毒火花】だって、ヌイの威力はおかしいぞ」
「あはは、じゃあお互い得意なことが違うってことだね。2人で1人だ!」
「…ま、そうだな。欠点はお互いで補えばいいか」
「………私の事も忘れないでくださいね、マスター」
「いや別にシャルを忘れてたわけじゃ…ってもう食い終わってる!?」
俺とヌイのどんぶりにはまだ並々と残っているが、シャルのどんぶりは既にすっからかんだ。スープまで飲み干している。
ラーメンを作っていた店主もびっくりした顔でシャルとどんぶりを見比べている。
シャルは満足した顔でお腹をさすっているのだが、まさかあの量を食べたとは思えないような体つきだ。全然お腹が膨らんですらいない。
…いや、そもそも機械の体だから別にそこに胃があるってわけじゃないのか。もうそれで納得することにした。
今後のシャルの食費はなかなか嵩みそうだな、と考えていると、シャルが俺の耳元に小声で囁いた。
「…私の体が気になっているようですが、ちゃんと女性と同じ構造をしていますよ? …勿論、女性としての機能も備えております」
「ッ…!!」
「マスター…直接確認を…してみますか?」
おおう…突然のウィスパーボイスからのこの発言ですか。ちょいと刺激が強すぎるな、俺じゃなければ確実にこの後ベッドで確認の流れになってしまう。というか俺でも危ない。
耳を押さえてシャルの方向を見ると、悪戯に成功した子供のような表情を浮かべていた。
その顔はまるで、ヌイが俺に時折見せる表情のような…
…うむむ…なんかシャルからの好感度が高いな。いつこうなったかと言われればわからんとしか言いようが無いが、呼び方が変わった時点で何かしら変化でも起きたのだろう。
嬉しいけど、あんまり悪戯されるとちょっと体が反応しちゃうから困る。いやほんとヌイの時もそうだけど、みんななんで俺が反応しちゃうような言葉を知ってるんだ?もしかして俺が単に弱いだけなのか?
「…シャルゥ?私のスーに何してるのかなァ…?」
「ヌ…ヌイ様、落ち着いてください…マスターも、えっとほら何か…」
「ここのラーメン美味しいなぁ」
「そういえばさァ…私もパイルバンカーみたいなやつできそうなんだよねェ?シャルちゃん、一旦お腹出しな」
「き、緊急脱出を!緊急脱出の許可をくださいマスターーー!!」
別にシャルだけで逃げればいいのに、律儀に俺の命令を待っているシャルはヌイからの攻撃を防ぐためにお腹を守っている。
ヌイはと言えばまるで某グルメバトル漫画の主人公のように腕をギギっと引ききった。臨戦態勢だ。きっとアレに殴られたらシャルといえど大変なことになるのではないだろうか。
とはいえ、別に店に迷惑をかけてまでやろうという気持ちは無いようで、お互いにじりじりと見合う時間が続く。
良し、引き続きラーメンの味を楽しむことにするか。
「スーに頼らない。シャルちゃん…一旦店でよ?」
「…ヌイ、別にそこまでやらなくてもいいんじゃない?」
「えーでも…」
「食い終わってからにしよう」
「マスター!!!???」
前に言い雰囲気を邪魔されたからお返しだ。
…まぁ流石に本当に殴ろうとしたら止めるだろうが、今はこれで。
彼女らを見ているうちにラーメンが少し伸びてしまったが、味は変わらないままでおいしかった。
また別のタイミングで食べにくるとしよう。
---
時刻は大体午後8時。
とはいってもここで外の景色を見ることはできない。なぜなら今はネクラの中だから。
真っ黒なカーテンはいまだに光を通すことは無い。別にこのカーテンを開けることも可能だろうが、特に開けたいとも思わない。
シャルはとっくに人型から元のコートの形状に戻り、それでいてその体は使用せずにウィンドウの状態で俺たちと会話をしている。
え?今回はちゃんとソファに座ってるのかだって?
座ってるよ。
ヌイを介してるけど。
「すっかり定位置だねぇ」
「俺は別にここがいいってわけじゃないんだが」
「でも、ソファに直接座るよりマシでしょ?」
「…うーん、実際そうなのがほんと悔しいんだよなぁ…」
何故かは知らないが、俺とヌイの身長差は本当にぴったりのようで、お互いの体を邪魔することなく膝の上に座ることができている。…俺がヌイの体を作ったと言えど、ここまでは想定していなかった。シャルが調整したとも思えないので、これは本当に偶然だろう。でもよ~く思い出してみると、前に座ってた時は1時間ほどで尻が痛くなった気がしたのだが…気のせいだろうか?
…あと、ヌイの太ももはやわらかいので気持ちがいい。彼女の言う通りソファより断然いいのだ。そこが認めたくないところなのだけれど。
『…ではマスター、もう少しだけ休憩したらまたセレーネに向かいますか?』
「シャルもこの光景に慣れたようで嬉し…いや嬉しくは無いけど…。まあそうだな。中途半端ではあるもののやりたいことはできたしな」
「一応当初の目的は達成できたってとこかな?」
ヌイの言葉に俺はうなづきで返す。
最低限俺らが星で戦える程度の戦力は整えたし、移動が楽になる乗り物だってシャルに解析させた。
準備という点で言えば万端に近い。
『承知しました。ではその時になりましたらもう一度話しかけてください』
「あ、待ってくれシャル、そういえば聞きたいことがあったんだけどさ。今行ってるセレーネには魔法ってあるの?」
俺が今回現実で整えられたのはあくまで現実で存在している物からだ。
…今のところ戦う気は無いが、ヴィクトルとの再戦に向けての準備はもう少ししておきたい。そのために、ネクラ内に存在しているデータの修復を進める必要がある。
その中で一番重要だと思ったのが、魔法の存在だ。
確か、wikiには魔法についての概念が乗っていたはず。あまりにも長くて読むのに手間取ったが、爪に火を灯す魔法から対惑星規模の魔法まで存在していることは確認済。
なので早めに適当な攻撃魔法でも習得できればな…と思って聞いた質問であったのだが。
『マスター、申し訳ありませんが、セレーネでは"魔法"は使われておりません』
「え?でもヴィクトルはそれっぽいの使ってたよね?」
『ええ。ですから、”魔法”は使われていないと言ったのです』
「じゃああいつが使ってたのが魔法じゃないとしたら…スキル?」
『半分正解です。正確には、【固有技能】です』
じゃあ結局スキルじゃねーか、と思ってシャル(ウィンドウ)を睨むと、バカを見る目でその違いについて教えてくれた。
曰く、俺の考えているスキルとネクラ内でのスキルは違うらしい。
俺が考えているような「誰でも使うことができる技能」というのは、自分で苦労して学んで、ちゃんと使えるようにならないとスキルとして認定されないらしい。しかもそこまで行っても名前は【汎用技能】と呼ばれるようだ。まぁ確かに練習して覚えられるなら汎用ではあるけど…世知辛い世界だ。
なのでセレーネでは技能はあるけど魔法は無い世界だ、というのが結論としてまとまった。
「…はぁ~、魔法、使ってみたかったけどなぁ…」
『マスターは現在ヴィクトルが使用していた【固有技能】を一部使用できることをお忘れで?』
「いやアレでもいいけど…気分的に気乗りが…ね」
実は勉強をしている最中、様々なパラドックスの問題にも目を通していて、その際にwikiに書いてあったとある文章を思い出したのだ。
「パラドックス関係の不可解な物理現象などは、GenesisCraft内にて再現することができる」
この文章を見た時はそれはもう心が躍ったものだ。長年答えのでなかった問題に解答を叩きつけることができる。
しかし、この再現にはどうやら魔法が必要なようで、今の俺にはできない。一応wikiにはネタバレが書いてあったようなのだが、自分で確かめたい気持ちからそこを読むことは無かった。
だからこそ魔法を使って見たかったのだが…使えないのであれば、この蓄えた知識も今は無用の長物だ。どうせならもっと別の本とか読んでおけばよかったな。大型ハドロン衝突型加速器の構造とか。
「んー、シャル、魔法文化が根付いてる星って割とすぐ作れたりする?」
『…いえ、星の作成は基本的にランダムかつ、生物や文化が根付くかどうかは完全に運です。そもそも生物が生きている方が稀な程、星というのは難しいバランスの上で成り立っています。なので暫くは生成して観測、生物が絶滅すれば破棄、文明が確認できれば保留といった形が続くでしょう』
「なるほどね。ちなみに今の保留の星はいくつ?」
『3つほどです。いずれも環境が厳しい中で根付いている星なので、今行くのは危険な星ばかりです。なお、魔法は使えません』
かなしいかな。星という物はすぐにはできないようで、シャルですら必死に作っては廃棄を繰り返しまくってやっとのことでいくつかの候補を作っているだけだ。タチの悪いガチャだな、滅ぶべし。
仕方ない、観光がてらまたセレーネにでも行くか、と思ったとき。
『…言いづらいことなのですが、実はもう1つだけ保留している星があるのです』
「なんだよ、隠してたのか?」
『その惑星には…魔法があります』
「いやちゃんとできてるじゃねぇか!じゃあなんでさっきあんなこと言ったんだよ?」
『ええ…それもなんというか…理由がありまして』
『かつて高度な文明があった…既に滅んでいる星なのです』
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