先輩の研究と、相棒と勉強を

九条先輩が、銃を所持していた。

形としては四角に近い。どうやら折り畳みができるようで、ちっちゃいキーストラップもついてる。装飾は無しに等しく、持ち手の部分に麻雀牌の中が描かれているだけだ。

なんということだ、俺の研究室で犯罪者が出てしまうとは。しかも銃刀法違反。やはり技術力がありすぎるとそっちに走ってしまうという噂は本当だったのだな。

俺は心を鬼にして携帯を取り出し…



「ちょ、ちょ~~っと待ってや!!まだうちは潔白でありたいんや!」

「それは罪を認めているということでよろしいか?」

「ちゃ、ちゃうんや!お願いや話を聞いておくれや~!!」



既に俺の携帯の電話先は「11」まで入力してある。この先を入力して国家権力のお世話になるかどうかは彼女の返答次第だ。

九条先輩はわたわたと手を振り回しながら解説を初めた。いやそれはいいんだけどその銃は置いてくれ、銃口がこっちに向くたびに怖いんだわ。



「ええか?まず初めに言うておくが、こん銃には殺傷力は無いで。試しに撃ってみてもほらこのとーり」



九条先輩が自分の手のひらに撃つと、ぺちりという音がして手から玉が転がり落ちる。

弾丸の形は本物に似ているようだが、どうやらプラスチック製のようで確かに威力は無い。九条先輩の手が赤くなっていたりもしていない為、殺傷力が無いというのは本当のようだ。

…しかし、自分の体を使ってパフォーマンスするのは、ガマの油売りを思い出すな。大丈夫?血とか出さない?



「んでここからが本番なんや。この銃のメインコンセプトはな…ずばり、【追尾ミサイルの小型化はどこまでできるか】や!」

「…はー、ってことは誰が使っても当たる銃ってことか。チートだなそりゃ」

「せや!最強やろ?でもな、これには正直デカすぎる欠点があるねん…」



オヨヨ…と悲しみの表情で訴える動きをする。別に悲しんではいないのだろうが、ちょっとかわいらしく感じる。女性に体性が無い人だったら割と普通に落ちちゃうんじゃないだろうか。


そんな彼女の言葉に反応したのはシャルだった。



「弾丸の形ではこの程度の威力が精一杯、ということでしょうか?」

「正解や!花丸満点やで!その通りでな、威力を出そうとすると大きさがデカなって、飛距離を伸ばそうとすると威力が減るねん。だからこの銃は殺傷威力を意図的に減らしてるわけちゃうくて、これが限界なんよ」



そう言って近くにある的からあえて外して撃つ。弾丸はギュイと曲がって的に当たったが、表面を少し撫でる程度で着弾。そのままぽてりと地面に落ちた。

うーむ…なんというか。いやこの技術自体はめちゃ素晴らしいものではあるんだが…いかんせん武装としては程度が低い。

この技術だけの価値で言えば低いかもしれない。


だが、うちにはとっておきの人(AI)がいるのだ。一見失敗に見えるかもしれないが、その非常に有用な研究成果を俺たちで使わせてもらおう。


前に少し雑談をした時に聞いたのだが、「物をそのまま解析した時、技術類もデータとして保管されるのか」という問いに関して、「技術だけであればスキル枠になる」と言っていたので、今回はそのタイプで登録してもらうか。


ヌイとミグがオートエイム銃で遊んでいる間にシャルにこっそり話しかける。



「…シャル、どうだ?」

「解析中ですが…この技術は既存のデータにはないものですね。新規データとして登録し、使用できるようにしておきます」

「ちなみに威力は?」

「この銃をそのまま出した場合は先ほど見た通りですが…ご安心を。私の解析によって実戦にて使用できる威力にまで引き上げることができます」

「流石。ほかのガジェット類も期待してるよ」

「…当然です」



シャルがぷいと顔を背ける。が、横顔が赤くなっていることがバレバレだ。やっぱAIといえども褒められると照れるのか。なら今後も積極的に褒めていこう。俺は褒めて伸ばすタイプだからな。


俺はシャルの背中をポンと叩いて遊んでいるみんなに混ざりに行く。

さて、ほかの技術も盗まないとな。シャルが。



---



「…てなわけで、うちが開発してた技術はこんなもんや。どうやった?」

「すごかったねぇ」

「…やっぱ九条先輩って天才なんだなって思いました。素直に尊敬したので敬語にします」

「飲んだくれているだけの先輩じゃなくてよかったのぉ」

「とても参考になりました。またの機会があれば是非とも勉強させてください」



みんなが口々に感想を述べる。

実際技術力はぴかいちだった。みんなが手放しでほめるのもわかる。…ヌイはだんだん適当になっていったが。

今回学んだ技術としては、手持ちパイルバンカーとか、杖型天候変化デバイスなどがあったが…どれも単体では使いづらい。しかしどれも素晴らしい技術なのは確かだ。

そしてその技術を生かすも殺すも使い手次第。その点で言えば最強の味方がいるんだから問題は無い。


とっておきの力も手に入れたしな。


シャルがふんすと鼻を鳴らしながら改造した腕をガチャガチャと動かしている。先ほど言ったパイルバンカーを早速腕に組み込んだようで、射出と装填を繰り返している。よほど気に入ったのだろうが、その対応の速さに九条先輩がビビり散らかしてるからやめてあげてほしい。



「ま…まぁ、どうせきみらはもうこの中研のメンバーなんや。今後の顔を合わせるやろ?そん時にまた開発したもん見せたるわ」

「そうですね、また今度来ることにしますよ。…新しい力が欲しくなったらね」

「その言い方やと闇落ちした人間っぽく聞こえるからやめとき」



その言葉を最後に俺たちは研究室から出た。今はここでやれることは無い。俺自身の研究も別にここでやる必要は無いし。

九条先輩は楽しい人ではあったが、だからと言ってとどまる必要もない。俺はヌイとスリリングでありつつチルったりできる旅をしたいだけなのだ。過剰な攻撃力は要らない。



さてどうしようか…と考えながら帰路につこうとするが…校舎傍に置いてある自転車を見て思い出す。



「あ、移動が楽になるものの勉強しないと…」



俺の今の目的は「いろんな星をヌイと観光する」にシフトしたんだった。なぜかシャルがデバイス関連で技術の向上を狙ったせいでちょっとブレかけてたな。

図書館で「登山の基本」でも読もうかな。



---



先程と打って変わって静かになった研究室で、振っていた手をところもなく下げる。

ふぅ、と一息入れて元の自分の席に戻り、先ほど買っていたビールをプルタブをぷしゅりと開ける。


ごくり、ごくりと研究室に響き渡り、今この部屋には自分しかいないのだということを再認識させた。



「はぁ…またうち一人か…」



寂しさに身をよじりながらそう一人ごちる。

この研究室に所属してから独り言が多くなった。

少しでいいから、もう少しだけ遊びに来てほしいという気持ちはある。しかし、言ったら言ったで義務感で来る人だっているだろう。そうやって義務感で来る人というとは大抵私と話が合わない。だから誘い文句というのを私は言わなかった。


何度か溜息をついた後、飲み干した缶をゴミ箱の方に投げて、入ったかどうかを確認することなくPCの画面に向き直る。



「でも…いいデータが取れて満足やわ」



カタカタと軽快にキーボードを打ち進め、データをまとめていく。

沢山のウィンドウが出たり消えたりするが、私が見ているのは常に一つ。


シャルちゃん。


あの子は、私の研究対象になった。

確実に何かを隠しているし、舞野はそれを知っている。…ヌイちゃんはどうか知らないけど。あの子なんかぽわぽわしてたし。


だから…探ろう。


そしてその為の協力者が必要だ。

手早くメールを開き、最近よく連絡を取り合うようになったとあるアカウントに連絡する。




『拝啓 "企業"様へ』

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