研究室で会った、相棒とは別のヤツ3

「わはは!ウチ1人やから気をつかわんで良くてせいせいするわー…………はぁ、人と喋りたい…」



先程まで結構元気に喋っていたはずの九条先輩は急激にがっくりとうなだれ、近くの椅子に腰かけた。

ここから見ても、彼女の容姿は結構整っているように見えてちょっとドキッとする。髪色は黒で、肩ぐらいまで伸ばしてある。服はYシャツにネクタイを付けており、スタイルは細目の美人だ。


そんな美人が…がさがさとコンビニの袋を漁ると、割と有名な缶ビールを取り出した。


哀しみの表情をしながらぷしゅりとプルタブを開けるその姿は、まるで婚期を逃した仕事帰りのOLが一人寂しく晩酌をしている様子を想起させ…なんだかこっちまで悲しくなってくる。もうすごい哀愁が漂ってくるんだよ、誰かこの人に話しかけてやれよ…



ちらり、とミグを見る。確かこいつはこの研究室行ったことがあると聞いたし、九条先輩と何か関係があるようなふりをしている。

なので話しかけるならまずはこいつだろう。


そんなアイコンタクトを感じ取ったミグが、やれやれといった様子で椅子から立ち上がり、九条先輩の方に向かって行った。言ってなかったけど俺はよくあるような簡易的な人見知りを発症している。だから呼び鈴の無い飲食店の時のように積極的に声掛けしてくれる奴がいて頼もしいね。


ミグは音を立てずに近づいていき…何も気づいていない九条先輩の後ろに立つ。

そして耳元に顔を近づけると、小声で語りかけた。



「昼間っからそんな酒を飲むなんてのう…残念な先輩じゃけえ」

「…………うわぁッ!!!!……がふ、ごほ…」



九条先輩は飲んでいたビールを噴き出して咽る。そらそうだ、一人だと思ってたら後ろから急に声をかけられるんだもんな。多分俺も同じぐらいビビるし、部屋中を転げまわるだろう。


彼女はまるで不審者でもいるかのようにバッと後ろを振り返り、恐怖の目でミグを見つめる。



「だ…誰や…?」

「ここの研究室の人間じゃけ、覚えとらんか?」

「…んー?そんな特徴的なしゃべり方する人忘れるわけないと思うんやけどなぁ…?」

「うんみゃあたしかに、わしと先輩は直接会って話はしたことなかったさかい、覚えとらんのは仕方ないことじゃけ」

「じゃあわかるわけないやん!騙しよったな!!」



くすくすと笑うミグと、騙されたことに怒る九条先輩。

ぶちまけられたビールの事も忘れ、わちゃわちゃと言い合いを始めるその光景は、なんだか少し微笑ましく思えた。なんというか…年端もいかぬガキをからかうおばあちゃんのような感じ…え、これ普通逆では?


…ん?、ミグって九条先輩と何か関係があるんじゃなかったのか?なぜ今回が初対面のような反応を?


まぁ…わからないことを今考えたって仕方ない。後で聞くか。

そう思い、影で待機していた俺たちも九条先輩の前に顔を出すことにした。



---



「ほ~、そんなこんなでうちのところを訪ねてきたってことかいな。まぁええで。減るもんちゃうし、何より同じ研究室仲間やからな!」



九条先輩の机の周りを掃除した後、みんなが座れるようミーティングエリアで話すことになった。今回はヌイも普通に座っているので、俺も安心して席についているぞ。

俺たちの本当の目的を隠しつつ、それとなく技術を見せてほしいという感じに話をしたところ、割とノリのいい感じに承諾してくれた。自分の技術に厳密な人じゃなくて助かった…

一番の問題は、彼女が何を研究して、どんな技術を持っているかを知らないというところだ。今のところ俺が抱いている印象は「仕事帰りの三十路OL」でしかない、ということを彼女に伝えたらきっとこの話は破談になるだろう。沈黙は金なり。



「やけど…そうやな、ウチだけ見せるってのもなんか不平等って感じせん?どうせなら、そっちからも誠意ってモンを見せてもらいたいなーってウチは思うんよ」

「だってよシャル、その腕でも見せてやれ。多分この先輩にはそれが一番効く」

「承知しましたマスター、では私の機能を一部開示させていただきます」

「やったぁ!シャルちゃんの腕見たかったん…マスター?」



一瞬シャルが俺の事をマスターと呼んでいることに気を取られた九条先輩だったが、ガシャンと変形する腕を見た時点でそんな些細な疑問は吹き飛んだようだ。興味が完全にそっちに引っ張られている。


そうやって遊んでいる二人を置いて、俺はミグに話かけた。

先程疑問に思ったことを聞いてみようと思ったからだ。



「…なぁ、ミグ。お前って九条先輩と知り合いじゃなかったの?」

「そうじゃ。研究室に来ることはあったが、その時は偶然にもおらんかったようでの。…まあわしも頻繁に訪れたり長時間滞在とかもせんかったけ、タイミングが合わなかったんじゃろ」



何を当たり前なことを、といった表情でミグが答える。

うーん…ここから考えるに、認識があったのは九条先輩本人ではなく、九条家全体の話ってことか…?だとしたら辻褄は合うけど…ミグは九条家と関係があるということになる。


今までそんな話聞いたことなかったが…まあ言いたくないこともあるかと思いつつ、疑問に思ったら聞かずにはいられないと思ってさらに話かけようとしたが。



「オイオイシャルちゃん…!キミの体は一体どこまで機械でできてんの…!!もしかしてこのおっぱいもか!!」

「そこはマスターが触る用なので生身です」

「はい終了ーーー!!!!九条先輩は早く技術見せて!!シャルは悪ノリをするな!!」

「そこまで隠そうとするなんて…もしかしてマジ?」

「はい詮索やめてくださーーーい、シャルとは別にそういう関係ではありませーん」

「スー?私のもスー専用だよ?何なら使っても…」

「シャラップ!!!今はお利巧にしててくれ相棒!!」



どいつもこいつもクソボケしかいないのか。

シャルは自分の体を生身とか言うし、九条先輩は変な方向に気づきを得ちゃうし、相棒は…まぁかわいいからヨシ!でも後で叱っちゃおう。

とにかく…俺がツッコミをしないといけないのが大変だ。アニメとか漫画のツッコミ役ってこんな大変だったんだな…当事者になって初めてわかる苦労もある。



「なぁ、なんでシャルちゃんは舞野の事をマスターって呼んでるん?」



やっぱりそこ突っ込むんだ…


「そういうあだ名だから」ということでひとまず理解してもらった。やっぱり最初のうちに全部説明しないからこうなるんだぞ、まあしないけど。




しばらくボケとツッコミの応酬で時間を使った後。

場も落ち着いた雰囲気になったところで、本来の話が切り出される。



「…ふー、じゃあとりあえずウチが研究してる内容から話すわ。そっからやとどんなモンが出てくるか想像しやすいやろ?」

「まぁ確かに、話に主軸があった方がいいことは認める」

「では賛同も得られたところで…ウチの研究はこれや!題して、【架空の技術が現実で使用できた場合のリスク及びその検証】!!」



ばん!と効果音が付きそうな勢いで近くにあったホワイトボードにでかでかと書き込んだ。ちなみに文字は割と綺麗なので読みやすい。

…いやまぁ別にいいんだけど、大学で研究する内容がそれなのか、と少し思った。

いやこの研究が世の中に不必要かと言われればそうではないし、むしろいいぞもっとやれと思うほどだが…よく教授が通してくれたなその研究。これ普通の一般人レベルだったら絶対に無理難題だぞ。特に実証の部分。

それを一介の大学生にやらせるなんて…相当に自信があったんだろうな。



「…私の腕の構造を理解していたようですので、相当技術力がありますよ。期待していいと思われます」

「シャル…ナチュラルに俺の頭を読むなよ」



そんな会話をする俺たちを傍目に、九条先輩は近くにあった段ボール箱をがさごそと漁っていく。

「これじゃない」とか「これは関係ない」とか言いながらぽいぽいとデバイスっぽいものを投げる様子は某青狸に似ている。

そして目的のものを掴み取ったかと思うと、思い切りそれを天高く上げた。



「じゃじゃーん!オートエイム銃~~!!」

「銃刀法違反だ!!!!!!!!」



技術とか以前に犯罪でした。

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