話題の中心と、相棒とお友達
「んで…図書館についたわけだが」
「…わしがいた時より三倍ほど人が増えておるぞ…」
ミグにこれまでのあらすじをざっくりと説明した後、しばらくしてから図書館についたのだが。
なぜか人が多い。それも男性の比率が。
…いや、なんとなく察しがつく。どうせこの渦の中心にはヌイがいるのだろう。
ヌイの可愛さを知ってしまった皆が、「おい、あの子かわいくね?」「あんな子いたか?今日の飲み会にでも誘おうぜ」とか下心満載で話しかけているのだろう。
全く…本当に嫌な連中だ。胃がむかむかする。
俺の中の独占欲が体をちくちくと傷つけて、だんだんと痛みが溜まってくる。スマブラで言えば50%ぐらいの吹っ飛び率。
「…はぁ、嫌だ。男の下心ってのは、なんでこうも溢れ出すのを押さえられないのかね」
「カズだって男じゃが」
「それも含めてだ」
嫉妬心も、独占欲も、どんな物だってドロドロとした感情であれば下心だ。悲しいかな彼らの気持ちがわかってしまうのも俺が俺を嫌いな理由でもある。もっと仙人みたいな生き方でもできないかな。
そう思いつつ、人々の中心へと向かっていく。ああ、なんかちょっと懐かしさがあるな。
あれはそう…ルミナの村に行ったときと一緒。あの時も同じように向かって行ったっけ。心情とか状況は違うけどな。
最終的にはヌイのおかげで気持ちが楽になった。…そう考えると、考え方は今回も同じか。
この状況を、楽しむ。
「んじゃ、この有象無象を乗り越えて相棒を助けに行くとしますか」
「おおう、急に積極的になったのう…」
「ホレ、お前もついてこい。俺の相棒とちゃんと話をしてみたいだろ?」
「い、いやぁ~わしはこの後予定が…」
「さっき無いって言ってただろうが!!行くぞォ!!!」
嫌がるミグの手を引っ張って人混みの中をずんずんと進んでいく。もしヌイをナンパしている野郎でもいたらひっぱたいてやろうかとか、襲おうとしている奴がいたらぼこぼこにしてやろうかとかいろいろ考えながら。
ヌイのいるであろう方向に進んでいくと、だんだんと声が聞こえてくる。
「おおー、すごいんだね…君の…」
「ねぇ君、うちの………来ない?」
聞こえるのは途切れ途切れだが、どんな会話かわかる。
どうせその胸囲の大きさがとても脅威だねとか、うちの家に来てツイスターゲームでもやろうみたいなことを言っているのだろう。馬鹿め、ダジャレだろうとそんなカスのお誘いだろうと女というものは靡かねぇんだよ。
俺はどんどんと足を速める。こうしている間にも、ヌイは困ってるんだ。
なんて返してるのかは知らないが、俺が行ってやらねば。
「ぐぉ…か…カズ!もう少しスピードを落とせ!さすがに疲れ…わぷっ!」
「っ…ああ、すまんミグ…ちょっと気が急いてた」
「まぁそれはいいんじゃが…そのせいで注意力散漫になってはいかんぞ?」
ぐ、やっぱり知らず知らずのうちに焦りが出てきちまう。そのせいでミグを掴んでたことすら忘れてたもんだから、ミグとしてもたまったものではないだろう。
彼を気遣ってやろうと一度振り返る。
すると…そこに見覚えのある影が。
「おぬしを探している影を見つけたものでな。じゃから…」
「スー!!!」
ヌイは器用にミグの上を飛び越え、俺に抱き着いてくる。もはや某怪盗がベッドにダイブするときの動き。
このままだと床に叩きつけられる…と思ったが、ヌイの匠な重心移動によって倒れることは無かった。むしろ王子様が女の子を抱くときのようなポーズをしているようで恥ずかしい。なお、王子様はヌイの方。
「スー!大丈夫だった?寂しくなかった?やっぱり今度から私も一緒に講義受けようか??」
「…ヌイ…」
「スー、いいんだよ?辛かったら私が養ってあげるから…」
「恥ずかしいから…やめて…」
周りのざわめきが今の俺たちの異様さを表しているようだ。頼むから見ないでくれ。
恥ずかしすぎて手で顔を覆う。めちゃ顔が熱いぞ。熱か?熱だな、早く帰らせて。
「おぬし…なんというか、すごい相棒じゃな…」
「ミグ…みないでぇ…」
「あ、君がスーの知り合いのミゲル君?私はスーのパートナーのヌイ。宜しく」
「…ほう?このわしにそのように自己紹介するとはのう…。わしはカズの親友ぞ?パートナーごときに地位が劣るとでも言うのかえ…?」
なんか知らんが俺を挟んでバチバチと火花を向けあっている。ヌイは俺を通して存在は知ってただろうけど、ミグからしたらヌイは初対面だよな?なんでこんな因縁の相手みたいなこと言い合ってるの?
というか俺との関係とか別にどっちが上でもよくない…?シャル、お前だって傍から見たら急に俺に絡み始めた知らん奴なんだぞ。これ以上俺の地位で遊ぶんじゃない。
「ごとき…?私とスーがただのパートナーってだけの関係に見えるのであれば眼科をおすすめするよ」
「ッはー! わしのこのぴちぴちの体が衰えているとでもいうってのかい?それに関係性を察するのは眼科に行けばわかるようなものじゃないんじゃよ~~~??ん~~??」
壮絶な煽りあいだ。何人たりともこの空間に入ることはできない。
俺?俺はすでに空気になってるよ。みんなの目線も、俺に対して向けている奴などいない。カメレオンと同じぐらい擬態能力が高くなる。こんなスキルがネクラ内でも使えたらなぁ…
そんなことで言い争いを渦中にいながら傍から見るというおかしな状況が続くこと数分。
今までヌイがいると思っていた方向の人がどんどんと少なくなる。まるでモーセが海を割ったときのよう。
カツ、カツとヒールのような靴音を立てて人が近づいてくる。
そして、俺たちの目の前で立ち止まると、そいつは言葉を発した。
「まったく…何をやっているのですか、マスター、ヌイ様」
「は…シャル…?」
見た目は、ヌイよりかは小柄。
髪の毛はとても長いブラウンの髪色なのだが…手入れをしてないのかと言いたいぐらいに癖がついている。そのせいで多分後ろの人からだとこいつの輪郭すらつかめないだろう。
そして服に…メイド服を着ている。いや…これはメイド服を改造してスチームパンク風味をつけ足している。謎のケーブルがメイド感をめちゃ損ねている。だったら最初からスチームパンクで行けやと思ってしまう。
極めつけは、右腕がロボットのアームであるという部分。これは俺がシャルを纏っていた時と似たような形なので見覚えがあった。
…何故か知らないデバイスが取り付けられているようだが。
成程…見た目はアレとして、シャルが形態変化でもしたのだろう。まあ十八番だし。
だとしても…
…………何故…人型に………………。
俺はシャルを作り出す時、人型にしちゃったら俺はきっと女性にしちゃうなガハハ!と宣っていた気がする。さらには測量機械を積んだロボット人間になるとも。
なってるよ…女性に。機械積んでるよ…腕に。
シャルを見る為に覆っていた手を開いたことを後悔した。
俺はもう一度閉じると、夢だったら覚めてほしいと願う。どうせ夢じゃないんだが。
「シャル!聞いてよ!こいつがさ、私とスーの関係を"如き"って表現したんだよ!?ひどくない!?」
「……ヌイ様、ここでは目立つので別のところで続きを話しませんか? なお、マスターもご一緒してください」
「んー…確かに、ちょっと目立っちゃったかな。いいよ。とりあえず外出ようね、スー?」
「…もう好きにしてくれ」
一番問題があるかもと思ったヌイとの関係だが、完全に俺の杞憂だったことが判明したのはいい。
けど…シャルが勝手に人型になるのは予想できないだろうがァ…
抱き着いたままだったヌイは、そのまま俺をお姫様抱っこで運んでいく。
もう羞恥心で周りが見れない。俺はコアラみたいにヌイに引っ付くしかなかったし、ヌイもそれを楽しいんでいるようだったので変なところでwin-winの関係が築かれている。
そのまま図書館の扉を出て行こうとする時…後ろから声が聞こえた。
「…なんじゃったのだ……。わけがわからんのう…」
そんなの俺もわからないに決まっているだろうが。
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