大学で講義を受ける俺と、相棒とは別のヤツ2

講義は13時からだったので、ヌイ達を図書館のところに置いてきて俺は教室へと急ぐ。

なんで部外者のヌイが大学に入れてるかって?普通にセキュリティが甘いからだ。

校門のところで学生証の提示とか求められないし、そもそも食堂が一般開放してあるからな。

んで一応図書館のところには学生証をスキャンするところがあるが…シャルに何とかしてもらった。一家に一台シャルの時代が来るやも。


図書館と目的の講義室は少し遠く、早歩きで急ぐ。

一応来るまでにちょっとだけおにぎりを食べたので一旦は大丈夫だが、講義が終わった時にまたお腹減ってそうだなぁなんて考えながら。



「あれ、カズやい」



まるで競歩のようにシャカシャカ歩いていると、隣に並走してくる見覚えのある奴が話しかけてきた。

そいつはネットで知り合ってとある話題にて意気投合した、同士であり腐れ縁である。大学に入学したら隣の席の奴がまさかネッ友だったときは二人して叫んだものだ。なおそのあと教授に怒られた。

非常に線が細く、華奢な手足をしていて、女性特有のかわいらしい顔立ちをしている。服は男物ではあるが、あふれ出る魅力という物が抑えられていない。

…そしてなぜか、めちゃおばあちゃんみたいな喋り方をする。



「…久しぶりだな、ミグ」

「ええ?そんなに久々だったかいな?」

「そうだぞミグ、今日もかわいいな」

「いや男じゃから!?かわいいって言われてもうれしくないんじゃ!」



…なお、こいつは男である。声変わりに失敗して女の子の声のままだが、男。

どれだけ容姿が女の子でも、男なのだと彼は言ってきかないのだ。

ちなみに名前は中村ミゲル。最初名前を聞いたときマジかよと思ったが、親がスペイン人とのハーフらしい。でなけりゃその日本人っぽくない顔立ちにも説明が付く。



「まぁとりあえず今は急ごうぜ。話は後だ!」

「うぇ!?ちょ、ちょっとまちやー!」



今時計を見たら後一分後に始まるみたいだったので全力でダッシュした。

…なんであいつも俺と同じように遅れてるんだ…?


---


「…んで、結局あんゲームはどうなったかえ?」

「…長くなるから後でもいい?」



授業中。ミグはよくわからんといった感じでペンを唇と鼻の間に挟みながら小声で話しかけてくる。

ノートには板書を取ろうとした痕跡すらない。せめて書いてくれ。そしたら俺が勉強する時間ができるから。



「長くならんように短く頼んでええかい?」

「そうもいかないのがGクラクオリティなんだ」

「…は~、そりゃ難儀やねぇ…」



このままごねても俺が離さないことを悟ったのか、仕方なくペンを取り板書を写していく。

綺麗な文字を書くな…と思っていたのだが、またすぐ飽きたのか、今度は落書きを書いていく。


鼠、牛、トラ、ウサギ、ヘビ…とデフォルメしまくった十二支を書いていたところで、手が止まる。



「時にカズよ」

「なんだ」

「先程な、授業の前に一度図書館に行っておったんじゃ。そしてそこに…見知らぬ女性がいてな。あまりの可愛さに人が集まっておったぞ」

「…そうか、ミグも女性を恋愛対象に見るもんな。で、なぜその話を?」

「……カズよ、おぬし…そやつと一緒にここに来たみたいじゃのう?そして仲が良さそうに会話しておった…」

「見間違いでは?」

「図書館の二階はガラス張りじゃ。ついでに言うと校門が良く見える。あとは…わかるじゃろ?」



ミグの柔らかそうなおばあちゃんみたいな雰囲気はどこへやら。まるで何百何千年と生きてきた妖狐とでも喋っている気分だ。なぜかわからんが重圧がすごい。

鋭い目つきが俺を縫い付け、その場からの逃走が許されない状況まで陥らせる。なるほど、ゲームとかで逃げられない闘いってのはこういう状況の事を言っているのか。心で理解できた。



「あいつは…あー、まぁ…俺の相棒だよ」

「ほう…相棒とな。確かカズの頭の中にもおったじゃろ?そやつはもう捨てたのかえ?」

「捨ててない。それどころかむしろ前よりも大事になった」

「それならなぜ例の女性を相棒と…」

「…」

「………もしや…」

「…話は長くなるって言ったろ」

「二人目…?」

「ちゃんと説明するから黙っててくれねぇかな…」



表情をころころ変え、最後ははてなマークを浮かべた後、元の雰囲気に戻った。疑問は人を冷静にさせる。謎が知りたかったら一度立ち止まって考えてしまうのが人という生き物。それはミグも例外ではないらしい。


そんなわけで、やっと時間時間ができたと俺は前に向き直りノートを取ろうとすると…



キーンコーンカーンコーン



「はい、じゃあおしまいなー。今日やったとこテストに出るからなー。板書してない奴は終わりだと思え」


無情にも鳴り響いた鐘の音に合わせ、教授がさっさと退出する。プロジェクターもすぐに片づけられ、ノートに書き留めようとした内容は陽炎に消えてしまう。

俺のノート板書率…50%。首が半分ぐらい締まる。いとかなしき。


まぁ仕方ない。板書したとしても内容を理解できなければ意味が無いのだ。実際俺は全然意味が分からないまま書いてたので、結局ミグと同じ程度でしかない。俺たち二人そろってバカコンビだ。



「ふぅッッ……んぅ…やっと退屈な授業が終わったのぉ」

「今日の俺の授業はこれだけだから別に退屈でもなかったが」

「ずるいのじゃ!!わしは今日一日講義が盛りだくさんだったのじゃぞ!!」

「ッ!…」



ミグの言った「わし」という一人称で、ヴィクトルの事を思い出す。

少し冷や汗が垂れる。いまだにあいつの強さを思い出すと体が震える。あの光景はゲームだと思い込もうにも、あまりにもリアルすぎた。

そんな俺の異変を察したであろうミグは、俺の顔を覗き込んで心配そうな顔をしている。



「…どうしたのじゃ?体調でもわるいのかえ?」

「い…や。気にしなくていい。ちょっとその一人称に心当たりがあっただけだ」

「…む、そうか。じゃったら変えようか?」

「そこまで気を使ってもらう必要は無いよ。むしろちょっと気が締まった」



確かに今でもヴィクトルは怖い。勝てる気がしないし、俺は覚えていないが串刺しになって死ぬなんてことは繰り返したくない。

だが…俺がもっと力がついて、もっとヌイやシャルと連携が取れるようになったら再戦するつもりだ。ヌイにはしばらく戦いたくないとは言ったが、それでもやられっぱなしは好きじゃない。


だから…俺はヴィクトルを恐怖の対象ではなく、倒すべき敵として見たい。



「ミグ、この後時間あるか?」

「なんじゃ?デートのお誘いかえ?」

「なわけ。ちょいと図書館まで相棒を迎えにな」

「……そうかえ。じゃったら…その相棒さんとやらとの馴れ初めを聞かせてもらったら一緒に行ってもいいぞ?」

「そりゃさっき説明するっつったからな。ちゃんと話をしてやるよ」



一瞬暗い顔をしたと思ったが、その後俺の返事を聞いてパァッと晴れやかな顔をしてくれた。うーん、とてもかわいい。この可愛さでなぜ俺と同じ年齢なのだろうか。

…とはいっても、俺もこの年齢で背が低いから何も言えない。この背が伸びないせいで毎回ヌイには後ろから覆い被さられるし、未だに中学生とかに間違われたりする。多分ミグが感じている感情と一緒。マブダチだぜ俺ら。

とにかく説明してやらんとな。では、俺の俺による語りを始めさせてもらおう。



「んじゃ、まず一から説明してやる。そうだな、時はさかのぼること一昨日…」

「もったいぶった割に全然さかのぼらないのう」



このオーディエンスはお小言が多いみたいだ。今日の公演は荒れるぜ。

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