大学に行く準備と、相棒の容姿の問題

昨日は、本当に大変だった。

多分、これ以上無いってぐらいの大往生だ。一日で異世界に行って、町に行って、めっちゃ強い奴に遭って串刺しになって死んで、そのあとかわいい女の子とキスして寝る。

意味わからんレベルで大変だった俺の体は、いつまでも休みを欲している。


しかし夜の時間というものは必ず終わるもので、日が昇って朝を知らせる。

太陽の光が、いつにも増して強いように感じた。眩しい。


眠い目をこすりながらスマホを見ると、時間はすでに11時を回っている。



「げ…もうこんな時間か…」

「…んがっ……あれ…スー?」



俺が寝ているヌイをゆさゆさと揺らすと、変な声を一声鳴らして目を開けた。

今日は大学がある日なのだ。

講義があるのは午後からだが、そんなに暇があるような時間帯でもない。



「ヌイ、シャル、今から大学に行くけど…今考えたら、シャルはともかくヌイはこのままだとまずいな…」

「へ…?何が?」

「そのデカめの耳の話だよ」



俺がそうやって耳を指さすと、彼女はピクリと大きく揺らす。

その仕草はまるで犬のようで、かわいらしいなぁと思った。だが…今そう考えている余裕はない。

このままだと、ヌイを置いて大学に行くことになる。それは何というか…俺が好きじゃない。仲間外れにしている気分になるし。



「…スーがつけたんでしょ」

「そうでした!俺のせいですわごめん!!」



そうだった。俺がヌイを作成した時に勢い余ってつけたんだった。じゃあこうやって困ってるのも俺のせいじゃないか。

自分の首を自分で絞める行為に気づいたことで気分が冷静になっていく。

よし…問題があるのなら、解決方法を探るだけだ。



「シャル!ヌイの体って、作り直すことは可能か?」

「ヌイ様の体はすでにヌイ様の物となっていますので、マスターが変更を加えることはできません」

「え…もう私の体って私の物なんだ?」

「…権限ってこんなとこまで影響すんの…?」



ヌイの体は、すでに俺の製作物ではなくなっているらしい。

…ん?だとすると、それってどのタイミングでなったんだ?

ヌイの話だと、俺と彼女の間でのパスが切れたのは、ゲーム内で死んだタイミングだと言っていた。

パスが切れた時点で製作物は消えるということもシャルから聞いていたので、それを合わせると…俺が死んだタイミングなのか?

ならやっぱ権限の問題か。ヌイは俺の所有物ではなくなったようだ。いや…もとからそんなことなかったが。所有物というよりイマジナリーフレンドだし。もうイマジナリーの部分は消えたし、フレンドというよりパートナーだ。



「…じゃあヌイ、その耳消すことは可能?」

「せっかくスーがつけてくれたんだもん、大事にしたいよね」

「うれしいこと言ってくれるけど今じゃないッ…!!」



ヌイは照れながら耳を撫でてそう言った。

まるで彼氏からの贈り物に喜んでいる恋人のようだ。その贈り物がデカすぎるケモミミなのはさすがに人としてどうなのと思う。本当にどうしちゃったんでしょうね、俺。



「まぁでも、見られて困るっていうなら隠すよ」

「え、できんの?ヌイが思ってる以上にデカいんだよ?」



疑惑の目でヌイを見るが、彼女は自身満々に胸を張ると、耳をぐぐぐと曲げ始めた。

ちょっと心配になるレベルで曲げていくと、あるところを境に違和感が少なくなる。

形でいえば、犬が耳をぺたんと下げているようだが、ヌイの髪色も相まって前髪の一部に見える。

ここに帽子でもかぶったら違和感ほぼゼロの純粋にかわいい女の子の誕生だ。



「ほら、できたでしょ?」

「おぉ…すごいな。でも、ずっとそれ維持するの大変じゃない?」

「言うほど大変じゃないよー。感覚的には指を折り曲げてるイメージかな」

「頭に指とかそれなんて触覚」



うにょうにょと動かすヌイのケモミミを見て、こんな自由に動かせることにちょっと違和感を抱くが、これで問題が解決できたなという安堵の感情によってかき消される。


よし…これで目下の問題は一応解決した。

シャルも見た目を通常の形にして貰う。これで完全に違和感が無い。


まだ冷蔵庫に買い貯めしておいたご飯やらが残ってはいるが…今は食べないことにした。

今から大学に行くなら、ついたころにはちょうど良くお昼の時間帯だろうと予想した為だ。



「…しかし、夏に黒のトレンチコートか…暑そうだし、何より周りからの目が…」

「マスターはやってから後悔するタイプですね…ヌイ様の時もそうですが、マスターが作ったのですよ」

「そんなんわかってるわぃ…」

「…はぁ、見た目はともかく、暑さはこちらで調節できるので気にしなくていいですからね」

「助かる」



試しにシャルを羽織ってみると、確かに涼しい。肌に当たる部分が適度に冷えており、それでいて凍傷になるほど冷たすぎるわけでもない。いい塩梅。

コート内に風も通っており、多分シャルを動かすときのファンの風が体を通っているのだと思う。ちょっとぬるい風ではあるが、冷たくなった肌を温めるのにちょうどいい。


これはいいなと思ってそのまま着ていたいが、まだ寝間着…というか昨日の服と同じだ。さすがに着替えたい。

そう考え、シャルを脱いでまた椅子に掛ける。そうしてとりあえず着替えるか…と服に手をかけたとき。



「…そういえばヌイ、服ってもしかして…」

「うん、スーの服を着るよ」



そうヌイが言い放つと、おもむろに服を脱ごうとする。が、俺はあわてて阻止する。

ヌイはきょとんとした顔で見る。なぜ俺がこんな行動をしているかわからない顔だ。その顔をするのは俺のはずだろうが。


イマジナリーなときならよかった。だってあの時はそもそもちゃんと見れてなかったし、見れたとしてもお着換えシーンはカットだ。例え妄想だとしても健全でありたい。

しかし今はどうだ。リアルな肉体がそこにあり、その薄っぺらな布を取り払ったら子供の教育に悪いシーンが再生されてしまう。どんなにお行儀のいい子供も、そんなアダルトな物を見てしまったらたちまち大人の仲間入りに。


しかもヌイの体は、何度も言う通りめちゃくちゃ誘惑的だ。細すぎず、だからといって太すぎない。しかし出るところは出ている上、むちっとした太ももが俺を狂わせる。

そして俺が前に来ていた服はYシャツ。なので今俺がそれを着ていない以上、ヌイがYシャツを着ているのは確かで。

胸の部分伸びるシワが、バストの大きさをこれでもかと主張していた。



「……ヌイ、君はもう少し自分の魅力を自覚した方がいい」

「それでスーが見てくれるならいいことでしょ?」

「…シャルーーーッ!!!助けてくれェ!!俺じゃヌイを止めることができないッ!!」

「…世話のかかるマスターですね」



ヌイは煽るような顔で俺に体を見せつけてくる。クソぉ、俺が好きなローアングルから見るポーズをするんじゃない。

それ以上されると俺の子供がどんどんと大人になってしまう。今は中学生ぐらいだ。高校生になったらもう大人と遜色ないぞ。

だが…そんな急に成長して傲慢になった子供を諫めるのは親の役目。ここはオカンに出動してもらおう。



「ヌイ様。マスターが困っていますよ」

「えー、でもスーに見てもらいたいし…」

「ほら、シャルおふくろ!バシッと決めてくれ!」

「何か今含みがありませんでした? …まあいいでしょう。いいですかヌイ様」



おかん…もといシャルが続ける。



「ヌイ様が魅力的なのは間違いないです。理由は…そうですね、今マスターの陰茎の肥大率が増大し続けていることからも察せます」

「おいシャルゥ!!!個人情報やろがい!!」

「ですが…その魅力はマスターだけでなく、ほかの男性にとってもそうでしょう」



シャルが俺の身体状況を晒上げたせいでそれどころではないが、ヌイの体を見て他の人が興奮するのは…優越感というより、俺の相棒で興奮するなんて不遜だぞと感じてしまう。

…これが独占欲だろうか。昔も似たようなことがあった気がするが、昔よりも強く独占欲が出ているような気がする。


まるで俺の言葉を代弁するかのように、シャルが答えを出す。



「ずばりマスターの気持ちを言いましょう。魅力的なヌイ様を見れるのは俺だけにしてほしい。これですね」

「ッ…スー…ほんと…?」

「…言い方はアレだけど、ほんとだよ…」



あまりにもズバリというシャルの言葉を肯定すると、ヌイの目が潤む。表情は安堵そのものだ。


…なんか思った反応と違うな。相棒だとしても束縛はちょっと…みたいな反応されるかも、と思ったのだが。

いや…ヌイは監禁発言してたし、そういう関係を望んでるのか…?



「私たち…両想いなんだねぇ…!」

「着地点そこなんだ…」




そうしてそのあとも話し込んでしまったせいで、どんどんと時間が過ぎていく。

結局、無事に家を出発できたのは12時頃だった。

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