【灰の君主】との闘い④

「スー!!今こいつ止めるから!!!」

『な…小娘が…ッ!』



ヌイは物陰から顔を出し…ついでにクソデカいバリスタも出してきた。なんだそれ…俺知らないぞ。

バリスタには船についている錨のようなものが装填されており、その後ろには長いチェーンがじゃらじゃらとつながっている。


成程…!回転しているヴィクトルに巻き付かせて止めるってことか!

今までそれを準備してくれてたわけか…!信頼して割と適当に託しちゃったけどさすが俺の相棒!!



「fire!!!」



シャルの叫びと共にアンカーが射出され、するすると飛んでいく。

回転しているままのヴィクトルは、その力を急に止めることはできないらしく、がりがりと巻き込んだまま回転していく。

だが、バリスタ一つだけではまだパワー不足らしく、少し回転が弱まったぐらいだ。それを感じたであろうヴィクトルは回転の力を弱めることなくさらに強めようとする。



『くっ…だが、この程度でわしを止められると思うな!』

「ならお代わりだね!あとどれぐらいいける?!」



シャルが物陰から同じものをプラス5個出してきた。今使っている奴と合わせて6つ分ここで作ったのか…

というかヌイ、いつの間にバリスタなんか学んだの?俺構造わかんないんだよ?



「もともとは全身を絡めとる用に細工もしてたけど、相手が回転してるなら問題ないよねぇ!!」

『ぬおお!!貴様ァ!!』



ヌイが残りのすべてを射出すると同時に、ヌイ目掛けて剣が飛んでいく。

だけどそれを見過ごすほど俺も動けないわけじゃない。



「シャル!」

「了解。では、こちらも射出モードに入りましょう」



右腕の液体窒素射出機が、形を変えていく。ガシャリガシャリと音を立てて変わったそれは、弓を横にしたような形。

いわゆるクロスボウの形を取った。

ウィンチで自動巻き取りとかできればよかったが、まだそこまでの機構は無い。俺が理解してないしな。


クロスボウのレールのところに液体窒素が流れている。これで作れってか。ありがたいね。

液体窒素を形状変化させ、鋭さは無い矢に変化させる。今回は貫きたいわけじゃないんだ。



「fire」



冷静に飛んでいる剣に狙いをつけ、射出。なお、狙ったのはシャルの方なので、俺はただ自分なりのイケボでしゃべっただけだ。


ガキッ!!と音を立て、ヌイに向かう軌道を反らすことに成功する。クロスボウに変化するのがもうちょい遅ければ多分無理だったと思うとぞっとするな。



「スーならやってくれると思ってた!」

「さんきゅ!だけどこれ俺の力じゃないんだわ!」

「それでも!だよ!」



ヴィクトルの剣はヌイの後ろの壁に刺さり、ヌイのアンカーはヴィクトルに刺さる。完全にこちらのアドだ。

アンカーはヴィクトルの上から下までを執拗に絡めとり、回転の勢いがどんどん失われていく。



『小癪なぁぁぁぁ!!!』

「引きちぎろうとしても無駄だよ!私の鎖はそこらの物とは違うんだからね!!」



ギャリギャリギャリ!!と音を立てて鎖とヴィクトルの灰の鎧が絡みついていく。

それはもう雁字搦めになっていき…回転速度は目に見えて遅くなった。



『…クソ、こうなったら解除を…!』

「スー!!今!!」

「わかってる!!」



ヴィクトルが鎖から逃れるために灰の鎧を解こうとするが、その際の隙を見逃さない。

右腕の武器をクロスボウから剣に変え、液体窒素の形状変化で形を伸ばした。槍ではなく剣にしたのは、点ではなく線で切れるからだ。今の鎧が弱い状態なら斬撃でも届く…!



「撫で斬りだ!!」



シャルに限界までプロペラを回してもらって速度を付け近づき、まず一発。

未だに鎖が絡みついているヴィクトルに避ける力はない。

この剣のいいところは、斬るところがメインじゃなくて液体窒素を中に入れることができるという点だ。なので灰を無力化しつつもヌイが撃ったアンカーを斬ることはないこと!


灰の鎧の動かせる部分だけを動かして飛ばした剣を避け、二発。

ヴィクトルが灰を作る際の熱をきっとここでも使っているだろうから、凍らせた部分は時間が経てば溶けていくだろう。

だがそうなる前に全力で叩き潰す!!


もはや動かせる部分は少ない。上に飛んで切り上げで三発、振り下ろしで四発。

奴の灰の鎧は既に虫の息だ。むしろまだ当たらないのかと少し疑問に思うほどだが…逆に今小さく動いている部分に奴がいるということ!!



「主!次が最後です!!」

「なら最後にどでかいのを決めてやろうじゃねぇか!!」



俺の思考を理解したシャルが、右手の武器を変形させていく。これを最後の変形とする!!


その形は…投げ槍。

ヴィクトルが作っていたようなパイクではなく。俺が作っていた刺す為の槍ではなく。投擲特化の投げ槍だ。

槍の先端には、俺が形状変化させた液体窒素が鋭く張り付いている。その鋭利さは、触るだけでも傷つくだろう。

ジャイロ回転を付けるために後方に行くにつれてぐにゃりと曲げられている。それはまさにライフリングのよう。

さらにシャルのサービス精神から、後方に【熱】の知識を応用したブースターが取り付けられている。かっこいいぞ!!



「これが俺の投擲戦技だ!!!」

『させるかぁあああ!!!』



より威力を高める為、威力をチャージする。少し時間がかかるが、確実に貫くためだ。

その時間でヴィクトルも守りの準備をしている。どうやら盾を出すようだ。残った灰をかき集めて必死に作っている。


いいだろう…今回で矛と盾、どちらが上かを証明してやる!!



レージガー ヴルフシュピースなげやりな投げ槍!!」



昔言いたかったセリフをやっと言えたと満足しながら、投擲。


ボシュゥ!!という音を立てながら飛んでいくそれは、音速を超えた。

音を置き去りにし、ヴィクトルに…着弾。


凄まじい爆音が鳴る。爆発の音で、まさに爆音だった。

余波で盾以外の灰がほぼ吹き飛び、奴の姿が現れた。その槍が目指すのは奴の心臓部。

先ほどの灰の鎧の時ですら貫けたのだ。盾程度で貫けないわけがない。



しかし…奴はそれを受け止めた。



「がぁあああッ!!!この程度ォぉおおお!!!」



いや…正確には受け止め続けている。ものの数秒で貫くだろうが、まだだ。

奴はまだ、生きている。



「あの時…あやつは矢をそらすことができたッ…!!ならばわしにできないことはないのだ!!!」



嫌な予感がする。このまま貫けるだろう、という気持ちはある。だが嫌な予感が抜けない。

もしかして…俺がやった矢そらしを…奴はこの土壇場で成功させようとしているのか?

それをやられたら…エネルギーを使い切った俺にできることは無い。



「【我が王たる所以を見よVoyez la raison de ma royauté】!!」

「…んな…ここで新技ァ!!??」



奴が何か叫ぶと、今まさに貫こうとしている槍の横から灰が飛んできた。そして槍にぶつかると、少し軌道がずれる。

それを何度か繰り返し…ヴィクトルに到達するころには、心臓の中心部からはだいぶずれていた。



奴は槍を食らった。


しかし、致命傷ではない、右腕に。



それは、絶望を知らせるには十分だった。


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