【灰の君主】との闘い①
「…どういうこと?それがあればあなたは死ぬことが無いんでしょ?」
「そうだな、確かにわしはここで蘇る度、助けられたと感じているよ」
「なら…、なおさら何故、と聞いていいのか?」
あまりの恐怖があったはずなのだが、灰の君主の発言によりすべてが疑問へと変わる。
疑問は質問を作り、質問は言葉を紡ぐ。
「………これだけでは、王の意志など図れない、か。やはり勉強になる」
「は?何言って…」
「わかるように言ってやろう。…今は実験中なのだ、邪魔をするな。おとなしく帰らないのなら…」
灰に、帰るがよい。
奴が、そういった瞬間。
空気が変わる。
灰の君主を中心とし、灰が形成される。
触れていた祭壇はさらさらと宙を舞い、足元から広がっていくその灰は、もともとは結晶や花々の集まりであり、すでに灰化してしまった場所は見る影もない。
しかしセーブポイントと思われる光だけはいまだに残っており、いまだ灰化に飲まれてはいない。だが、きっとこのまま放置すればあまり想像したくないことが起こりうることも確かだ。
奴は、作った灰をどんどんと自分の周りに取り込んでいく。その光景は圧巻ではあるが、これから戦闘が始まるのだと予感させるには十分だった。
灰化が俺たちを飲み込もうとした時、俺は何をやっているんだと自分を叱咤して声を張り上げる。
「…ッ!!ヌイ!シャル!戦闘態勢!このままだとここ壊されるぞ!!」
「ごめん!」
「…これが、【灰の君主】ですか…」
小さな島を囲んでいた湖の水は、目で見て分かるほど減ってきている。おそらくそこも影響範囲に入っているのだろう、きっとすぐにこの泉も枯れる。
俺たちは全力で橋の上を渡り、対岸に着く。
振り返ってみてみると、俺たちが渡ってきた橋すらも灰と化していた。もう少し遅かったら崩落によりもはや湖と呼べなくなった水たまりに落ちていたことだろう。
灰化はどんどんと進み、周囲から水が消え去った時点で…止まった。
島の真ん中でいまだに立っているであろう奴を見ようとし…驚愕した。
奴は…灰の君主は、まさに【灰の君主】だった。
周囲の環境がなんであれ、奴は灰を作り出す。
灰を自由自在に操り、奴は鎧を作る。武器を作る。
奴は、灰があればどれほどでもパワーアップできるのだろう。その灰ですら自分で作り出せるのだ。
だからこそ。
灰の鎧で覆ったであろうその体は、鎧というより新しい体だった。
灰の剣で武装したであろうその武器は、剣というより大木だった。
奴の大きさは見上げてしまうほど大きく…ゆえに奴は俺らを見下す。
まるで、それこそ王であるかのように、それこそ国民の姿であるかのように。
強い。
少なくとも生半可な気持ちで戦って勝てるような相手ではない。
そしてこんなデカい奴を相手取ったことも無い。
クソが、俺はただの一般大学生だぞ、画面内ですら大迫力だった大型ボスを実際に見たら、足がすくんですぐにでも逃げたくなる。迫力を超えて威圧感がびりびりと肌に伝わってきて、正直ちびりそうだ。
が。
「なぁシャル…あいつの攻撃、解析したら俺らも使えるようになるんだろ…?」
「…ふふ、流石主ですね。離脱を進言したのが恥ずかしいぐらいです」
「どうせまたトラウマになるからとかそんな理由だろ…。そんなことより…何分生き残ればいい?」
にやりと笑みを浮かべ、【灰の君主】を見据える。俺は何分生き残れるだろう。
戦略などない。ただ泥臭く、みっともなくあがいて、奴の攻撃を見る。それが俺の今の仕事。
「15分…いや、10分です。10分で…解析しきってみせましょう」
「頼りになるな…ヌイ!これからどうするかわかるな!」
ヌイは俺の言葉に、少し悲しみながらも笑みを浮かべた。それが俺の望むことであれば、という覚悟が見て取れる。
ヴィクトルは確実に近接殺しだ。近づいたが最後、対策も無しだとそのまま灰になる可能性だってある。だとしたら遠距離メインになるのだが…そうなるとヘイトを受け持つ人間が必要になる。なるとしたら、俺とシャルだろうな。
それを理解したヌイは…必要であれば、唇から血を流してでも見守るという覚悟をした。
その覚悟を、俺は見届けた。俺は彼女が俺を守りたいという意志を変えさせたんだ。
今から、俺の覚悟を見せなければならない。
「これから10分間!!!俺は腕がちぎられようと足が捥がれようと!!!全力であがく!!」
人生で一番長く感じた10分間が、今始まる。
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シャルは調査用装備に切り替え、ヌイは俺から離れる。奴の攻撃に二人とも巻き込まれないためだ。
俺は…できる限り戦闘に使えそうな装備を考える。防具はシャルがいるから…武器を。
『そういえば…まだわしの名前を言っていなかったな…』
灰の君主、というより灰の王となった奴は、デカい声で大気を震わす。
奴の周囲に漂っている灰がその声の波長を見えるようにするほどデカい。
『わしの名は…ヴィクトル。お前たち国民どもの王となるものの名だ、覚えておくといい』
奴…ヴィクトルの腕が伸びたように感じた。腕には嵐が纏っており、攻撃力はきっと相当なものだろう
その腕は数秒もせずに俺を潰す。一瞬そんな未来が見えたが…シャルの声で現実に引き戻された。
「主!」
「オーケー!」
俺はいつぞやにヌイが使っていたロイター板で上に飛んだ。飛んだというよりは躍り出たと言った方が正しいぐらいに制御ができてないが、この戦法が通じそうということは理解した。
ありがとうヌイ、多分あの時使ってなかったら俺思いついてなかったかも。
ヴィクトルの腕は地面を砕き、砕けた地面すらも灰と化す。なんだこいつは、なんでこの星が灰まみれになってないのかが一番の不思議ポイントだ。
俺は簡易パラシュートのようなものを作り、とりあえず落下速度を落とす。だが、このままだと空中にいるところを狙われてしまう。
なので、これもまた思いつきで提案をしてみる。
「シャル!俺が構造さえ理解していれば、神パワーで強くなるんだよな!?」
「ええ。使い方が分からない武器は使えないですからね」
「なら…今回はうちわじゃなく、もう少し時代を進ませてみるか!!」
俺は、市販の扇風機…と呼ぶにはお粗末だが、人を運ぶのに十分なパワーが出るモーターとプロペラを呼び出した。それぞれ別の回転となるよう、2つ。
昔少し気になって扇風機の仕組みについて調べててよかったな…まぁあの時は首振りの仕組みについて調べようと思ってたんだけど。
「シャル!電源よこせ!こいつを動かして空中戦としゃれこむ!」
「ほんと、急ですね主は…!」
シャルはポケットの部分からケーブルを伸ばし、モーターへと繋いだ。ちゃんと電源がつながれたのか、モーターは勢いよく回りだした。
強い風圧にてバランスを崩しそうになったが、パラシュートをパラグライダーに作り替え、それぞれを合体させることで何とか保持できた。
『…面妖だな』
「お前よりかは全然普通だよ!」
ヴィクトルが腕を戻しながらそう言い放つ。いやほんとこいつの方が面妖だ。
これで、空中を飛び回れる。多分だがあいつの灰にする力は、直接触れていないとダメなのだろう。地上にいたら多分地面ごと俺も灰にされて終わりだ。ヌイが今大丈夫なのか少し気になる。あの時割と勢いとノリで言っちゃったから今何してるのかわからないんだよね…
『しかし、空を飛んでいる鳥を落とすのは、遊びで慣れている』
ヴィクトルはその体に見合うほどの大きさの弓を作り出した。いやお前もそれできるのかよ、と思ったが、どうやら灰でできているらしい。俺の能力の下位互換ではあるが、今そんなことを考えている暇はない。
これ見よがしに弓をギリギリと引き絞る。その照準は確実に俺を狙っており、慣れているという言葉は嘘ではないようだ。
「やべっ、シャル!腕生やせるか!?」
「できます。私が守りますか?」
「いや!パラグライダーを保持してくれ!!」
シャルはコートの形状を作り替え、新しく作り出した2本の腕にてパラグライダーを掴んだ。
これで、俺の両手が空いた。あとは、守る方法を考えるだけだ。
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