洞窟探索と、相棒と俺の危機
「しかし、こうやって地上から眺めるのは新鮮ですね。今までは空から眺めるような状態だったので」
「たまには地に足をつけた方がいいぞ、じゃないと人の気持ちがわからないポンコツになっちまうからな」
「地上を歩いていたところで物の構造すら理解できない空っぽの脳みそを持つことになるならしない方がいいですね」
「貴様ーー!!主に向かってその物言いはサポートの立ち位置としてどうなんだ!!!」
このAI、あまりにも挑発スキルが高すぎる。もしかして挑発のスキルの修復でも狙ってるのか?いやないわ。これガチで俺を煽りに来てる。しかも服だから叩くと俺にもダメージが来る。なんだこいつは、無敵か?
「それにしても…ほんとに魔物いないねぇ」
「…調査してみたのですが、この洞窟には敵のスポーン設定が無いようです。なので、セーフエリアですね」
「ほー、じゃあシャルが置いたのはセーブ地点ってこと?」
「そうなりますね」
俺たち一行はすでに光の洞窟の中に入り調査をしている。
入口付近で見えていた光は洞窟を照らす光であるらしく、光源になっている光の玉のような物がふわふわと浮いている。
洞窟内は外とは違い神秘的な雰囲気であり、空気が澄んでいる。静寂が身を包む中周りを見渡すと、洞窟の壁や天井には無数の結晶が埋め込まれており、その一つ一つが光を反射して洞窟内を七色に彩ってくれている。
少し先に進んでみると、光の結晶の輝きは一層強くなり、足元に引かれている石畳ですらうっすら発光をはじめた。
石畳はなめらかになっており、シャルの調査によると自然にできたものだとか。
進むにつれて壁に様々な模様が描かれているのを見つけた。苔むしている具合から随分と昔に描かれたのだろう。内容は何を表しているのかはわからないが。
「あ!ギルドの依頼用でちゃんと調査しないと!」
「おっと忘れてた、完全に観光気分だったわ」
思った以上に綺麗な洞窟で見惚れてしまうところだった。きっと地球にも似たような場所があったらそこは有名な観光地になることだろう。むしろ俺が観光ガイドを作ってもいい。
調査なら何が描いてあったを記録するのも必要だよな、と思ってシャルに模写を依頼しようとして…やめた。写真みたいに精巧にしてしまうと技術を疑われる可能性があるのだ。俺が模写する為に、ルーズリーフをこの世界基準の形にして出そう。形はソフィアが持ってきた契約書で見たことあるし。
ヌイは俺が描きやすいようにハケのような物を出して土埃を払ってくれている。言わなくてもわかるなんてツーカーか?
そうして数分程簡易的な絵を描きながら進んでいくと…洞窟の中央らしきところについた。
「おおーー!!すっごいきれいだねぇ!」
「ああ…これは神聖なオーラとか無くてもすげぇ場所だってわかるわ…」
洞窟の中央には、広い空間が広がり、天井が高く開けている。ここには大きな地下湖があり、湖面は静かに波立ちながら、光の結晶の反射でキラキラと輝いているのがわかる。
湖の中央には、小さな島が浮かんでおり、その島には美しい光の花が咲き誇っている。この花はどうやら結晶から生まれているようで、少しだけだが鉱物としての特徴も残している。
「ねぇ、あの島のところに行ってみようよ!」
「そうだな!俺もテンション上がってきたからいく!」
湖の周囲には、石造りの橋や階段が配置されており、訪れる者が安全に湖の中央まで辿り着けるようになっていた。橋や階段にもまた、光の結晶が埋め込まれており、歩くたびに足元が輝いていく。まるで光の道だ。
島の真ん中には大きな祭壇が鎮座しており、その祭壇の中からひときわ大きい光が輝いている。おそらく村の人がご神体として祀っているのはあれの事だろう。祭壇の周りには捧げものとかがいろいろ置いてある。
「うわーすげーまぶし…」
「これがセーブポイントなの?にしては神聖化されすぎじゃない?」
「おそらくですが…設置した場所が場所だったので、誰かが祭壇を作成したものと思われます」
シャルがそう言うとポケットからアームを取り出して周囲のスキャンを始めた。セーブポイントについてももちろん、捧げものについても調べるようだ。見たことないけど…食べれるのかそれ?腐ってない?
スキャンしている間暇なので、地面に座りながら周囲を見ていた。なかなかきれいな景色だ。あとでシャルにスクショでも取ってもらおうかな。確か例の部屋に額縁が置いてあったはずだし、あそこに飾ってもらおう。
そう考えながら、ふと入口の方を見る。
俺は特に何も考えていなかった。ただ、一応帰るときの道でも確認するかの軽い気持ちで。
そもそも、ここはシャルが言ってた通りセーブポイント。警戒する必要もない場所だ。
だから、だろうか。
異物というものは、周りが綺麗である程目立つもので。
「…誰だ?」
「スー?どうし…ッ!?」
俺は立ち上がって剣を取り出し、ヌイは驚くと同時に構えを取った。
そうしなければならない。そうしないときっと殺される。そのぐらいの殺気がそれから溢れている。
それは、人であり、人ではない。
それは、見覚えがあり、見覚えが無いもの。
「主、緊急離脱を進言します。勝つことはできません」
それは、村に置かれていた像と同じ。
黒い鎧。巨大な剣。そして…あの時見れなかった顔。
「…灰の、君主…」
「…………」
像とは違い、魂を揺るがすほどの気迫。
そんな奴の前に、俺たちはこれ以上動くことができなかった。
---
「…ふむ、これもまた信仰心なのか…?」
「…お前は、灰の君主でいいのか?」
「国民からはそう呼ばれているのだな」
「国民…?」
話している間にも、灰の君主は近づいてくる。どうやら目的はセーブポイントのようだ。俺らに目を向けることはないが、俺らが動くことはできない。
「おぬしら国民は、この場所が何かわかっているのか?」
「…一応わかっているつもりだ」
「では何だと?」
ギロリと刺し殺すような目が俺に向けられる。その目に少し体が恐怖を覚えるも、何とか考えを絞り出す。
こいつはここがセーブポイントだということは知っているのか?用途を知っていることをこいつに馬鹿正直に話したらどうなる?
少し考え、一旦の答えを出す。
「ここには魔物と呼ばれる存在が近づかないほどの神聖な場所。つまり神が守っている場所だ」
レイエスやソフィアから聞いた話を総合して考えられる村としての知識を出すことにした。
曖昧だが、ここが重要な土地だということは知っている。そのぐらいであれば、落胆はされても失望まではいかないと踏んだ。
その考えが成功だったか失敗だったかはわからない。
だが確実にわかることもある。今俺が殺されてないということは、先ほどの言葉で命を繋いだということ。
灰の君主は鼻をフンと鳴らすと、祭壇に触れた。
「国民の知識なぞそんなものよな…いいだろう。特別に教えてやる」
「ここはな…死んだ後生き返れる場所なのだ」
その返答に、俺含め全員が恐怖した。
奴はセーブポイントの存在どころか、使い方すら知っている。
それは…奴を倒せないことを意味する。奴が諦めることでしか、存在を消すことができないことを意味している。
「わしはこの場所で何度も生き返りを繰り返すことができた。だから…わしは死ぬことはない。が…」
既に俺らは何も話すことができない。ただ、奴が言葉を紡ぐのを待ち、まだもう少しだけ生きていたいと考えるのみ。
だが、次に発した奴の言葉に、俺らは困惑の最高潮を経験することになる。
「そんなもの、いらん。だから破壊しに来た」
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